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【菊正宗の広報さん直撃】 日常酒にこだわる大手メーカー「菊正宗酒造」の正体とは?

日本酒「菊正宗」。スーパーに並んでいるパック酒であり、同時に日本酒のプロたちを魅了する実力派のお酒でもあります。先日、この「菊正宗」を分析する記事を書いてみました。

パック酒なのに伝統的な生酛(きもと)造りにこだわっていたり、パック酒なのに国際的な賞を獲得したり、糖質ゼロ酒をつくったりと、その顔は多彩かつ強烈。知れば知るほど「菊正宗とは○○」という像が見えなくなりました。

「菊正宗」とは、本当はどのような酒蔵なのだろう?

今回、菊正宗酒造の広報さんがオンライン取材を受けてくださいました。大手メーカーの正体に迫ります!

菊正宗酒造オンラインインタビュー

今回取材に応えていただくのは、菊正宗酒造一筋23年!営業統括本部マーケティング課の大魚健二(おおうおけんじ)さんです。

こちらが大魚さん。「珍しいお名前ですね!」というと「小魚じゃなくてよかったです」とのこと。

生酛造り、ギンパック、糖質ゼロ…多彩すぎてよくわからない菊正宗の取り組みをひとつひとつ質問していきます!

キクマサの謎①そもそも、菊正宗ってどんな酒造なの?

スーパーに並ぶ菊正宗の紙パック

ーー早速ですが、菊正宗酒造とは、いったいどのような蔵なのでしょうか?

大魚さん「いきなり大きな話ですね…。あくまで一つの側面となりますが、菊正宗酒造は『日常のお酒』を造るメーカーだと考えています。
日本酒は『ハレの日』のお酒になることが多いものです。年末年始の特別なお酒のイメージですね。そしてそれは地酒蔵さんの造る『高価で高品質なお酒』です。価格的にも、日常には取り入れづらいものです。

代表アイテムのひとつ「菊正宗 ピン」。牛乳くらいの価格

私たちはNBメーカー(ナショナルブランド)ではありますが、きっちりおいしい味を、日常的に取り入れられる価格で届けたいと考えています。瓶だけでなくパック酒にこだわるのもそれが理由です。瓶に比べてお手頃価格ですし、遮光性が高いので、光によって劣化しづらい点があります。また、紙パックだとご家庭でも捨てやすいですしね」

キクマサの謎②伝統製法「生酛造り」にこだわる理由

ーー菊正宗のお酒の多くは「生酛造り」で醸されています。これは、前出の「地酒蔵」でもごく一部しか取り組んでいない、手間も時間も技術も必要な取り組みです。なぜ、大手メーカーが生酛にこだわるのでしょう?

「私は製造の人間ではないのですが…」と、技術者を気遣った上で解答いただきました。

大魚さん「もともと、生酛には江戸時代からずっと取り組んできました。時代が変わるなかで多くの酒造が生酛をやめていったのですが、うちはずっと継続し、科学的な論拠に基づいた知見を蓄積してきました。だからこそ、いまの時代に生酛で安定した味を大量に造ることができます。もし、一度でも生酛をやめていたら、こうはいかなかったでしょう」

ーーでも、安くしたいのであれば生酛じゃないほうがいいのでは?

大魚さん「ええ。実は各社のパック酒の中でも、うちのは少しだけ高いんですよ。生酛はどうしても手間と時間がかかりますから。

しかし、『生酛の辛口』というのが、うちのお酒なんです。菊正宗が理想とする日本酒のひとつとしてあるのが『料理を引き立てながら、飲み飽きをしない名脇役』です。長年おつきあいのある料理店さんからも『(菊正宗は)やっぱり生酛じゃなきゃ』と言っていただくことがたくさんあります。お店さんにとっては、いつものお酒の味が変わることはお客さんが変わる重要なことです。

お店ではもちろん、ご家庭でも、料理の味を邪魔しないうまい辛口のお酒を堪能していただきたい。だから、生酛造りにこだわっています」

菊正宗酒造のHPでは生酛について詳しく解説されています。

キクマサの謎③世界を獲った「ギンパック」誕生秘話

しぼりたてギンパックのブランドサイトより

ーー菊正宗といえば、数年前に大きなニュースとなった「ギンパック」です。

大吟醸酒のようなフルーティーな香りとフレッシュな味わいの日本酒。世界的なコンペティションであるIWC(インターナショナルワインチャレンジ)2019の「SAKE部門」で、グレートバリュー・チャンピオンサケを受賞。スーパーに並ぶ紙パックが、全国の地酒メーカーに「味」で勝ってしまったのです。

ーー菊正宗のアイデンティティである「生酛辛口」とは真逆といえるこのお酒について教えてください。

大魚さん「これは…実は『普通酒』です。吟醸酒のようにお米を削って造るのではなく、低精米でもこの香りと味を出すことで、味わいと価格のバランスがとれたお酒が実現しました」

ーー普通酒! (飲みましたが)吟醸酒とか、そういうお酒だと思ってました。

ここで驚いている「普通酒」は、それこそスーパーで売られているようなお酒らしいお酒、と想像ください。

うれしそうな大魚さん

大魚さん「その秘密は酵母。研究所の話では、研究に研究を重ね、何度も実験をしていましたが、偶発的な要因もあったようです。低精米でも吟醸酒のような香り、具体的にいうとリンゴのようなカプロン酸エチルとバナナのような酢酸イソアミルをバランスよくだすことができました。もちろん、門外不出です」

IWC受賞の様子

ーーIWC受賞には驚きました。

大魚さん「もちろん、味には自信がありました。ブラインドで試飲しても、瓶のお酒に負けていない。大吟醸の商品よりおいしいという声も多くありました。こういう賞をとることで、より日常的なお酒として手にとってもらえるようになると思っています。(受賞時は?)すごかったですよ!社内は大盛り上がりでしたし、反響も大きかったです」

キクマサの謎④続々と新商品が誕生する秘密

糖質ゼロの菊正宗。ブランドサイト

ーー「ギンパック」をはじめ、菊正宗さんは新商品がどんどん登場している印象があります。なぜそんなにできるのですか?

大魚「弊社では、清酒メーカーの先頭に立って引っ張っていくという意志を持ち、『ものづくり改革』を進めています。他社がまねできない技術を持っていると自負しており、その技術力を基に、新商品の検討会議を何度も行います。その技術部門が造ったお酒を実際に唎酒し、商品化すべきか議論しています。先ほどの『ギンパック』もこの会議を経ているのですが、酵母の開発から実際の商品化まで、実は10年もかかっています

ーー!!そんなに高い壁なのですね。

大魚さん「弊社の糖質ゼロ、飲んだことありますか?」

ーーいえ、すみません…どうも糖質ゼロの日本酒って味が苦手で。

「ふふふ」と不敵な表情が撮れました

大魚さん「糖質ゼロの日本酒を出しているメーカーさんはいくつかありますが、『糖質ゼロの日本酒』は、どうしても辛くなってしまいます。日本酒の味わいってやはり甘みの部分が大きくて、そこをカットすると日本酒本来の味から少し離れてしまうのです。だから、菊正宗の糖質ゼロは『日本酒』規格ではありません

ーー!?

リキュールなのです。これは事前にテストマーケティングを行ったのですが、糖質ゼロを求める人の多くは『日本酒という区分』にこだわるのではなく、『日本酒らしい味わい』を重要視していました。そこで、『日本酒の味をもとめているけど糖質ゼロがほしい人』のために、日本酒規格にこだわらない商品を開発したのです」

※日本酒には、米と米麹と水でつくる、などのいろいろなルールがあり、それをクリアしてはじめて日本酒と名乗ることができます。

菊正宗とは、あらゆる飲み手の「日常」を狙う酒だ!

ーー新商品のお話、ありがとうございました。菊正宗さんにはこのほかにも「すだち冷酒」など多彩な商品がありますが、その理由がわかった気がします。

大魚さん「どのお酒も『完成』ってわけではないんですけどね」

ーー完成していない?

大魚さん「みなさん(他のメーカーさん)そうじゃないですか? うちはすべての商品において、お客さんの声をききながら、よくしていこう、おいしくしていこうと考えています。

うちのお酒を飲んでくれるお客さんには、本当にいろいろなニーズがあるんですよね。生酛の味が好きだという人もいれば、フレッシュな味を飲みたい人もいる、糖質を抑えたい人もいる。世代世代、時代によっても変わってきます。

菊正宗は、そんな皆さんの『おいしい日常酒』でありたい」

実はこの画像、記事のなかですでに登場しています。どこでしょう。

ーー歴史のある蔵で、スーパーに並ぶ大手メーカーで、伝統にこだわり、新しい商品もどんどん開発する。一貫性のないように感じた菊正宗さんでしたが、大魚さんの話を聞いてわかりました。

菊正宗とは、あらゆる酒好きの「日常のおいしい」をつくる蔵なのですね。

だからこういうコラボもやってしまうのか。

大魚さんが推す「これは飲んでおけ」お酒紹介

ーー最後に、「菊正宗を知るならこれをのんでおけ!」という銘柄を教えてください。

大魚さん「やっぱり『樽酒』、うちの代表的なお酒です。生酛ですし、伝統的なお酒ですし。今、樽の職人さんも社内で働いていただいて樽作りを続けているんですよ。日本酒における樽酒の意義を、これからも伝えていきたいです。

まぁ本音でいうと、まだ飲んだことのない人は『ギンパック』をぜひ飲んでみてほしいんですけどね笑」


大魚さん、インタビューありがとうございました!
最後に、個人的に好きな「すだち冷酒」の写真を貼って終えます。


もちろん、お酒を飲みます。