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要領良し

ある夜遅く、母から電話がありました。

「アナタ忙しいのにごめんね。あのね。オバが死んだ。」

オバというのは母の叔母。私の祖母の末妹です。母は高校時代に彼女の家に下宿していて、家事や子育てを手伝う代わりに学費を出してもらっていました。彼女の夫は一年に数日しか自宅に帰れない仕事をしていました。彼女一人で二人の息子を育てるのは心細かったのだそうです。彼女は母より10歳上です。親とも姉とも違う面白い関係だなぁと思っていました。母は自分の実家に里帰りした後、大叔母の家にも里帰りしていました。彼女が拗ねるから。

その日の朝、デイサービスのスタッフの方が大叔母を迎えに行って下さった時、彼女はテレビの前に座って、そのまま前に倒れるようにして亡くなっていたそうです。テレビを見ながら気づかないうちに死ぬというのは。6人姉弟の5番目、末娘である大叔母らしい要領の良さに思えます。

「オバは恐がりだから。あの世の前できっとまだウロウロしてるよ。でも先にオバの姉達が行ってるからね。良かった。多分迎えに来てくれると思う。」母は意外にのほほんとしています。翌日、お友達と外へランチに出掛けて行きました。
「オバから林檎が送られてきたよ。取りに来ない?」と母から毎年かかってくる電話が、もうくることはないのか。と、林檎を切った途端、胸が詰まったのはむしろ私の方でした。大叔母が居なければ、母は楽しい高校時代の思い出を持っていない。子供の着る服を全て作れる洋裁のスキルも。キルトの図案を作るデザイン力も。母がバレーボールを通じて知り合った仲間も。きっと、母が何かをしている時に急に「実感」が来るのかもしれません。

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