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「0から実利を生むのは想像以上に大変」 社内起業の生々しい実態 vol.1

■ゲスト:金丸 美樹 氏
株式会社 SEE THE SUN 代表取締役CEO。滋賀県出身。大学を卒業後、1998年に森永製菓株式会社に就職。ビスケットのマーケティングや「ハイチュウ」「チョコボール」などの広告の業務を経て、新規事業部に配属。同部では、アンテナショップの立ち上げにも参画。食品業界初のアクセラレーターを行った後、食にまつわる社会課題の解決を目指して株式会社 SEE THE SUN を2017年に設立。Food Value Chain Innovationを起こすべく、「作る人から食べる人まで」様々な人との共創プロジェクトを起こす。
■インタビュワー:合田 ジョージ
株式会社ゼロワンブースター 取締役共同代表。

合田:今回は森永製菓さんからスピンアウトして、「SEE THE SUN」を創業された金丸さんにお話を伺います。どうぞよろしくお願いします。

金丸:よろしくお願いします。

合田:まず当時企画を考えたときのことを伺いたいのですが、ご自身の事業が当たるか当たらないか、会社はどのように判断されたのですか。

金丸:どのように判断するかというより、そのときはトップも「とにかくまずはやってみよう」という雰囲気でしたね。

会社にそのような意思決定をしていただけたのは、とても嬉しかったです。ただ当時の反省としては、もっとユーザインタビューなどをすれば良かったとか、PDDD(やりっぱなし)になりかけたというのがあります。

そこから次どうしたらいいのかを自分の中では蓄積しているんですけど、実行するだけでも大変だったから、それを見える化したり話したりするまでは手が回りませんでした。

合田:社内新規事業は、経営陣に認められなければ始められないというのがありますよね。起業家の場合は、会社を辞めれば誰でもスタートできるじゃないですか。投資家を回りまくったら、中には「いいね」と言ってくれる人もいます。社内の場合だと、色んな投資家を回る訳にもいかないので、その辺り苦労されませんか。

金丸:そうですね、ダメと言われたらダメですからね。そのときは、まぁネタを変え品を変えかな。

合田:とりあえず刺さるまでやるイメージですか。

金丸:刺さるまでやるというか、しっかりと事業の戦略も練らないといけないですけど、通るための戦略も練らないといけないという感じですね。「How to」は会社によっても違うし、うちでは通るけどあっちでは通らないとか。上司の性格に寄ったりとか。あとはその人自身のキャラクターなど、複合的なことで決まっていくと思っています。

嫌ならやめればいい話ですが、しつこくやることが功を奏することもあるので、その辺は嗅覚とセンスとタイミングしかないと思いますね。

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社内調整をどれだけストレスなくやれるかが大事

合田:社内起業を見ていて思うのが、「辞めて挑戦したほうがいいんじゃないかな」という人もいるんですよね。何回も突き返されたら嫌になってしまう人もいると思いますが、その辺りどう思いますか。

金丸:何がやりたいか次第だと思いますね。自分が企画した事業をどうしてもやりたければ、本当に外に出て、色々聞いて他から投資してもらうように働きかけると思います。だから「事業を通して実現したいことが何なのか?」ということによって、そのまま会社に居たほうが良いか、独立してやったほうが良いかを判断できると思います。

あとは多くの企業で社内向けビジネスコンテストとか結構あるじゃないですか。あれは鍛えるという意味では良いと思うんですけど、その中から1個を選ぶのではなく、10個とかもっと多く選んで挑戦する人を増やせば良いのにと感じますね。

合田:そうですね、それはありますね。

金丸:トライする前に叩いてもらうのも大事ですけど、なんかそういったので、社内の人はとても疲れてしまっている気はしますね。確かに通すための資料作りも大事なんですけど、そこはバランスですよね。

自分のエネルギーの注ぎ方としては、これは通すために必要なことだからと割り切っています。そこに対して感情的になると疲れてしまうので、社内調整などの本質的ではないことを、どれだけストレスなく上手くやれるかは大事ですね

合田:何となくわかる気がします、難しいですよね。今後コロナの影響もあって、起業する人も当然減ると思います。でも逆にそういうときこそ、起業した人が勝つかもしれない。そんな中で、社内企業は今後どのように変化していくと思いますか。

金丸:それこそ経営する人の考え方じゃないですか。こういうときだからこそ、長期的な変化の中で”お客さんの行動はどうなっていくのか”をリアルに感じる必要があります。

社内起業をすると意思決定が自分なので、周りの判断に惑わされずにどんどんできるじゃないですか。事業創造する中で、やってもうまくいかないときに「じゃあどうしよう」と考え抜いた経験をした人のほうが、長期的にモノゴトをみる視点が養われます。

そうすると、例えば今回のコロナのような次の変化があるときに、他の人とはちょっと違う視点で考察することができます。これは優秀とか優秀じゃないとかではなく、その環境だと思うんですね。そういったところに身を置くような人は、視座や考え方が変わってくると思います。

会社としては、そういった人をより多く育てるためにも、社内新規事業を今まで以上にトライすることが大事だと思います。

合田:企業でよくあるのが、売上が下がったときに新規事業の予算を絞るんですよね。絶対絞らないほうがいいと外から見て思うんですけど、やっぱり中から言ったら仕方ないよねっていうのもあるんですかね。

金丸:まぁ全体から考えたら、そう来るだろうなって思いますよね。だけどそれをいかに死守するかは、社内での立ち回りなど、一種のテクニック的なものもあるんじゃないですかね。

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社内起業のチームアップはどのようにやるのか

合田:社内起業でよくあるのが、チームアップが難しいと思うんですよ。自分で勝手に連れて来れないじゃないですか。起業の場合は、来る来ないはありますが、とりあえずは良いと思う人を誘っていけば良いです。

でも社内の場合は、気が合う人がいても、既存事業をメインにやっていて剥がすのが難しい、みたいなことがあると思うんですよね。

金丸:それもうちの場合は、「気合を入れてやっていこう」というチャレンジする時期だったので、優秀な方にアサインしてもらうことができました。あと確かに仰る通りだとは思いますが、ベンチャー企業だからといって希望の人が取れているとも思わないんですよね。

逆に社内に居たほうが、そんなにお金をかけずに性格や、これまでのキャリアも仕事のスタイルもわかって、優秀な人をチームアップできるじゃないですか。「採用難しいな」「働いてみないとわからないな」ということが少ないと思います。

だってその人の元上司から「あいつこうやると落ちて、こうやるとモチベーションが上がる」とか、具体的なマネジメント方法まで聞いたうえでチームアップできたり、すぐに社内に相談できる人がいるのは良いと思います。

新規事業の0→1は、やってみないとどれほどストレスを感じるか、楽しいと感じるかが分からないと思うんですよね。合う合わないの適正の部分です。すごくいい人で優秀だけど、やってみたら意外と0→1にはやりがいを感じられないタイプだったと自分で気付くこともあるでしょうし、逆にそうでもないと思った人がめちゃくちゃ合っていた、とかもあると思います。

そういうときに、ここよりも本業で輝けるんだったら既存事業に戻れば良い、みたいなことができるのは社内の良い点だと思います。起業家のほうが、やるの大変だと思うんですよ。自分で事業を大きくしなきゃいけないのに、人のマネジメントもしなきゃいけないのはすごく大変。しかも事業つくるの初めてで起業する人は、ほんとすごいなと思っています。

100億を101億にするよりも、0から10万円を生むほうが大変

合田:確かにそれはありますね。あと別の観点で、起業の場合は究極言うと嫌ならやめちゃうことができます。ただ社内企業は大きな組織の中で行なっているので、評価を気にするじゃないですか。新規事業をやめると言うと評価が下がるのではないかと気にして、自分からは言えないですよね。

金丸:そうですね。

合田:金丸さんは気にされない方かもしれませんが、多くの社内起業家はやっぱり評価を気にしているなと思います。何をしたら評価が上がるのかという人事設計も、社内起業の場合はしっかりやらないといけないですよね。

金丸:それは一番辛いかもしれませんね。評価基準が全然違うんですけど、それが確立されていないわけですよね。そうすると寝ないで一生懸命やることが評価材料になりがちです。あとは既存事業と新規事業の売上の差ですよね。

よく0→1は、売上を立てるだけでもすごいと言いますが、100億を101億にするよりも、0から10万円にするほうが大変ですよね。そういうのも私の場合は周りに言ってもらえていたから、気にせず頑張ることができました。

今まで既存事業で大きな数字を作ってきた人であればあるほど、「何なのこれ?」と初期の小さな売上が大したことないように見えてしまいます。誰のせいでもなく、自分で自分をむなしく感じてしまいます。数字とずっと戦ってきた人はなおさらだと思います。

生み出したものの価値よりも、既存事業はアウトプットの数字がKPIだから、そこに対して辛くなる人をどうやってケアするか。そうじゃないんだよと、新規事業の評価軸を会社に対して変える働きがけをすることが大変かなと思うんですね。

合田:金丸さんは、そのときどのように自分を鼓舞されたのですか。別に誰かが褒めてくれるわけでもないですよね。

金丸:周りからはあまり褒められないですね(笑)。自分のやりたいことや自分がつくりたい世界を実現するために、自分の時間を使うこと。一つ一つ試しながらそこに向かうことはなんて幸せなんだろうって感じですね。

合田:うーん、なるほどね。一般的に社内企業は、KPI設定されて達していなかったら予算が貰えず打ち切り…そんな話が一般的だと思うんですよ。

KPI達成しなかったら失敗ってことになるのかもしれないですけど、社内起業の失敗の定義って何なんですかね。

金丸:それは成功の基準も同じで、どこまで行けば成功と言えるのかもあるじゃないですか。例えば、事業化して年商10億円になったら、ベンチャーだと成功したことになるかもしれないけど、大きな商社さんだったら10億円位じゃ全然ダメって言われるかもしれないですよね。

合田:となると最後のゴールって何なんですかね。

金丸:変にゴール設定をするからおかしくなるのかなと思っていて、IPOがゴールな人もいると思うし、掲げたビジョンを達成することがゴールの人もいると思います。社内起業でやる場合は、目指している世界を実現するために、自分の持っているものを生かして少しずつ近づくことが日々のゴールだと思っています。

合田:なるほどね。人によっては長期的なゴールがいる人もいれば、日々の成長を積み重ねることがゴールな人もいる感じですかね。

金丸:そうですね。足りないこともいっぱいありますが、自分が掲げている課題を解決することがゴールですね。そのゴールを実現するためには、自分1人の力ではできないし、自社だけではできないと思っています。

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創業フェーズに訪れる停滞期

合田:最初始めたときに、人によってはアイディアの問題だったり、チームの問題だったり、色んな悩みがありますよね。金丸さんがスタートしたときに一番苦労したことは何でしたか。

金丸:最初立ち上がった直後は、みんな楽しいのでチームは問題ないです。それよりも一番大きな壁は、事業そのものが上手くいかないことです。熱量があるからといって全てがうまくいく訳ではないので、そこからの立て直しですね。

既存事業の場合は、長年やっているとある程度上手くいきますよね。仮に少し転けたとしても、他がフォローできたりするじゃないですか。

でも新規事業は、「思ったよりも上手くいかないよね」となり、そこで誰かがフォローする訳でもないので、そのときに事業そのものの本質的な話になります。そこからどのように立て直そうかと、どうやって社内に説明しようかなどが出てくるので大変です。

最初はただ楽しいんですよ。でも事業は本当に思った通りにいかないことの連続です。上手くいかないと、「さて次どうする?」となるので、そこからしばらくはずっとその繰り返しですね。

合田:そこからどのようなタイミングで兆しが見えるのですか。

金丸:それは2年目の夏にありました。合宿でみんなと話し合ったときに、一度色んな想いを腹を割って話したんですね。私もずっと一人で考え込んでいたことを話したんですけど、みんなから「言ってくれたら良かったのに」と言われました。そこから、もう一度ビジョンから考え直そうという話になり、チームの雰囲気が変わっていきましたね。

それまでの最初の1年半は、ずっと同じようなところをぐるぐる走っていた感じです。

トップの考えをメンバーに分かりやすく伝えるために

合田:色んな意思決定は、金丸さんお一人で全部されるんですか。それとも誰か社内でメンター的な存在がいて、その人と話しながら決めているのですか。

金丸:相談はしています。ケースバイケースですが、基本的にこれやりたいなって自分が思いつくんですね。

思いついたときに、「これどう思う?」と最初の状態で相談する人や、この分野だったらこの人に相談してみようという人がいます。あとはその議論の中で、「これをやろう」と意思決定することもあるので、色んなケースがあります。

気をつけなければいけないと思っているのは、メンバーにどのタイミングで話すかですね。それはfixなのか、思いつきなのかが、ただ話すだけだと分かりにくいじゃないですか。

そこは下の人から言われて気づいて、今Slackでチャネルを分けてして管理をしているんですけど、”金丸の思いつき”みたいなコーナーがあるんですね。そこに書くと、「この人はこんなこと考えているんだ」と思うからって、チャネルを作ってくれました。

だから「今こんな人とこんな話をしているんだけど面白いと思わない?」「こんなのやりたいんだけどどう思う?」などを投げられるようになったんです。それを見る人は、「ここは金丸の部屋なんだ」と思ってみるから、別に腹が立たないようです(笑)。
 
経営者であれこれ思いついちゃう人いるじゃないですか、私はそのタイプで。そういう人は、こういう箱を用意してやるといいよって部下から教えてもらいました。

私がアイディアを入れると、そこに他社情報を入れてくれたり、サポートしてくれる人がいて、役割分担が生まれました。そこから他の人も自分の思いつきコーナーみたいなチャネルを作って、「僕もこんなの思いつきました」などの進捗とかみんな勝手に書き込んでいき、みんなで話せるようになりました。

思いついてやりたくなっちゃう人が勝手にやると、「また勝手にやっているよ」とサポートをするのが得意な人が凄くストレスを感じるんですよね。そうならないために話してやっています。

合田:いいですね。最初の意思決定に戻ると、相談する人は社内の人ですか。

金丸:最初のアイディア発散の時期は、外の人が多いです。発散して少し芽が出たくらいの頃に、社内に一報を入れておきます。そこから「この間言ってたやつアイディアが固まったから聞いてくれない?」と話す感じですね。

私がしつこく言うことによって、「この人これがやりたいんだな」と分かってくれるんですね。メンバーからは「僕はあなたのやりたいことを知っているから理解できるけど、一般の人が見たらわからないよ」とか教えてくれます。

合田:いい参謀ですね(笑)。

金丸;いい人なんですよ。ベンチャー留学で鍛えられているから、私が実現したい世界観にも共感してくれています。「自分は金丸さんのここを共感しているから、この部分を手伝いたい」と考えが明確だし、評価もあまり気にしない人ですね。

合田;社内起業は継続させるのが難しいと思うんですね。成功すれば別ですが、そんな簡単なものではないので難しいです。その中で金丸さんは、浮き沈みしないでやっているってことですね。

金丸:ギリギリ死なないように生きていますよ。

合田:継続させるコツは何ですか。

金丸:大きな勝ちを狙わないことです。滅多なことがない限りは、激しく成功することはないです。大抵の社内起業は、大きな勝ちを狙いに行くから「そうじゃないじゃん」と潰されるんですよ。

社内に対しては売上で会社に貢献することなんて出来ないので、まずはレポートの体制を整えるとか、外の人を招いて有益な講演会を開くとか、何か社内にメリットを提供します。お金じゃない貢献を一生懸命丁寧にやることです。

合田:そんな中で企業が社内起業をやる意味については、正直どう思われますか。

金丸:絶対にやったほうがいいですよ。なぜなら人が成長します。成長はスキルだけのではなくて、ビジョンに向かって主体的に動きながら、事業をどのようにドライブするのか。その事業や変化を読む力、嗅覚などの感性が育まれていきます

もしそういう人が居ない企業は、この予測不能な世の中で度々起こる変化に、迅速に対応できなくなると思います。既存事業の中ではそういったことは経験できないですし、教育できる訳ではありません。

その状況下で動けるような人を育てるためには、実践を経験させるしかありません。そういった意味では、全ての企業にとって、社内起業の仕組みは無くてはならない営みだと思います。

(作業:渡邉さくら、構成・編集:辻こうじ)


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