自宅の「困った日本酒」を、熱燗のプロが蘇らせる! 【つきや酒店】の持ち込み燗
「困った日本酒」、ご自宅にないでしょうか。どうしても口に合わず、かといって捨てることもできず、家の奥でずっと眠る酒瓶が。
梅津酒造「冨玲」の熟成酒。これが、うちの困ったお酒でした。断っておくと、「冨玲」はおいしいのです。とても好きなお酒なのです。
実はこのお酒、渋谷にあった「燗酒BAR Gats」で自家熟成させていたもの。コロナ禍で閉店することとなった時に、お店に残っていた一升瓶を譲り受けました。もちろん、お店でいただいた「冨玲」があまりに美味しかったからです。
醸造は10年以上前。さらに、お店でも開栓後熟成し、まさにGats用にチューニングされた、すごい物です。
それなのに、家に持って帰って飲むと、なんか違う。
「冨玲」はがっしりしたパンチとぶっといコクのあるイメージなのですが…しゃばしゃばしているというか、水っぽいというか…「薄い」のです。
それならばと熱燗(レンチン)してみたのですが、これも違う。しゃばしゃばのまま、変な部分の味が濃くなって、後味の苦味が強くなってしまう。
なにかが違うけど、何かがわからない…。
このお酒は、素人の手には負えるものではない…
そうして、貴重なお酒は素人の自宅の押し入れで、さらに熟成(放置)されることとなっていました。
約2年後、プロのお燗番と出会う
押し入れとはいえ、一升瓶はでかいもの。片付けをするたびに「なんとかしなきゃな…」と思い続けて約2年、SNSでこの悩みを投稿したところ、経堂にある「つきや酒店」の方から次のようなコメントをいただきました。
話をきくと、つきや酒店にこの「冨玲」を持ち込むと、「お燗番※」である柱さんが「いい具合にしてくれる」のだといいます。
※お燗番…日本酒を熱燗にするプロのこと。
2年も放置していたこの貴重なお酒プロに見てもらうことにしました。
冨玲、まってろよ。今助けてやる。
熱燗と熟成酒がすごい、「つきや酒店」へ
こちらがつきや酒店。「にいだしぜんしゅ」の品揃えがすごいお店です。
現在、つきや酒店では店舗の併設スペースで「角打ち」という飲食営業を行なっています。※現在人数を絞っているため事前予約推奨
今回うちのお酒を診てくれるお燗番の柱知香良(はしらちから)さん。右は母・柱さんです。
熱燗飲み比べが楽しい!つきや酒店の角打ち
せっかくなので、まずは普通にお酒をいただくことに。もちろんお燗で。
つきや酒店の角打ちでは、酒屋ならではのさまざまなお酒をリーズナブルに楽しむことができます。
店頭に立つ知香良さん、実は週の半分は高校の体育教師。残り半分で、実家のつきや酒店に立っているそうです。でも、どうして教職をしながらお酒の道へ?
「僕が熱燗に興味を持ったきっかけは、お酒を配達していた飲食店の方です。うち(酒屋)に眠っていた熟成酒のなかで『味が悪くなったお酒』があったのですが、そのお酒を預けてみると、すごくおいしい熱燗にしてもらえたんです。熱燗ってアンチエイジングもできるのかって、驚きました」(知香良さん)
その後、知香良さんはそのお店の店主がはじめたオンラインサロンに参加し、熱燗を学ぶことに。一度ハマれば、実家である酒屋は「お酒あり」「道具あり」「(飲んで)味を批評してくれる両親あり」という最高の環境。熱燗トレーニングを重ね、実家の「御燗番」として活動をはじめたそうです。
いただいた熱燗がこちら。「サイズ違いの3つの平杯で比べてください」とのこと。大きすぎるとアルコール感が強くなり、雑味がでる。小さいほど味の「真ん中」要素に絞られる感じです。おもしろいです。
話を聞いて判明したのですが、知香良さんの師匠ともいえる方、私が持ち込んだ冨玲のもとの持ち主である「Gats」のマサさんでした。世間ってせまいです。
師匠の育てたお酒を、弟子が復活させるーー。期待が高まります。
プロの熱燗は、別物のようにおいしくなる!!
(常温で少し味見して)「……熟成はしっかりしていますね…でも、冨玲にしては薄いかも? でも………うん、大丈夫だと思います」
「熱燗の温度は、まずは高温、そして低温とふたつの味をみて、それから一度単位で仕上がりを探ります。加えて、このお酒は温めながら攪拌して空気を含ませます」
わずか3分ほどで、問題児だった冨玲の熱燗がつかりました。
とっくりから上る香りには…独特の熟成感(うっとなるやつ)はあります。
さらに、ここまでの薄い平杯ではなく、飲み口が「ぽってり」した酒器やお猪口にチェンジ。飲んでみると………
…うめぇ!
嘘、同じお酒じゃないみたいです。臭みがほぼなくなり(小さいお猪口だから鼻に入らない?)、飲み口が丸くなり(温度+酒器の飲み口がぽってりするから?)、まろやかなコクと旨みが感じられます。レンチンでは「バラバラ」だと感じていた味が、旨味を軸に行儀良く揃っています。
これは、おいしい。本当においしい。
「さらにここに、ミード(蜂蜜酒)を数滴垂らします」(知香良さん)
うめぇえええ!すごい!
口に入れた瞬間のクセ(クッと止まる壁のようなもの)が、ミードのあまみでコーティングされ、「甘み→うまみ→こく→余韻」までがきれいな流れに。すごい、これはおかわりしたいです。
「持ち込み燗」ができるつきや酒店
「おいしくないお酒」は、本当は、ない。
今回の体験で、本当は「(自分には)おいしくできないお酒」であり「プロが扱うとめちゃくちゃおいしくなる」可能性を秘めていることを実感しました。
「熱燗の勉強をして、ここで熱燗を出すようになって、直接お客さんの反応を得られるようになりました。お酒ごとに温度や温め方をかえたり、器を変えてみたり、お酒を提供することがどんどん楽しくなってきました」(知香良さん)
ちなみに、今回の「持ち込み燗」は、4月から誰でも可能だそうです。「自分がまだ知らない様々なお酒を温める機会だと思っています」と知香良さん。ぜひ「うちの困ったお酒」を、ここで蘇らせてみてください。
知香良さん、ありがとうございました!またお酒を楽しみに(買いに)うかがいますね。
※まん延防止等重点措置が3月6日まで延長されたことを受けて、現在角打ちの営業を休止中です。詳しくはつきや酒店様にお伺いください。
もちろん、お酒を飲みます。