ショートショート(6話目)タイムマシンなんてないさ

僕にそっくりな男は言った。

「僕は3年後の未来からきた君だ」

それから男は、1年後に東京で大地震がおこるとか、いま僕が勤めている会社は2年後に潰れるとか、そんな話をした。




タイムマシンなんてない。

僕は思った。

なぜなら、もしもタイムマシンがあったとしたら、未来の僕は5年前にいくはずだからだ。

5年前、僕は恋人の沙耶子(さやこ)と別れた。

原因は僕の浮気だった。

沙耶子は最高の女性だった。

いまでも、浮気をした自分を後悔している。




僕は言った。

「もしも君が未来の僕なら、5年前にいくはずだ。5年前に犯した過ちを知っているはずだからだ」

目の前の男は、僕の目をジッと見て言った。

「ああ。知ってるよ。浮気をしたのは僕でもあるからね」

「じゃあ、なぜ5年前にいかない?5年前にいって、僕の浮気を止めろよ」

「それには意味がない。なぜなら沙耶子は今から2年後に自殺するからだ」



嘘だ。

全部嘘だ。

タイムマシンなんてない。




目の前の男は続けていった。

「過去は変えられない。でも、未来は変えられる。僕はそのことを君に伝えにきた」

目の前の男は、見れば見るほど僕にそっくりだった。


僕はスマホを取り出し、ラインのアプリを起動させた。

沙耶子にあてて、僕は「ごめんね」とメッセージを送った。

こんなことをしたところで、過去の過ちは消えない。

メッセージにはすぐに既読がついたけど、返信はこなかった。

過去は変えられないのだ。





〜〜〜

最初に目に映ったのは白い天井だった。

横には沙耶子が寝ている。

(夢か....。)

やはり、タイムマシンなんてなかったんだ。



僕は起き上がり冷蔵庫から水を取り出した。

窓から差し込む光がまぶしい。

(いまは、何月だっけ?)

記憶が曖昧だった。


しばらくして沙耶子が起きた。

僕は沙耶子に「おはよう」と言った。


沙耶子は僕に

「今度は浮気しないでね」

といった。



タイムマシンは、もしかしたらあるのかもしれない。

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