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なによりも食べることと食べ物にまつわることが好きな私のコラム

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ハイヒールで毛足の長い絨毯を踏むだけで、もうエクスタシーな高級レストランもあれば、コの字型のカウンターの居酒屋で、近所のおじさんたちとまみれて飲む熱燗もまたエクスタシー。 自分の…
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#食べ物エッセイ

伊藤ちゃんとデッサンとオムハヤシの話

伊藤ちゃんとデッサンとオムハヤシの話

数学者の父と娘のお正月映画を観ていて、ふと思い出したことがある。誰に見せるでもなく、成果の出ないものや認められないものでも、意味があるものもある、ということ(映画のテーマからは飛躍しているけれども)。

伊藤ちゃんは、大学の時に写真部で一緒になった、同学年の男友達だ。今でも、私と同じ街に住んでいる(はず)。伊藤ちゃんは、美術学科の絵画の専門課程の人だったので、常に絵を描いている人だったけれども、写

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占い師さんの自宅と穴子の話

占い師さんの自宅と穴子の話

長いこと編集者をしていたので、普通の人は入れない場所やあえて行かない場所にも、地方都市ではあるけれども、随分と津々浦々までに行くことができた20代だった。

動物園で働いている飼育員のお仕事取材をした時は、象を調教するバックヤードに入って撮影をしていたら、冬場なのに象に水を豪快にぶっかけられたし、誰もが知ってるようなミュージシャンも何人にも会ってインタビューをすることができたし、面白いところではラ

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18歳のバーテンダーと山田詠美とセブンセブンの話

18歳のバーテンダーと山田詠美とセブンセブンの話

思春期に夢中になったものは、呪縛のようだ。何年経っても色褪せるどころかその輝きは増して、いつでもその当時に戻ってしまうような、そんな呪縛。懐古主義的に昔を思い出して楽しんでいるなんていう、余裕のあるものでは決してない。強制的に引き戻されて、その時のあらゆる感情までが全てセットになったような、そんなトラウマのようなもの。私が高校生のときに夢中になったのは、ジュリエット・ルイス、ジャニス・ジョップリン

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サーカスとお父さんと氷砂糖と柿の剥き方の話

サーカスとお父さんと氷砂糖と柿の剥き方の話

私が小さい頃(というと曖昧だけれども、25年くらい前ね)は、地方都市の娯楽というのはほぼ皆無に等しかった。私は旦那さんと同じ年齢で、東北の決して都会的ではない県庁所在地の出身同士なので、「小さな頃って本当に娯楽がなかったよね」という話をたまにする。

旦那さんは盛岡で生まれ育って、その頃唯一よく遊びに行っていたのが、盛岡市内の公園にあったゴーカートなんだそう。彼のお父さんと友達数人と、休みのたびに

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エミコちゃんのおにぎりの話

エミコちゃんのおにぎりの話

私が育った秋田市は、中学校までが給食で、高校からお弁当だった。3年間のお弁当生活も、仕事があまりに忙しかったうちの母は手一杯だったみたいで、私が高校生の時は、お弁当は自分で準備するか学食に行くことが推奨されていた。タイミングとして母が出世していた時期だったので、お弁当を毎日作るのは煩わしかったのだと思う。

私の個人的な家庭事情は、そういう感じだったので、私自身の高校時代のお弁当の良い思い出という

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