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「玉宮集合」が合言葉

私の住む町には「玉宮」と呼ばれる、飲食店街がある。

岐阜駅から歩いて1分。


広くない数百メートルの通りに、飲食店が軒を連ね、千鳥足のサラリーマン・ほろ酔い気分のOL・楽しそうにはしゃぐ学生・顔を真っ赤にした老人、老若男女問わず、ふらふら歩くと肩もぶつかりそうになる、その狭い道。

車のすれ違えない狭い道に、人々が行き交う。

去年までは─


新型コロナウイルスの影響は、もちろん、そんな玉宮にあっという間に押し寄せて、今は閑散としている。

外食率の高い岐阜は、12月ともなれば、多くの人々が玉宮に集まるはずだった。

魔界の玉宮

駅前にある玉宮は、通勤通学で利用する人も足を運びやすく、夕方ふらっと歩いてしまうと、赤ちょうちんの光と、楽しそうな笑い声、どて煮のいい匂いが背中を押して、ビールケースを逆さまにした椅子に、いつの間にか座ってしまう。

玉宮を通って、シラフで帰れる人がいたら尊敬に値するぐらい、あそこは魔界だ。


1キロに満たない距離に数百軒。昼間は近所の方が利用するスポーツ用品店や、美容室もあり、生活感も混在する町。


玉宮は、決してオシャレな街ではない。

それでも私は、玉宮が大好きだ。


通りに置かれた席に座ると、ほろ酔いの友人が通りかかったり、お店の奥の席に恩師が座っていたりと、まるで同窓会のようになる。

食事の予定をするときも「とりあえず玉宮集合で」を合言葉に、いつものローソン前に集合する。

夜中のローソン前は、飲兵衛の掃き溜めのようで、うんざりした店員さんの顔さえも、愛おしい。声をかけてくるキャッチのあしらい方も、お手のもんだ。

お気に入りのお店がいくつもあって、あっちへふらり、こっちへふらり。何回も交差点付近の、レンガの石畳に足をつまずきながら、往復する。

あっちはジビエ、あっちはどて煮、そっちを見ると美濃けん豚。入口から見える水槽には、キラキラ泳ぐ鮮魚。煙で目が痛くなりそうな、もくもくとした鉄板焼き。

極めつけに、どのお店もわいわいがやがや楽しそうな声が響く。


「どんなお酒が好き?」と聞かれると困る。

私は生まれ育ったこの町の、玉宮で飲むお酒が大好きだ。


またみんなで集まれる時がきたら、合言葉はもちろん「玉宮集合」で。


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