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【3分間のショートストーリー】父へのプレゼント

僕の父は63歳。まだまだ現役で働いている。
野球をやっていただけあって体は丈夫だ。
孫にはデレデレで最近身につけたTV電話で楽しそうに話している。
ある時息子が小さな野球ボールを投げて見せた。お世辞にもうまくない。
4歳だからね。
そんな父が孫に言った。
「上手いじゃないか」
「今度グローブを送るよ」

息子の僕は父がキャチボールが好きなことを知っている。僕も小さい時によくやったものだ。弟もやった。3人でもやった。
目の前でうなりながら飛んでくるボール。
うまくキャッチできなくて痛む手。
きっと自分の息子たちにも野球をやってもらいたかっただろう父の想い。

一瞬、昔の思い出が記憶をかすめる。
父はいつも自分の想いを強制しない。
それは今も。やりたいことをやれ。
それしか言わない父だった。
やりたいことは全てやらせてもらった気がする。
昔聞いたことがある。
「なぜ僕たちに野球をやらせなかったのか」
父は言った。
「お前たちはうまくならない。バスケの方が上手くなりそうだったから」
と笑ってごまかす顔がちょっと寂しそうに見えた気がしていたのは、僕が大人になってから思ったことだった。
僕ら兄弟はとりわけバスケも上手くない。

「今度グローブ送るよ」
父はそう言った。孫とキャッチボールをする。
おじいちゃんにも新しい夢ができたんだなぁと思う。
今年の誕生日はグローブを送ってやろう。
磨けば長く使えるグローブを。刺繍で名前も入れてやるか。
そして僕の息子にもグローブを買わないと。
キャッチボールの練習もしておかないと。
やれやれ親孝行とは難儀である。
でも僕にできることはそれくらい。
夢が叶うその瞬間、僕はビデオ係だろうな。
なんせ僕は野球が上手くないから。

サプライズ演出を考えておこう。
みんなが笑顔になる方法を。
母の嫉妬が想像できるけど今は置いておこう。

父よ、待っていろ。
どびきりのプレゼント用意してやるよ。

僕の父は顔がデカい。
そのデカい顔が笑顔になること間違いなし。

父よ、僕に感謝したまえ。

僕はその100倍あなたに感謝している。

#物語 #父 #プレゼント

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