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ことのは屋とし兵衛・作品集

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昔書いたものへのリンクも含めて小説、エッセイを収録しています。最近のものも入れ始めようとして……(以下略)。
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記事一覧

[0円小説] 蛇と朝顔

[0円小説] 蛇と朝顔

(この作品は純粋な創作であり、登場する事象はすべて作者の空想に基づきます。現実の世界との類似はすべて神の悪戯にすぎませんのでご了承ください)

北インド・ハリドワルは亜熱帯の南国である。四月も半ばに差し掛かると日射しは容赦なく照りつけた。

とはいえ北にヒマラヤ山脈を控え、一年を通して雪山からの冷気が聖なるガンガーによって運ばれてくるものだから、空気は比較的ひんやりとしている。平地ではあるが、日本

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[詩小説] 宙(そら)へ放つ手紙

[詩小説] 宙(そら)へ放つ手紙

きみのことなどロクに知らないのに、こんな手紙を書くのはヘンなことだろうか。

もともとヘンな人間なんだから、そんなこと気にしてもしょうがないんだけどさ。

でも敢えて言えば、ロクに知らないから書けることってのもあるんだし、ヘンなことを書かずにはいられないときもあるってことなんだ。

もちろん、そんなことは勝手な言い草にすぎないけどね。

きみのつき合いの良さに甘えて、って言ってもそのつき合いの良さ

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[詩小説] 昇降台のエロβ

[詩小説] 昇降台のエロβ

まさかりかついだまさかどが
おにをひきいておうまのけいこ
はいしどうどうたいしどう
てんじんさまもべそかいた

成田空港を利用することがある。

格安の便を使うと、やたら朝早く出発することになるものだから、この数年成田に宿を何度か取った。そしてせっかくの成田だからと成田山にお詣りする。

ところで、千葉に古くから住む人は成田山には詣でないのだという話がある。

というのは、成田山という真言宗の寺は

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舌滅貴愚手の子守唄

舌滅貴愚手の子守唄

  もてもての
    もてるものすらもてあまし
  もてなすものももりのもくずか
  (詠み人知らず)

  *  *  *

「自分を持て余さない人間て、いるのかな」

銀河の彼方から、そんな呟きが聞こえてきたんだよね。

「2001年宇宙の旅」ってsf映画があってさ、木星まで宇宙船で飛んでくと、そこに〈星の門(スターゲート)〉っていう不思議の世界の入り口があって、宇宙船の船長がそこを通って

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[似非小説]トラトラトラ、われ奇襲に成功せり。あるいは山頭火に捧ぐ

[似非小説]トラトラトラ、われ奇襲に成功せり。あるいは山頭火に捧ぐ

[400字詰め20枚強、随想風似非小説 (太宰・春樹・新井素子へのオマージュあり) を全文無料にてお楽しみくださいませ]

特等席でラムネ飲むモッタイナイねゼイタクだね

(彼岸の中日を過ぎて、山頭火の人生の孤独を思いながら)

  *  *  *

「ノンキだね、ゼイタクだね、ホガらかだね、モッタイナイね」というのが、自由律俳句師・種田山頭火が機嫌のよいときに書いたり言ったりする言葉なのだと、「

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spilt milkさんを巡る迷宮的思索、あるいは鮭でおっぱいの美味 [投げ銭歓迎]

spilt milkさんを巡る迷宮的思索、あるいは鮭でおっぱいの美味 [投げ銭歓迎]

ムラサキさんという方が「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」という企画をやっておられて、詳細については興味を持たれた方には、いずれ多方面からじわじわと明らかになっていくことであろうことを期待して、ここでは簡単に次のように述べ、アドレスも記載することでご紹介とします。

「第一印象が、仲のよい人たちの濃密なやり取りを見せつけられた感じだったもんで、なかなか初めの一歩が踏み出せなかったんだけど、思い切って一

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[奇妙な味の長めの短編] メビウス切断・第三回 (最終回)

第一回はこちら → https://note.mu/tosibuu/n/n7fb317c6fe95
第二回はこちら → https://note.mu/tosibuu/n/n3ec323b6ded0



滅郎はキッチンのテーブルに一人腰掛け、泡盛の入った湯呑みを両手で握りしめていた。しばらく前から滅郎の頭の中を「二度あることは三度ある、二度あることは三度ある……」と同じフレーズが繰り返し回り

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[奇妙な味の長めの短編] メビウス切断・第二回 (全三回)

第一回はこちら→https://note.mu/tosibuu/n/n7fb317c6fe95



そして、一日が経ち、二日が過ぎ、やがて一週間、二週間。気がつくと何事も起こらないまま一ヶ月が過ぎていた。その頃には滅郎はあの奇妙な三人組のことはほとんど忘れかけていた。最初の一週間ほどは部屋に帰ると誰かが潜んでいるのではないかと気にかかり、部屋のあちこちを確かめるようなことが続いた。それとは対照

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[奇妙な味の長めの短編] メビウス切断・第一回 (全三回)

笑いの中にこそ、自分のあり方を変える可能性が隠されている。
 ――カルロス・カスタネダ



青白い街路灯に照らされ、中途半端に暗い夜の住宅街を、しかた四方滅郎 (しかためつろう) はやや覚束ない足取りでゆっくりと歩いていた。家へと向かう道は他に人影もなく、一人歩く滅郎に梅雨時のじめじめした空気がまとわりついてくる。滅郎は月曜だというのに少し酒を飲みすぎていた。

彼はどちらかといえば酒が好きな

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[全文無料・読み切り短編]あなた、作家になりたいですか? じゃあ、この小説を読んでみるといいですよ!

[全文無料・読み切り短編]あなた、作家になりたいですか? じゃあ、この小説を読んでみるといいですよ!

[約1,900字、400字詰め5枚弱]

久しぶりに短い小説でも書くかと思って、折りたたみ式のキーボードを開き、タブレットに向かってみたぼくは、小説の書き方というものがすっかり分からなくなっていることに気がついた。

タブレットとキーボードは安宿の素晴らしく凹んだマットレスの上に、キーボードのケースと小さなメモ帳を台にして置いてある。

足は組まずに平らに並べてベッドにつけたあぐら的姿勢を取ると、

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[全文無料・断片小説] 今ここに寄せては返すきみの命よ

[全文無料・断片小説] 今ここに寄せては返すきみの命よ

日本では桜の季節はもう終わったんだよね。

南の国にいると、日本のようなはっきりとした四季はないから、桜の話とか見聞きしても、なんだか遠い異次元の世界のことでも聞いてるような気がしちゃってね。

でも、思うんだ。命って、いつでも震えているんだよね。

それは、全然わるい意味じゃなくて、波が寄せては返すように、月が満ちては欠けるように、命もいつも、膨らんでは縮み、やってきては去っていく、そうやって変

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上海の思い出

あれは 2000 年の夏のことだったか、神戸から船に乗って、上海に行ったことがある。鑑真号という貨客船である。

ぼくはエスペラントという人工言語を多少あやつるのだが、エスペラントは英語からすれば遥かにマイナーな国際共通語であって、それを使う人間の間には、豊かな仲間意識があって、たとえばパスポルタ・セルボというサービスが存在する。

英語でいえば、パスポート・サービスということになるが、このサービ

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初めての路上表現

みなさん、ナマステジー、とし兵衛です。

今も巨大な波に洗われているぼくの、ネパールはルンビニにおける、生まれて初めての路上表現を、よろしかったらご覧ください。

いかれた顔で、いかれた歌を、外人の溜まり場的路上レストランの前で、歌っております。

いつにもまして、ぶっ飛んでますので、閲覧にはご注意ください。

なお、この動画の撮影は、たまたまその場に居合わせた、Yara Brasil さんによる

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[掌編小説]メビウスの夢空間

[掌編小説]メビウスの夢空間

うちの父さんて、ちょっとデリカシーにかけるんだよね。
デリカシーにかけるっていうより、人の神経を逆撫でするところがある。

本人は多分、そういうつもりはまったくないんだろうなあ。
だから、罪がないっていうふうにも言えるし、それだけに、たちが悪いとも言える。

ものごとって両面性があるもんね。

両面っていうとさ、どうしてもメビウスの輪を思い出しちゃうんだよね。
紙かなんかの細長いひもをさ、途中で1

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