日本酒の「香り」を学ぶ勉強会に、鼻炎持ちが参加しました。「お酒ミライ」レポート
日本酒にはさまざまな「香り」があります。リンゴだったり、バナナだったり、あとメロン、グレープフルーツなどなど。
これまでお酒を飲むなかで香りを「利いた」ことはほぼありません。ただなんとなく「違うな」というのだけうっすらと感じている程度でした。
鼻炎持ち、なので。
そんなおり、「お酒ミライ」のブログで有名な神奈川健一さんによる「日本酒の香りの勉強会」があると聞き、参加してきました。
鼻炎持ちでも、説明を聞きながら取り組むと結構わかりました。日本酒の香り、奥深いです…。
そもそも「日本酒の香り」とはなんだ?
この方が主宰の神奈川さん。
お酒にまつわるブログをはじめてもうすぐ1年、だんだんマニア感がわかってきました。この方はいい意味でやばそうです。
これが当日配布の資料。いきなりものすごく役に立ちます。
今回の勉強会は、日本酒の香りを「科学的」に学ぶことが目的です。
神奈川さん曰く、
「お酒の好き嫌いは、飲み手の『主観』が大部分をしめます。しかし『香り』は、『客観的』に分析が可能。近年は月桂冠など大手をはじめこの研究がすすんでおり、たとえば『なぜ十四代を飲むことで人が感動するのか』といったこともある程度分析できるようになってきています。
日本酒を科学的に学ぶということは、人に説明できることであり、それを『再現できる』ということ。人にお酒をすすめる方はもちろん、そうでなくても毎日の晩酌がぐっと楽しくなりますよ」とのこと。
日本酒の香りは10個。これを学べば日本酒を科学できる
(日本酒の香りはシンプル!?)
日本酒の香り(製造に由来するもの)は10種類。世界のほかのお酒にくらべるとかなりシンプルなのだそうです。
(ワインは50!とても人間が認識できる領域を超えているそう。だから人によってニュアンスが異なる「詩的」な表現になるのですね)
ひとつずつ解説を聞きながら、「香りの成分の試薬」をかがせてもらいました。これが、滅多に用意できないものだそうで、もうすごい勢いでかぎました。
(…どうやって手に入れたのだろう?)
◆ブドウ糖に由来する香り成分
①エチルアルコール
そのまま「アルコールの香り」です。清涼感を感じる一方、ずっとかいでいると刺激を感じます。ちなみにアルコールは味になると「苦味」につながります。
②有機酸
乳酸のすっぱい香り成分。ヨーグルトのような風味があるそうなのですが…なかなかわかりません。数回かいでようやく「…たしかにヨーグルトっぽい?」と思いました。香りの種類というより、そもそも「感じる」のが難しい。
③アセトアルデヒド
二日酔いの身体に残るといわれるあれです。もともとの印象は悪かったのですが、香りは「青竹」「草原」のような、若々しい印象。実はこれが「生酒」にある香りだとか。
④カプロン酸エチル
日本酒の2大吟醸香のひとつで「リンゴみたい」というのはこれ。フルーティー!な日本酒の代表格。これがすぎるお酒は一部の人に「カプカプしてんなー」といじられます。
◆アミノ酸に由来する香り成分
⑤高級アルコール類
油性マジックの香りです。そのまんま、あのマジックの香り。「似ている」とかではなく、そのまま同じ成分なのだそう。「日本酒をかいでみて『なにかに似ているかも?』と感じたら、それは実際につながりがある可能性が高いです。10種類の香りしかないので、共有点を探しやすいのも日本酒の特徴です」(神奈川さん)
⑥酢酸イソアミル
こちらも吟醸香で有名。カプエチのリンゴに対し、こちらは「バナナ」「白い果実の果物」とかいわれます。ここらはうすうす感じていた香りですが、試薬をかいでみるとモロバナナ。むせました。
⑦酢酸エチル
セメダインです。かぐと、気分が悪くなりそうなほど工業的な香りがします。
⑧各種脂肪酸エステル
サラダ油、ろう。昔の普通酒や本醸造にあったらしいのですが、最近は皆無だそう。
◆醸造に由来しない香り
⑨ソトロン、スルフィド
熟成酒にある「カラメル」のような香りです。試薬をかいで、唯一これだけ「いい香り」だと思いました。
(おまけ)お米の香り
濁り酒やかすみ酒といった、濾過していないものにあるそう。「たきたてごはんのおいしいかおり」というやつでしょうか。親しんだ香りなので、好きな人も多いそう。清酒にはありません。
「日本酒の香りはおもにこの10。だからプロでなくても認識できる程度です。しかし、日本酒は『なぜこの香りになったのか』の原因がいくつも存在するので、因果関係を推測するのが困難なのも特徴。その点で「ワインより難しい」という人もいます」(神奈川さん)
当然ながら、これらの香りが複数融合してひとつのお酒となります。
10の特徴を知っていたら、
例えば「カプロン酸エチルが強く、エチルアルコールの香りは少ない」→アルコール発酵は控えめで、しっかり甘いだろう。
というように、香りや成分が予測できるようになるそう。
……すごい、と思う反面、やばいところに来てしまったと震えています。
4つのお酒を「見た目」「香り」「味」でテイスティング
座学のあとは、実際に4種類の個性が異なるお酒をテイスティングします。
※データは気になる人だけ見ていただければ。しかし、このデータと味の関係がおもしろい!
No.1 真澄 MIYASAKA 美山錦
DATA
特定名称:純米吟醸 地域:長野 蔵元:宮坂醸造
原料米:美山錦 精米歩合:55% Alc:15度
日本酒度:-1.1 酸度:1.9 アミノ酸:非公開 酵母:7
・見た目
ほぼ透明ながら、少しだけ黄色が見える…ような気がします。
・香り
弱めのフルーツ(ということは④か⑥)で、ちょっとアルコールの刺激もあるかも。
・味
酸味があるものの、とてもきれい。水みたい。しかし後味に苦味のようなものが残ります。
・先生の解説
酢酸イソアミルの香りで、カプロン酸はありませんね。セメダイン香がありますが、これがほかの香りと一体になると非常に心地よくなります。また、真澄が発祥である7号酵母は香りが控えめですので、全体的に淡い印象になります。
注目は酸度が1.9と高いところ(1.7以上は高いそう)で、現代風の酸がメインの設計になっています。加水することで、すいすいと飲みやすい食中酒です。
No.2 出羽桜 出羽燦燦 誕生記念
DATA
特定名称:純米吟醸 地域:山形 蔵元:出羽桜酒造
原料米:出羽燦燦 精米歩合:50% Alc:15度
日本酒度:+4 酸度:1.4 アミノ酸:非公開 酵母:山形KA
・見た目
透明だけど、かすかに色が。黄色?? と思っていたところ、「これは『緑』色。新酒の色です」とのこと。マジか、これがみどりなのか…。
(…みど、り?)
・香り
フルーティーで、これはリンゴだから④のカプロン酸。知っている香りです。さらに③アセトアルデヒドの草っぽい香りもあり。たしかに、若々しい生酒・新酒のフレッシュな印象そのままです。
・味
きれいだけど、最初にかたさがあります。一瞬だけ甘いが、次の瞬間にはコクになっており、切れる。
・先生の解説
わかりやすい新酒ですね。カプロン酸の特徴である「ミルク」らしさをかんじられれば…でもこれはかなり難しいかも。オイルのようなニュアンスを感じたらそれです。「甘い」という声が多かったのですが、じつは日本酒度は+で「辛口」に該当します。おそらく「カプロン酸」のはなやかな香りが強かったため、甘いと感じられたと思います。
No.3 八海山 特別本醸造DATA
特定名称:特別本醸造 地域:新潟 蔵元:八海醸造原料米:五百万石、トドロキワセ他 精米歩合:55% Alc:15.5度日本酒度:+4 酸度:1.0 アミノ酸:1.2 酵母:協会701号
・見た目
真水のように透明。
・香り
フルーツではない、けど、よくよくかぐとドライフルーツのような甘みも感じる。それよりも薬品っぽいかんじがある。+でヨーグルト感もあり。
・味
甘さはなく、本醸造っぽいアルコールの刺激、そしてこくがあり。ほかの参加者の方のひとこと「醤油っぽい?」って、思いっきり醤油を感じる脳になりました。うん、これは醤油。というか醤油と合いそう。
・先生のコメント
見た目がこれだけ透明だということは、炭で濾過をしていますね。炭濾過すると、日本酒の香りの大部分はなくなります。残るのは①エチルアルコール、②有機酸、⑤高級アルコールの3つ。アルコール添加特有の、後半に浮いてくる苦味があります。
(ここで質問。さきほどのすっきりした「真澄」と同じ7号酵母系なのですが、全然違います…)
一番の違いは吟醸造り(低温長期発酵=これをするとフルーティーな酢酸イロソアミルが出る)をしているかしていないかですね。また、数値をみると日本酒度、酸度が結構違いますよね。
酵母が同じだからといって、味が似るとはいえません。杜氏が「どんな味にしたいか」によって、酒質は大きく変わるのが日本酒のおもしろいところです。
お米の違い?いえいえ、正直いうと、よほどの上級者でないかぎりお米の味はわからないと思います。
No.4 熟露枯 山杯純米原酒
DATA
特定名称:純米 地域:栃木 蔵元:島崎酒造
原料米:非公開 精米歩合:65% Alc:17〜18度
日本酒度:-1.5 酸度:2.0 アミノ酸:非公開 酵母:AZ-5
・見た目
黄色い。ひとめで⑨ソトロンがわかります。
・香り
かぐまでもなく、グラスを手にした瞬間にカラメルを感じます。
・味
すっぱさと、熟成の濃い甘み。そのあとに複雑な味がぐわーっと広がります。
意外と苦さは感じられず、熟成酒にしては軽やかな印象。これはおいしい!
・先生のコメント
熟成酒は特に「酸味」を高くするといいますが、これは2.0とかなり高いですね。
また、アルコール度数が高く17〜18ありますが、重さよりも甘みや味の濃さが目立ちますね。ニトロンの苦味がうまくマスキングした、バランスの良いお酒ですね。まさかの…これが一番人気でしたね(笑)
香りのききかたを知ると細分化できる!
今回のテイスティングの香りの見方は以下の流れ。
①フルーティーかどうか
→あれば吟醸造りをしており、酢酸イソアミルは必須。
②バナナか、リンゴか
→リンゴがあれば、カプロン酸エチルがある証拠。この組み合わせ、バランスによって「ブドウ」とか「メロン」のように感じることも。
③アルコールは強いか、弱いか
→刺激がすくなければ15%くらい。また、アルコールは「香りの濃度」にかかわるため、カプロン酸エチルの香りが濃厚だと、18度くらいの無濾過生原酒だったりする。
④アセトアルデヒドはいるか
→これがいたら生酒の可能性大。
⑤有機酸はあるか
→ヨーグルトっぽさ?
⑥ソトロンはあるか
→香りというより見た目でわかる。ソトロンは苦味に直結する。
解説をききながら順を追ってテイスティングしていくと、
たしかに香りの要素が細分化されて「なんかわかる!」ようになります。
実は「数値」っておもしろい!
これまで、日本酒のラベルを見ることはほぼありませんでした。見てもわからないし、「一概には言えない」ものだと思っていました。
しかし、数値を見て、さらに解説を聞きながら味わうと、これが非常におもしろい。
「この味ってこうだな」と感じると、必ずそこに理由があって、数値を見れば「なるほど」となります。
「日本酒造りは『造り手ができる』ことが本当に幅広いお酒。だからどの要素・数値がどの味に結びついているかが非常にわかりにくいのですが、それもおもしろいポイントです」(神奈川さん)
人の話を聞くと、よりおもしろい!
これが、個人的には一番の発見です。
自分でかおりをかいでも、そんなにいろいろな言葉はでてこないものです。(なんか甘いっぽいけど…これは果実なのか米なのか…?)でも、そこに他の参加者の方の意見(これはメロンだ、グレープだ)が入ると、とたんに頭の中がクリアになります。
・しょうゆっぽい!→もう、しょうゆしか感じられない。
・ヨーグルトっぽさがある→超ヨーグルトだ!
完全にひっぱられます。しかし、自分だけでは気づかない要素が具体的な言葉になって聞けるのは、すごい発見です。強化合宿というか、一気に味を感じるセンサーが多感になっていくみたいです。
すごい日本酒マニアが多い
「レマコム持ち」はもちろん、日本酒講座の講師や、自分で火落ち酒を仕込んでいる人など、マニアックな方々ばかり。個別にお話しきかせてほしいと思いました。それくらい贅沢。
日本酒の香りの世界…奥が深くて本当におもしろかったです。
神奈川さん、ありがとうございました!
そしてごめんなさい、「みなさん当然、毎日日本酒ですよね」とおっしゃられていたのですが、レモンサワーでこの記事書いてます。