ショートショート(1話目)地下鉄リニア


7時のアラームが鳴り
いつもどおりの朝がきた。

顔を洗い、髪をセットして、オフィスカジュアルに着替える。

それから3分かけてバス停まで歩いた。

バスは予定時刻を5分遅れてやってきて、15分ほどバスに乗って博多駅についた。

博多駅が始発の地下鉄リニアは2年前に誕生した。

平均時速1500キロという速さから、「地下の飛行機」と比喩された。

停車駅は、大阪と東京、仙台に札幌。

私の勤める東京までの乗車時間は約1時間。

福岡に住みながら東京で働けるなんて、いい時代になったものだ。

朝9時に東京につき、カフェで朝食をとってから会社のオフィスへと向かう。

その日は19時に仕事が終わり、たこ焼きが食べたくなったので大阪で途中下車した。

行きつけのたこ焼き屋には顔馴染みの常連客がいて、一時間ほどおしゃべりをした。

福岡市の自宅についたのは21時30分。

日課である日記を書いて、布団に入る。

23時就寝。

おやすみなさい。







2年後

地下鉄リニアに乗っているとアナウンスが流れた。

「本機、地下鉄リニアは、来月から平均時速3000キロとなります。これにより、博多、東京間が30分になります。ますます快適となった地下鉄リニアをご体感ください」

通勤時間が来月から30分削減される。
つまり、朝30分余計に眠れるということだ。

いっそのこと時速1万キロとかになればいいのに。

その日の仕事終わりは、カニが食べたくなったので、ちょっと足を伸ばして札幌までいった。

帰宅時間はいつもより遅めの23時30分。

日課の日記を書いて、布団に入る。
0時30分就寝。
おやすみなさい。






2年後

地下鉄リニアでの通勤中、アナウンスが流れた。


「本機、地下鉄リニアは、来月からアメリカ、ニューヨークが終点となります。お得な定期券は、窓口にてお買い求めください」


地下鉄リニアはとうとう海を渡った。

ニューヨークに住みながら東京勤務だって、これからの時代は可能だ。

科学の進歩はどこまで進むのだろう。

その日の夜は、福岡で家族ともつ鍋を食べて、ネットフリックスを見てたら、寝るのが遅くなった。

日課の日記を書いて、深夜2時就寝。
おやすみなさい。








2年後

東京駅の隣に何かを建築しているのを発見した。

わたしは気になって、工事の作業員に聞いてみた。

「あー、これはね、月までいける路線を作ってるんですよ。3年後には完成予定です。時速5万キロで巡航予定なんで、8時間ほどかかってしまいますがね。」

いよいよ、月旅行が身近になる。

週末に、月で月見酒をすることも可能だ。

この2年で、地下鉄リニアでいける場所も広がった。

ニューヨーク、北京、パリ、ブラジル...。

週末に海外旅行はもはや当たり前になった。

先週の休みはニューヨークでハンバーガーを食べてから、ブラジルでリオのカーニバルを観た。

今週はドバイにいってブルジュ・ハリファを観る予定だ。


さあ、週末にむけて、仕事を頑張ろう。

オフィスに入り、朝のミーティングがはじまる。

いつもと違い、神妙な面持ち(おももち)で部長が話しはじめた。

「我が社、宝(たから)文具社は、来月を持って倒産することになりました。皆さまには、大変ご迷惑をおかけしますが、ご理解のほど宜しくお願いします」

あまりに突然の宣告に私は驚いた。

この会社の文房具が好きで、福岡から東京まで通勤してきたのに...。

しかし、よくよく考えてみれば、週末の海外旅行が当たり前の時代に、文房具という文化が残っていたこと自体が奇跡だったのかもしれない。

その日の帰宅は20時だった。

私はスマホで日記アプリをダウンロードした。

今日から、日記はネット化しよう。

(いまから、時代のスピードについていけるかな)

自宅の窓から、お月さまが見えた。

優しく光るお月さまが、今日はなんだか近くに感じた。

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