【掌編小説】忘れた世界からの余寒見舞い
水道の水のぬるさに、春の後ろ姿が見えそうなくらいまで季節が進んだことを感じる。
春爛漫という輝かしい春はあまり好きではないが、朝晩に毛織りの物を一枚羽織りたくなるようなあやふやな春は嫌いではない。
お正月用にと飾った松のスワッグもまだ壁に掛かったままだ。松の葉先が少し緑から色の抜けたような黄緑に変わってきつつあり、そろそろ外さないとと思っているが、特に理由はなくそのままのしてある。今朝もそれを見た。そして「そろそろ外さないと」といつもと同じことを思い、次の瞬間にはもう他のこと