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アンチ速読・スローリーディングのすすめ

「そういえば読書そのものについての本はあまり読んでこなかったな」と思い、平野啓一郎『本の読み方 スロー・リーディングの実践』を読んでみた。

わたしはもともと本が好きで学生時代はよく図書館に入り浸っていて、特に読むようになったのは臨時収入があってkindle paperwhite端末を買って(こんな便利なものがこの世にあったとは……!!)と感動してからだ。もし電子書籍が無かったら、限られた住宅スぺースで本を買うのにもハードルが高いままで今ほど読んでいなかっただろう。

そんなわけで、わたしは紙の本だけじゃなくてkindleも買うし、kindle unlimitedや電子図書館や普通の図書館でも本を借りて同時進行で関心のおもむくままに読んでいる。
暴食のグラトニーのごとく、手当たり次第にインプットして、時々気が向いたらXやnoteなどでアウトプットしている。

ちなみに、わたしが読んだ本の感想をXやnoteに書くのは、誰かに説明しようと思いながら読んだほうが内容が頭に入りやすいし、わたしの感想を読んだ人が関心を持って手に取るきっかけになればその人や著者や出版社も喜ぶし、WIN-WIN-WINの関係なのでは?と思っているからだ。
同じ本を読んだ人の感想を読むのもまた違った視点からで面白い。


読書の方法(わたしの場合)

本の内容に入る前に、ここでわたしの読書の方法をまとめてみる。
ちなみに若干国語が得意だっただけ(←Twitterに入り浸ってる人あるある)で、文章の読解については高校生以来、特に専門的な訓練を受けたわけではない。

本の探しかた

世の中には到底読み切れないような本が毎日出版されているなかで、わたしは以下のような方法で読む本を探している。

・X(Twitter)で関心が似ている人が勧めていた本
・X(Twitter)であるトピックに関して自分と正反対の意見の人が勧めていた本
・X(Twitter)で出版社や書店や取次アカウントがしていた新刊の告知
・Amazonやkindle paperwhite端末の「この本を読んでいる人はこの本も読んでいます」というオススメ
・大きい書店に行って関心がある分野の棚をみてみる
・(フェミニズムに関する本で1年以内に出版された新しめの本は)国立女性教育会館の文献情報データベースをみてみる OPAC (nwec.go.jp)
・好きな著者
・読んだ本のなかで紹介されていた関連書籍
・kindle unlimitedで読める本
みたいな感じだ。

このように面白そうな本を探すのにX(Twitter)に頼りまくっているので、Xがなくなっちゃうとほんと困っちゃう!どうしよう!

本の読みかた

読みながら、気になるところや心に残ったところを見つけると、電子書籍の場合はマーカーやブックマークをして、紙の本の場合は付箋を貼ったり、(借りた本の場合は)しおりを挟んでいる。

印をつけるのは
・初めて知ったことや、その通りだね!いいね!など同意したところ
・そうかな……?過言では……?違うのでは……?矛盾してるのでは??など内容に対してツッコミをいれたところ
・疑問に思ったところ
・よく理解できなかったから後でまた読み返したいところ
・あとで本の感想をSNSに書くときや他の人に説明するときに、本の要点が伝わりやすそうなところ(そしてどう紹介するか構成を考えながら読む)
・いかにも伏線っぽいところ大事な場面っぽいところや描写や表現がとても好きなところ(小説の場合)
のような場所で、読み終わったらすぐにその印のところをまた読み返している。そのほうが、内容が頭の中に定着しやすい気がするし。

忘れることが前提

もちろんこうやってnoteやXに感想や書評を書いたほうが内容をよく覚えているのは確かだけれども、記憶力には限界があるので、内容はどんどん忘れている。

勉強というものは、いいものだ。代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ。植物でも、動物でも、物理でも化学でも、時間のゆるす限り勉強して置かなければならん。日常の生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ。何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから、けろりと忘れてもいいんだ。覚えるということが大事なのではなくて、大事なのは、カルチベートされるということなんだ。カルチュアというのは、公式や単語をたくさん暗記している事でなくて、心を広く持つという事なんだ。つまり、愛するという事を知る事だ。学生時代に不勉強だった人は、社会に出てからも、かならずむごいエゴイストだ。学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。そうして、その学問を、生活に無理に直接に役立てようとあせってはいかん。ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ!

太宰治『正義と微笑』より

太宰治 正義と微笑 (aozora.gr.jp)

しかし、太宰治『正義と微笑』にあるこの黒田先生の言葉のように「一つかみの砂金」が残ればラッキ~~~という気持ちで忘れることを恐れないようにしている。(ちなみに太宰治のこの作品を知ったのもTwitterだ)

「遅読」こそ「知読」

だいぶ前書きが長くなった。平野啓一郎『本の読み方 スロー・リーディングの実践』の内容に入ろう。

小説の場合は展開が気になると、どんどんページが進んでいく場合もあるが、そうではない本はわたしの場合だいたい40~80ページ読むのが限度で、それ以上は集中力が続かないので無理せずに次の日に繰り越している。
しかし、読みたい本がたまってくると「早く読み終えて次の本にいかないと!」「新しい本が読みたい!」と気がはやってくるのも事実だ。

私たちは、数十年前に比べて、はるかに容易に、はるかに多くの本を入手できるようになった。しかし、そのおかげで、私たちはかつての人間よりも知的な生活を送っていると言うことができるだろうか?
(中略)
かつての人間たちは、要するにみんな、スロー・リーダーであり、スロー・リスナーだったのである。

平野啓一郎『本の読み方 スロー・リーディングの実践』p.23~p.24

ここ数年、サブスクリプションとしてkindle unlimitedだけではなくて動画視聴サービスや音楽サービスも出てきて、それらを利用する人も増えてきたと思う。
わたしが学生のころはお小遣いやバイト代を貯めてようやく買った3000円のアルバムを何回も何回も聴いたものだったが、今では月額料金さえ払えばそのサービスに加入しているアーティストの曲が聴き放題だし、サブスクでの再生数を増やすために曲の長さがどんどん短くなっているという話も聞いた。
また、「タイパ(=タイムパフォーマンス)」のために、Netflixで倍速視聴するファスト映画という言葉も話題になった。せっかくの間が失われてしまい、情緒もへったくれもないような気がする。
本だけに限らず、超情報化社会の弊害なのかもしれない。

スロー・リーダーの出現は、情報化社会において、猛スピードで交換されている表面的な知識を補うという意味で、反動どころか、いわば現代の必然なのである。

平野啓一郎『本の読み方 スロー・リーディングの実践』p.31

「速読家の知識は単なる脂肪である」

もともとこの『本の読み方 スロー・リーディングの実践』が書かれた2006年当時に「速読本」ブームがあり、著者はその内容に強い違和感を覚えて、「1年間に○冊読んだ」という大食い競争のような読書量の誇示にも辟易として、そういった風潮に対するアンチテーゼとしてこの本を書いたと前書きに書いてあった。

速読家の知識は単なる脂肪である。それは何の役にも立たず、無駄に頭の回転を鈍くしているだけの贅肉である。決して、自分自身の身となり、筋肉となった知識ではない。それよりも、ほんの少量でも、自分が本当においしいと感じた料理の味を、豊かに語れる人の方が、人からは食通として尊敬されるだろう。読書においても、たった一冊の本の、たった一つのフレーズであっても、それをよく噛みしめ、その魅力を味わい尽くした人の方が、読者として、知的な栄養を多く得ているはずである。

平野啓一郎『本の読み方 スロー・リーディングの実践』p.30

そのせいか、速読家に対する言いぐさが結構辛辣で「速読家の知識は単なる脂肪である」とまで言い切っていたのが面白かった。脂肪て。
著者はモンテスキューが執筆に20年という歳月を費やした『法の精神』を例に挙げて、「モンテスキューほどの第一級の知性の持ち主が、二〇年もかけて考えたことを、どうして私たちが、一時間や二時間の飛ばし読みで理解できるだろうか?(中略)私たちは、著者の二〇年に対して、やはり謙虚な気持ちを忘れるべきではない」と言っている。至極ごもっともである。

スロー・リーディング実践編

「第3部 古今のテクストを読む」では、実際の文章を例にあげてどのようにスロー・リーディングしていくのかが解説されていた。
ここはまるで高校時代の現代文の授業を彷彿させるような章で、ここまで深く考察できるのか!とふだん漫然と文章を読んでいるわたしはとても参考になった。
わたしは小説を書いたことがないというのもあって、小説のことをどこか気軽に別世界を体験できる/楽しめる娯楽としてとらえているところがあり、書き手がここまで細部にこだわっていることについて今まであまり関心を持っていなかったのだと思う。

この章の最後には、応用としてフーコー『性の歴史Ⅰ 知への意志』が取り上げられていた。こういう哲学書/思想書はハードルが高く、うぅ……難解だぁ……とシオシオのピカチュウfaceになって根をあげてしまうことが多いのだが、著者は逆説の接続詞に注目してどう補助線を引いていくかを丁寧に解説している。

難解な本を読んでいる時の心象風景

例に挙げたフーコーの文中になんども出てくる「それ」が何を指すのかを示したり、論の展開を矢印で図解するという作業をしていて、フーコーの文章に文字どおり補助線を書きこみまくっている画像を参考として実際にのせてくれている。

たしかに難解な本を自分のものとして解釈して理解するために必要なのはこういった作業が有効なのだが、図書館で借りた本にはできないことなので、難解な思想書/哲学書をスロー・リーディングするのに必要なのは、まずその本を紙で購入することと、汚すことを気にせずに書きこみまくる勇気なのかもしれない。

10年以上前に新潮文庫でショーペンハウアーの『幸福について――人生論』が本屋で平積みになってて買ったのだけど、めっっっちゃ難解で、最初から全然意味が分からなくて、「よし、線を引きながら読んでみよう」と思ったものの、それすらも数ページで挫折してしまった苦い記憶がよみがえって胸がチクチクした。
補助線を引いてもさっぱり分からない場合はどうすればいいんでしょうね……
やっぱり「まんがで読破」シリーズとか100分de名著とか岩波ジュニア新書などの平易な入門書からですか!?

絶版になっても中古で数万で取引されていた『現代文解釈の基礎』という伝説の現代文参考書があり、ちくま学芸文庫から2021年に復刊されて話題になった。

最後の「スロー・リーディング実践編」の内容はこの本を思い出した。
『現代文解釈の基礎』はもとが参考書だけあって、ノートを開いて高校の現代文の問題を解くような構成で、初めのほうだけ手をつけただけで積んでいるので、スロー・リーディングの訓練のためにも続きから再開してみようかな。

そもそも、わたしがこの『本の読み方 スロー・リーディングの実践』という本を見つけたのもkindle unlimited対象の検索からだったので、スロー・リーディングの精神に反するようでなんだか矛盾しているような気もするが、これも何かの縁だと思うので、スロー・リーディングの意識は頭の片隅に置いておきたい。

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