【来福酒造】蔵元が「マスクと酒造り」を語る!プロレスから学んだ日本酒道とは?
「花酵母」を用いて多彩な日本酒を醸す、茨城県の「来福酒造(らいふくしゅぞう)」。十代目当主は無類のプロレス好きとして(ごく一部で)知られています。さらに「マスク」を収集されているそうです。
プロレスと日本酒、なにか深いつながりがあるに違いありません。さっそく来福酒造へ行ってきました!
来福酒造の創業は1716年。茨城県筑西エリアを代表する酒蔵として代々栄えてきました。十代目当主の藤村俊文さんは東京農業大学出身。日本でいち早く花酵母を用いた酒造りに取り組み、今や全国的な人気を誇っています。
お気に入りのマスクとともに迎えてくれた!
ーー来福酒造十代目蔵元・藤村俊文さんです。プロレス話を聞きたいとお伝えしていましたが、マスクがスタンバイされているとは予想していませんでした。
藤村さん「実は、奥に『マスク部屋』があるのですが、そこは散らかってるんでね。(ーーあとで見れますか?)ええ、もちろんいいですよ」
ーー早速ですがこの2つのマスクは…
藤村さん「タイガーマスクと、ハヤブサです。私はプロレスの中でも、この2選手のマスクをコレクションしています。もともと収集癖があるというか、一時はクワガタにハマっていて、海外から取り寄せてブリーディングして、この部屋にもクワガタのカゴがいくつも……」
ーー今日は、プロレスの話を、聞いていきたいと思います。
幼少期の憧れだった「タイガーマスク」
ーー藤村さんはなぜ、プロレス、それも特定の2選手を好きになったのですか?
藤村さん「プロレス、特にマスクを集める人はメキシコのルチャリブレ※好きな場合が多いのですが、私は実際に観戦して好きになるタイプです。
タイガーマスクは、私が小学生のときに出てきたキャラクターです。80年代の昭和プロレスです。ずっとテレビで観ていて、はじめて生で観たのは1984年の後楽園ホール。そこでレプリカのマスクを買ってね、当時3000円くらいだったかな。ファン歴はそこからですね」
※すみません、用語注釈はしません。こういう世界だと思ってください。
ーーちなみに、マスクの相場っていくらくらいなのですか?
藤村さん「ピンキリですが…たとえばこれ(手元のマスクを引き寄せて)は、1枚6-7万はします」
ーーそんなに!(高い!!)
藤村さん「これは、佐山聡さん(初代タイガーマスク)が被ったものとまったく同じもののレプリカ。佐山さんに納めている方(=マスク職人)から買ったんですよ。ほら、マスクの内側に公認のロゴがあるでしょう?」
藤村さん「今の時代、ヤフオクとかで偽物がたくさん出回ってます。でも、私は公式しか買わないようにしています」
ーー幼少期に出会って、それからずっとプロレス好きだったのですか?
藤村さん「ええ、中学校のころは休み時間に友達とタッグリーグ戦やったり、教室の後ろの方でね。体育のときはマットでバックドロップやったり…」
藤村さん「大学時代は友達と『みんなでジャンボ鶴田を観に行こう!』みたいなことをしていましたよ。思いだすなぁ…ちょうど東京ドームで『日米プロレスサミット』があったんですよ。スペシャルドリームマッチで、カードは当日までシークレット。『スタンハンセン×ハルクホーガン』と読み上げられた瞬間、会場がうぉおおおおお!って盛り上がったなー。
もし、もし自分が酒蔵生まれではなく、身長があと10cmあったら…レスラーを目指していたかもしれませんね」
後楽園ホールで偶然出会った「ハヤブサ」
藤村さん「大学を卒業したあと、3年ほど九州の酒蔵に修業にいっていました。25歳くらいかな、関東に帰ってきて、飯田橋で日本醸造協会のセミナーに参加ときのことです。セミナーって2日あったから、近くの水道橋で泊まったんですね。
その夜、『近くに後楽園ホールがあるな』と思ってふらっと行ってみたところ、たまたまFMWという団体が興行をやっていて、ダフ屋…今はもうないのかな? ダフ屋に『試合直前だから安くする』といわれて最前列のチケットを買ったんです」
藤村さん「久しぶりに生で観戦すると…『めちゃくちゃおもしろい! 』と思いましたね。もともとハヤブサ選手の師匠である大仁田厚も好きだったこともありますが、本当に華のある選手でね。衝撃的でした」
藤村さん「(ハヤブサ選手のマイクパフォーマンスの真似)『お楽しみは〜〜これからだーーーーーー!!!!!!』ってね。でも、なぜかハヤブサ選手が現役のころはマスクは集めていなかったんですよ。(集め始めたのは)亡くなってからです」
※ハヤブサ選手は2016年くも膜下出血で逝去されました。
10数年後、タイガーマスク姿でチャリティイベントへ
藤村さん「2001年に結婚し、翌年には子どもがうまれました。花酵母の日本酒に取り組み、雑誌『dancyu』に取り上げられたりして、商売が上向きになってきたたころです。忙しくてなかなか試合に行けなくなり、しばらくの間は、たまにプロレス雑誌を買うくらいになっていました」
藤村さん「10年くらい経ってからかな、『酒は未来を救う』という日本酒のチャリティーイベントがはじまり、そこに参加したんです。
チャリティーですので募金があるのですが、その名称が『タイガーマスク募金』でした。でも、会場には虎の一匹も描かれてない。なら、私が(マスクを)被りたいなって。最初はスーツにマスク。翌年からはフルコスチュームです」
藤村さん「タイガーマスクの格好で会場にいると、写真撮られたりするんですよ。私もイベントのリングに立ってマイクパフォーマンスで募金を呼びかけたりしたんですけど…全然盛り上がらない笑 日本酒とプロレスってまだ結びつかないんだなった思いました」
再び、大好きなプロレスを楽しむ日々へ
藤村さん「それからはまたプロレス熱が戻ってきて、大きなタイトルマッチなどに通うようになりました。また、茨城でやる興行にはよくいきます。息子も連れて行ったことあるのですが…彼には面白さがわからなかったらしいです…」
藤村さん「これは、私が『リングアナ』をしたときのものです。リハビリ中の高山選手を応援するクラファンがあり、真っ先に応募しました。蔵や家族の誰にも言わずに参加したのですが、取引先の酒販店の方が放送を観ていたらしく、ばれました」
藤村さん「これは、ハヤブサ選手との写真、2016年です。後楽園ホールの売店で撮影しました。そのときのハヤブサ選手は怪我の治療をしており、お金が必要なことを知っていましたので、グッズをいろいろ買っていたんです。この1週間後に、ハヤブサ選手は亡くなりました」
プロレスから学んだ、日本酒蔵の生きる道
藤村さん「プロレスが好きな人には、選手が好きな人や団体が好きな人などいろいろなタイプがいるのですが、私は『ストーリー』が好きなんですよ。
一度の興行で終わるのではなく、次回の伏線をはって『よし、次の後楽園で決着だ!』のように、ストーリーつなげていく。すると、次も観たくなるし、そこでまた新しい注目の選手がでてきたりと楽しみが続いていく。
お客さんのためにいろいろなことを考えて、決して飽きさせない。これは、われわれの酒の世界にもつながっているように思います」
ーー(ついに、プロレスと日本酒がつながった)
藤村さん「たとえば、花酵母。私が蔵に戻った頃、うちのお酒には武器となるものがありませんでした。そんなとき、大学時代の恩師が花酵母を開発したと聞き、まっさきに手を上げて始めたんです。酒販店に売り込み、お客さんに見てもらうための『技』ですよね」
藤村さん「また、うちの日本酒はバリエーションが多いのも特徴。全部で40…レギュラーだけでも20〜25種類くらいあるんですよ。これだって、お客さんを飽きさせないためです。
昔は『うちのおじいさんは○○しか飲まない』みたいな固定した飲み方が多かったけれど、今は『いろいろ味わいたい』という楽しみ方が増えました。飲食店さんも、仕入れのたびに新しいお酒を求めるようになっています。
もちろん、私もひとりの技術者なので『このお米とこの酵母を使うとどんなお酒になるかやってみたい』という思いがあります。人生は常にチャレンジ、伝統に固執するのではなく、常に新しいことに取り組んでいきたい」
貴重な「マスク部屋」にカメラが潜入!
ーー見学の最後に、特別に「マスク部屋」を見せていただきました。
藤村さん「ここは、散らかっていてほとんど使っていませんが…まあ、人を入れるのは蔵人の採用面接のときくらいかな」
藤村さん「これは、ハヤブサのマスクを作っている職人さんに、特注でつくってもらったんですよ。エメラルドグリーンが好きなので」
来福酒造をプロレスにたとえると…?
ーー「来福酒造」をプロレス技に例えると…どうなりますか?
藤村さん「プロレスの世界では、他人のフィニッシュホールドは使ってはいけません」(キッパリ)
ーー失礼、それでは、プロレス団体にたとえると…
藤村さん「うちは『どの団体に呼ばれても選手を派遣できますよ』って、そいう蔵を目指しています。
伝統にこだわるよりも『器用な蔵』でありたいんですよ。世の中にはいろいろな酒販店さんがいて、それぞれ個性や考えがあります。そんな方々のどんなオーダーにも応えていきたい。
プロレスは、メインがいて脇役がいることで、ストーリーにバリエーションがうまれます。日本酒も、いろんなタイプのお酒に取り組むことで消費者の選択肢がふえる。さらに、スパークリングやワインを造ってみたり、地元企業や酒屋さんとコラボして商品づくりをおこなったりと、新しいチャレンジをすることで、関係性や経験など、得られるものがあると考えています」
ーー最後に、今後の藤村さんが取り組みたいことはありますか?
藤村さん「プロレスと関係する日本酒イベント、やりたいんですよね。関西とかだとあるみたいなんですよ『日本酒バックドロップ』とか。(ーー参加は?)お声がかかればもちろん、マスクをつけていきますよ。
あとは…プロレスに関係ある名前のお酒を、いつか出したいですね」
ーー藤村さん、お忙しいなかお時間をいただき、ありがとうございました!
「来福 大吟醸 ファイアーバード・スプラッシュ」のような派手なお酒、楽しみにしています。
【おまけ】来福酒造おすすめの日本酒
約40あるという来福酒造のお酒。「どれを飲んでいいかわからない」という人のために、「特に印象的なお酒2本」を藤村さんに聞きました。
来福 純米吟醸 超辛口
花酵母:ベゴニア 米:茨城県産ひたち錦
藤村さん「今、うちで一番うれているお酒ですね。ベゴニアは発酵力が強く、安心して酒造りができます。そのため、辛口に仕上がります」
来福 特別純米生原酒「若水」スイート
花酵母:おしろい花 米:茨城県産若水
藤村さん「おしろい花の酵母は甘みがでやすい一方、発酵力は強くないんですよ。これを、あえて溶けやすい若水という米と合わせると…めちゃくちゃ甘くなりました。お客さんから『いちごのショートケーキの味がする!』っていわれるほどです」
もちろん、お酒を飲みます。