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はみがきじょうずかな。

 歯磨き粉が切れたのでドラッグストアに買いに行った。

 いつも使っているのはフッ素配合の三百円のもの。

 歯磨き粉は味に好みがあるので一旦使いだしたものを変える事はあまり無いような気がする。

 子どもの頃実家では塩で磨いていた。

 これは祖父の方針で歯茎を引き締めて健康な歯を作るのには塩が一番という説だった。
 
 磨いている時にあまりのしょっぱさにヨダレがだらだら出たものである。

 そして一番の残念ポイントは塩歯磨きだと虫歯がガスガス出来るという事だった。
 
 多少の殺菌成分はあったと思うがチョコレートやスナック菓子を食べた後にはやや効果が薄かったようだ。

 なので小さい頃は本当にしょっちゅう歯医者に通っていた。
 
 ツンと鼻の奥を点く薬品の匂いが強い受付で診察券を出すと、あらまた来たのと言われるくらいの常連ではあった。

 あまりに虫歯が多いものだからある時を境に市販の歯磨き粉を使うようになった。

 何といっても憧れたのはイチゴやメロン、バナナの味がついたフルーツ歯磨き粉である。

 あれは人工甘味料の甘さをふんだんに感じることが出来ていつまでも歯を磨いていたいと思わせる味わいだった。

 しかし母はそういったお遊び要素が強い歯磨き粉は滅多に買ってくれなかった。

 いつも使うのは大人と同じ三色のストライプで構成された歯磨き粉だった。

 これはこれで見た目が面白くて好きだったのだが磨いているうちに普通の白い色に戻っていくので割とすぐに飽きた。

 そもそも歯磨きに娯楽性を求めるのが間違っているという人もいると思うが基本的に歯磨きが好きな子どもはあまりいないと思う。

 何といっても単調だし兄弟で洗面所で占拠してふざけながら磨いていると父がはやくせんか!と怒鳴ってくることも日常茶飯事だった。

 そんな退屈な歯磨きだが年に数回フルーツ歯磨きを使う機会に恵まれた。

 それは母の実家に帰省する時や年に一度の家族旅行に行く時などの特別な日だった。

 憧れの歯磨き粉と対面するとテンションはもううなぎ上りである。

 普段はあれほど渋る歯磨きもこの日ばかりはお母さん歯磨き粉出してとせがむ始末だった。

 そうやって年に数度味わうフルーツ歯磨き粉はとても美味しかった。

 何度うがいをせずに飲み込んでやろうと思ったことか。

 さすがにそれはしなかったがあの味は今でも特別な歯磨き粉である。

 最近はバナナ味はマボロシになったようでドラッグストアでも見かけない。

 子ども用の歯磨きコーナーでイチゴ味の歯磨き粉をじーっと物欲しそうに眺めている怪しいおじさんがいたらそれはもしかしたら私かもしれない…。

 あれは一風変わった憧憬の味だったなぁ。

 そんな事を思い出しながら昨日の晩御飯も振り返ってみる。

 昨日はとてもシンプル。

 メインは鶏むね肉。

 砂糖、塩、日本酒を振って十分放置。
 
 洗い流してキッチンペーパーでしっかり拭いたら油をひかないフライパンで弱火で焼いていく。

 もちろん皮目を下にして焼きはじめ。

 次に明太子を腹から出してマヨネーズ、溶かしバター、粉チーズ、レモン汁と合わせて混ぜる。
 
 これをカットしたフランスパンに塗ってトースターで五分焼く。

 あっという間に明太フランスの完成。

 後はスープを作る。

 スープはカブを刻む。
 
 ウインナーも薄くスライス。

 水から具を入れて沸騰したら顆粒コンソメを入れる。

 味見をして薄かったら軽く塩コショウ。
 
 これでカブのスープの完成。

 鶏肉が焼けてきたらひっくり返す。

 結構脂が跳ねるが気にしない。

 中までしっかり火を通す。

 焼けたら仕上げに伝家の宝刀バカまぶしをこれでもかと振りかける。

 刻んだキャベツを下に敷いて盛り付けたら一丁上がり。

 ふぅ、こんなものかなと思いつつ妻を呼ぶ。
 
 昨日のお酒はビール。

 いただきますをしてからプルタブをオゥスと起こしてグラスにスットコトーン。

 乾杯してグラスをズビビッと干す。
 
 ムムム、ムハァ―ッたまらんと全身がフルエル。

 ビールはいつだって正義だ。

 ではまずは明太フランスをつまみにする。

 噛むとザクッとした歯ごたえで明太子の辛みがピリッとくる。

 マヨネーズのコクと粉チーズがいい仕事をしている。

 ほんの少し入れたレモン汁が味を引き締めているのも嬉しい。

 パン屋さんで買ったものだとこの香ばしさは出ないよなぁと思いつつザクザク。

 追いかけて飲むビールがまた泣けるほど美味い。

 次に鶏肉のソテーを食べる。
  
 ナイフで大ぶりに切って豪快に楽しむ。

 ハムッと口に含むと皮がパリッとしており肉はジューワッとうま味があふれる。

 砂糖と塩に漬けて焼いたので柔らかさも折り紙付きである。

 そしてバカまぶしスパイスのクミンの香りが食欲を増してくれる。

 合い間にスープを飲んでワンクッション入れて二本目のビールをテシッ。

 何となく洋風のメニューで食べ応えはばっちり。

 妻は魚卵が好きなので明太フランスを美味しいねぇと言いながらモリモリ食べていた。

 その姿を見ながらビールをもう一口。

 自分が作ったものを美味しいと言って食べてくれる人がいる事はとても幸せな事だなぁといつも思う。

 ありがたいありがたいと思いながら三本目のビールを飲み干してご馳走様。

 片づけをササッとしてお風呂に入って歯磨きをしてからぐっすり寝た。

 歯磨きって朝晩したら年間で700回以上になるんですよね。

 だからお気に入りの歯磨き粉を使いたいですよね。

 塩歯磨きはもういいかなぁ…。

 あれは通の技だと思います。

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