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推し歴20年、時代が「田村」に追いついた!つきや酒店店主が【仁井田本家】愛を語る

日本全国、千以上の酒蔵が存在する中「うちはこのお酒を売る!」という「推し酒」のある酒屋さんにその理由を教えてもらいます。

今回は東京・経堂にある「つきや酒店」さん。福島県の「仁井田本家(代表銘柄:田村、にいだしぜんしゅ)」を推していると噂を聞き、お邪魔しました。

はじめはツンデレな店主

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住宅地の路地裏にある酒屋さんです。上はマンション。

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(店頭には、仁井田本家の空き瓶がみえます。推し確定です)

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いらっしゃいませ。

ーーあの、仁井田本家さんの日本酒の扱いがすごいとお聞きし……

え、そうですかね?

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(すぐには認めない)

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いやいやいやいや、店頭ののぼりも「仁井田本家(にいだしぜんしゅ、田村)」

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棚も仁井田本家のお酒ばかり

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冷蔵庫にはビンテージの「田村」が。つきや酒店さんは「仁井田本家」がすごいです!話を聞かせてください!

という顛末で、ご主人に質問する時間をいただきました。ようやくここから、インタビューになります。

店は自分で3代目、もう閉めようと思ってたんだ

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(店主。コロナ対策もあり、レジ前にはビニールが)

うちのお店は、昭和5年、じいちゃんがはじめました。そのころは萬屋、日用雑貨を揃えた店だったんですよ。お酒の販売はうちの親父の代からですね。

親父の代は、酒屋にとっていい時代。酒販免許に守られていて、酒を扱っていたらそれだけで売れた。でも、規制緩和があり、酒屋の強みはなくなりました。自分の代でやめようと思ってましたよ。仕事に意味を見出せなくてね。

だけど、97年かな、お店の広さを半分にして『自然にこだわるお酒の店』としてリニューアルしました。きっかけは子どもです。2人目の子どもがアトピーになって、うちのおかあちゃんが自然派の食べ物を紹介する専門誌を購読するようになったんですね。そこで『自然派の日本酒』を知ったんです。

当時はオーガニックワインのブームもあったので、それにのった、というのもありました。

仁井田本家の「田村」を飲んだ瞬間、稲妻が走った

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(自然なお酒、がテーマのため、焼酎やワインも豊富です)

「自然派のお酒にこだわるお店は全国にいくつかあって、それを取りまとめている会員制の問屋のような会があるんですよ。そこに入って、仲間と蔵見学いったり、農場見学したりですね。

ある日、会のセミナーで初めて仁井田本家の「田村」生原酒を飲みました。

稲妻が、走りました

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これはすごいって!こんなにおいしいお酒、飲んだことがなかった。

そこで「田村を育てる会」を作るからどうだっていわれて、僕、即入会です。

それから毎年毎年、酒販店の仲間が仁井田本家の蔵に集まって「今年の田村はどうすれば売れるだろう」って話し合って、交流して。それが20年数年続いているわけです。

今年はコロナで蔵にはいけませんでしたけどね、あとは2011の大震災の時も。地震が起きた日、その会の前日だったんです。駅でチケットを買っていたら揺れて…あれは覚えているなぁ。

ーー福島の酒蔵は、被害が大きかったと聞きます

瓶はたくさん割れたそうですが、蔵自体は大丈夫でした。大変だったのはその後の風評被害。仁井田本家は郡山ですので原発とは距離があるのですが、それでも「福島のお酒はいらない」という人がたくさんいた。

仁井田本家の社長も「もう終わるかもしれない」って悩んでいました。地元で、無農薬の米を育てていることが、裏目に出たんです。

うちも、ずっと取り扱ってきたけど、きつかった。うちのおかあちゃんも「お客さんに迷惑がかけるなら売りたくない」っていっていたくらいです。

でも、うちはずっと仁井田本家のお酒でやってきたからさ。

とにかく今できることをやろうって、蔵では田んぼ、畑、製品、すべての放射線量を測りました。5年くらいずっと続けていたかな、それを信じて僕達も売り続けることができた。

それでも仁井田本家を推す理由

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(仁井田本家のラインナップの一部。手書きのポップには情報がびっしり)

ーーなぜ、そこまで仁井田本家さんのお酒を推すのですか?

仁井田さんの酒蔵って、きれいなんですよ。言葉にならないくらい、清潔感に溢れている。いろいろな蔵を見てきたけど、仁井田さんは特にすごい。それが20年以上、ずーっと変わっていないんですね。

また、仁井田本家では自分たちで無農薬のお米もつくってます。いうのは簡単ですが、無農薬ってすごく大変。手間も時間もかかる。

私は、20年間通って、彼らがどれだけ苦労しているか、どれだけ真剣に取り組んでいるかを、実際に見て知っているんです。結局、最後は人と人の繋がり。私は彼らに惚れていて、つながっているから、お酒をおすすめできる。

貴重な「田村」ビンテージシリーズを試飲

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君さ、車じゃない?少し飲めるよね?ちょっと飲んでみて!

ーーはい、あ、でも買わせていただきますよ。

(カウンターの向こうから奥さんが参戦)いいから、いいから、とにかく試飲してみて。うちの「田村」は他では飲めないから!

通常、仁井田本家の「田村」は複数のタンクをブレンドして商品化するのですが、これはその前。「田村を育てる会」のメンバーで手詰めしたものです、タンクから直接漏斗で。うちではそれをさらに数年寝かせています。数も減ってきているから、今飲んだほうがいいです。

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(息子さんも参戦!つきや酒店の「お燗番」として、角打ちでお酒を提供されているそうです)

ーー飲んでみると、古酒によくある「枯れた感じ」はなく、非常にまろやか。甘みもあって本当においしいです。しかも、ビンテージごとに結構違うのが面白いです。

(息子さん)特に2016…これは美味しいんですよね。本当にとっておいてよかった。2013年ものあたりになるとアミノ酸が増えてベッコウみたいになってまたおもしろい。やっぱり、仁井田本家のお酒は唯一無二な感じがありますよね。

(ご主人にバトンタッチ)うちは熟成も提案しています。古酒じゃなくって、熟成。この熟成酒、すごくおいしいでしょう?

先ほど話した通り、仁井田本家がちゃんと造っているからなんですよ。時間がたってはじめてわかる価値です。

ラベルだけじゃこの価値って伝えきれないこともある。だから、このお酒になる理由である、造り手の取り組みや姿勢などのストーリーを、お客さんに一番近い小売店が伝えていかなければいけないと思っています。

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昔はさ、お客さんがきたら知っているすべてのことを「降ろす」感じで、ばーーーーっとしゃべっていたんですよ。そしたらまたおかあちゃんに怒られて、話しすぎだって笑 それからは聞かれれば答えるように控えています。

(それで最初はそっけなかったのか)

時代が、仁井田本家に追いついてきた

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最近かな、うちの仁井田本家のラインナップに驚いたり、熟成酒を探してわざわざ遠方から求めにきたりする人が増えてきたのは。

20年前にお店を始めた頃のオーガニックブームとは明らかに変わってきています。今の若い人たちは、オーガニックだからではなく、あくまでおいしいものを求めていて、その上でいいと感じるものを選ぶ。すごく柔軟なんですよね。

若い世代に選ばれているのを見ていると、やっと時代が「仁井田本家」に追いついてきたなって思っています。

本人も「メジャーになりたい」ってずっと言っていたし、「dancyu(有名グルメ雑誌。取り上げられることで売れた日本酒も多い)」でも取り上げられるようにもなった。

……なんか、やだな、仁井田が調子にのりそうだ(笑)

(奥様)たまに呼び捨てになるんですよ、偉そうに。

俺の方が少し年上だからね、たまに。でも、雑誌とかでみると知らない人に見えるんですよ。お前真面目かって!いつも冗談しかいわないような奴なのに。

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(嬉しそう)

ここ1年で、酒屋が面白くなってきた

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(昔の仁井田本家のラベル。今も大切に保存しているそう)

息子は別の仕事もしているのですが、コロナを機に仕事が少なくなり、酒屋の仕事を手伝いはじめました。それで勉強として、いろいろなお店で、流行の酒をばんばん買ってくるんですよ。ここ1〜2年、いろいろなお酒を飲みましたね。

それまでは飲まないようにしていたんです。余計な情報をいれたくないって。

でも、ずっとツッパってたんです。売れ筋の酒はどうせうちじゃ扱えないって。

おもしろいお酒、どんどん出てきていますよね。多種多様で本当におもしろい。

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(「勉強」として飲んだというWAKAZE。フランスのSAKEです)

いろいろ飲んだからこそ、改めて思えました。流行のお酒もいい。でもうちは、やっぱり仁井田本家がいいって。

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最近、縁あって新しい銘柄の取り扱いもはじめました。

大矢孝酒造の「残草蓬莱」、土佐酒造の「桂月」です。仁井田本家を軸としながらも、「軽やか」「フルーティー」なニーズにも応えられるように。

もちろん自然へのこだわりはありますよ。でも、執着すると宗教になってしまう。今の日本酒には、そうじゃない楽しみ方もあるんだなって。

息子の影響ですね。ここ1〜2年で、本当に考えがかわりました。
もっと日本酒を勉強しなければいけない。まだまだ、先は長いです。

(奥様)最近ね、本当に楽しそうなんですよ。

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(98年製造の貴重な超熟成酒もいただきました! 天領酒造の四季の酒。これはすごいです、どこまでも広がるまろやかさに、熟成酒の世界の扉が開きます)

店主おすすめ「田村 純米吟醸」

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ーー最後に、仁井田本家のおすすめの一本を教えてもらいました。

やっぱり、うちは「田村」。中でも「純米吟醸」ですね。

いつ、どんなシチュエーションで飲んでもおいしい。でも、決して万人受けする酒質じゃない、酒飲みが好きという酒質でもない、飲まない人を拒むような酒質でもない。バランスなのかな…不思議な魅力があります。

温めても、冷たくても、常温でも。ずっと変わらず、いつも美味しいお酒です。

つきや酒店さん、ありがとうございました!




もちろん、お酒を飲みます。