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レモン色の花束を


その知らせを聞いた時、さわやかなレモン色の花束を彼女に贈ることは、もう決まっていた。


8月のはじめ、小学校からの友人が結婚した。

直接報告を聞いたわけではなく、SNSでの報告だった。

「直接聞いてもないのに、果たして友達なのか?」と疑う人もいるかもしれないが、彼女は紛れもなく私の友人。

どんな報告であろうと、彼女が私の友人だと胸を張って言えるのは、小・中学校の9年間のうち、多くの時間を共にしたからだろう。

私は彼女を「いず」と呼んだ。


私はその報告を受けて、すぐにいずの家の近くのお花屋さんを調べた。女の子は何歳だってお花をもらうと嬉しいと思っているし、私は自分の名前にちなんで、何かにつけてお花を贈る。


すぐにお花屋さんは見つかった。私は2つお願いした。

1つめに、こちらから送る手紙を一緒に渡してほしいこと。

2つめに、レモン色の花束にしてほしいこと。


しっぽのある家族


私が小学1年生の頃、クリスマスプレゼントとして真っ白な犬が我が家の一員となった。

柴犬ぐらいの大きさで、生後2か月も経っておらず、肌のピンク色が見えるぐらい真っ白な犬だった。

私はその犬を「もも」と名付け、姉妹のように、親友のように、どこへ行くにも連れて歩いた。

今思えば、とても有難いことだが、友人と遊ぶ時にももを連れていくと、みんな外で遊んでくれたのだ。ももはかくれんぼが、誰よりも上手だった。


私の家で遊ぶ時も、ももはいつも参加した。

友達の輪の中に入り、トランプをぐちゃぐちゃにするのが得意だった。もものせいで、トランプは歯形が残り、持ち主の私はいつも神経衰弱で勝てた。


そういう場面には、いつもいずがいたような気がする。

そして、数年後、いずも犬を飼い始めた。

艶やかなキャラメルのような色をしたミニチュアダックスで、名前はレモンといった。

それからいずの家で遊ぶときは、いつもレモンがいた。アーモンドみたいにくりくりの目をして、愛らしい大きな耳、いつもお腹を撫でさせてくれる優しい子。いずだけでなく、いずのお母さんもお兄ちゃんも、レモンのことがとても好きだった。

何度も遊びにいったいずの家の雰囲気が、レモンが来る前と後では、ずいぶんと柔らかくなったことを、小学生ながらに感じたのを覚えている。


私といずは、本当によく喧嘩をした。でも、そのたびに何度も仲直りした。

2人で自転車に乗って、色んなところへ遊びに行った。いずのおばあちゃんの家で、桃鉄をしたのも覚えてる。授業中に呆れるぐらい手紙を交換して、何枚も一緒にプリクラを撮った。どこかへ出かければ「姉妹?」と声を掛けられることもあって、だんだんと雰囲気も似ていたのだと思う。

そうやって、9年間を一緒に過ごした。中学校を卒業してからは、会うことは少なくなったけれど、たまに会えば、昨日も会ったかのように話せる友達が、いずだった。

レモンも、ももも、私たちが社会人になると亡くなってしまった。


わけっこの9年間


お花と共に送る手紙を書いた。

理由もなく何度も喧嘩した事も、夕暮れのオレンジ色に包まれた部屋で読んだ手紙の事も、結婚をすると聞いた時の嬉しい気持ちも、本当は便箋数枚じゃ足りない程だったけど、それでもいずに対する想いをそこに詰めた。書きながら、色んな事を思い出して、ちょっと泣いた。9年間で、うれしいことはもちろん、つらいこともちょっとだけ分けっこした。


数日後、いずから連絡がきた。

「お花と手紙届きました。文を書くことは苦手なんだけど、頑張ってお返事を書きたいです。」

後日、送られてきた手紙は、文を書くのが苦手だと言ったわりに、しっかり私を泣かせた。


手紙の返事がきてから、また更に数日後、プロの写真家をやっているいずの兄が撮った2人の写真がSNSにアップされた。

いずが旦那さんと出会ってから、SNSで感じる、いずの雰囲気がとても柔らかく暖かく、穏やかになったのを画面越しに感じていたのだが、それはまるで、レモンがいずの家に来た時のような感じに似ているな、と気付いて、笑いながら泣いた。


いずから送られてきた手紙には、

「はなにははなの幸せの形があって、私はあなたの選択ひとつひとつが正しいと信じています。昔から、信じています。」

と書いてあった。

かつて姉妹に間違われた私たちも、チョロい涙腺を持つアラサーになった。

あの頃よりは、ちょっとだけ大人になったけど、あの時聞いていた歌を今でも聞いて口ずさみ、あの時好きだった映画を今でも見て、全然成長していない。年齢がただの数字だと、誕生日の度に実感する。

何度だって喧嘩をして、何度だって仲直りしたいずが、これから先くじけそうになったら、何度だってレモン色の花束を贈ろう。


手紙の返事をありがとう。

いずの選択も、なにひとつ間違ってないよ。

幸せになってね。



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