[0円小説] 蜜蜂の幸、あるいはヒマラヤのそぞろ神に呼ばれて
しばらく曇天の日々が続いたあとに、夜半の雷雨が大気中の夾雑物を洗い流した。
ポカラの空は今朝、見事なまでに晴れ上がって、ヒマラヤの山々を優しく抱いている。
ネパールの中部に位置するポカラは、8,000メートル級の最高峰が聳え立つアンナプルナ連峰を間近に臨む、風光明媚な街である。
夢見探偵を名乗るアナタ・ジロウと妻のムーコは、年越しにも二週間ポカラに滞在したが、一旦インドのハリドワルに戻って用事を済ませたのち、二月に入って再びこの地を訪れていた。
朝の七時すぎ、三面に窓