見出し画像

SaaS企業のための管理会計

【この記事は会計系 Advent Calendar 2023における3日目のエントリーです。】

昨今、「SaaS」が世の中に多く見られるようになりました。「SaaS」とは「Software as a Service」の略で、インターネット経由で提供されるソフトウェアのことです。ビジネスパーソンに馴染みのある代表的なサービスとしてSlack、Zoom、Salesforceなどが挙げられます。課金形態はこれまた昨今流行りの「サブスクリプション型」が採用されているケースが多く見られます。そこで今回は、サブスク型SaaS企業による管理会計について見ていきたいと思います。


管理会計は様々な形がある

管理会計というと、よく原価計算や予算管理などがイメージされます。これらは基本的な方法やプロセスは体系化されていますが、法律の規制を受けるものではなく企業ごとに自由に運用できるので、企業によって様々な形で行われています。

中でも、今回は予算達成のために設定されるKPIマネジメントの一例について解説していきます。

特徴的な指標

サブスク型ビジネスの管理会計を行う上で、よく使われるKPIがいくつかあるので順番に紹介していきます。

MRR

・MRR
MRRはMonthly Recurring Revenueの略で、月次経常収益と言われたりします。毎月繰り返し発生する定期収益のことで、サブスク型ビジネスにおいて最も重視される指標のひとつです。多くのサブスクリプションサービスがユーザーから毎月定額の利用料金を受け取るものであることを考えると、重視されるのは当然のことと言えるでしょう。初期費用のように経常的に発生しないものはMRRからは除外されます。

・新規MRR
新規MRRは新規ユーザーの獲得によって新たに発生した、増加分のMRRを指します。

・アップグレードMRR
アップグレードMRRは既存ユーザーがプランをアップグレードしたことで、前月と比較して新たに発生した増加分のMRRを指します。

・ダウングレードMRR
ダウングレードMRRは既存ユーザーがプランをダウングレードしたことで、前月と比較して減少した分のMRRを指します。

・解約MRR
解約MRRはサービスを解約したユーザーにより失われた、減少分のMRRを指します。

ARR

ARRはAnnual Recurring Revenueの略で、年次経常収益と訳されます。文字から想像できる通り年間の定期収益のことです。MRR×12で計算します。

ARPU

ARPUはAverage Revenue Per Userの略で、1ユーザーあたりの平均収益を表しています。MRR÷ユーザー数で計算します。

解約率

解約率は当月の解約数÷前月のユーザー数×100で計算し、%で表します。

シートでの運用例

上記で紹介した指標を使ってエクセルで運用すると例えばこのようになります。(下記のエクセルにはARRは登場していません。ご了承ください。)
月額50,000円のプランと150,000円のプランがあり、初期費用が200,000円のSaaSを想定しています。

KPIマネジメントの一例

この表はかなりシンプルなもので、実際に企業で運用される場合はもっと複雑になっていることが多いと思います。上記では契約プランはせいぜい2パターンしか想定されていませんが、実際はもっと多くのプランが用意されていたり、プランに従量課金部分が含まれていたりするからです。そして今回MRRやARPUと言った指標を紹介しましたが、サブスク型ビジネスで使われる指標はこれ以外にも数多く存在します。

また、この表の背後には営業担当者の見込み客に対する訪問回数や提案件数といった数字も隠れていたりします。

おわりに

サブスク型ビジネスの世界にいないと、今回紹介した指標はなかなか出会うことはないと思います。日商簿記検定や伝統的な管理会計のテキストで勉強していてもMRRやARPUは出てきません。しかし業界によって様々な指標があり、管理会計において求められるものは業界・企業によって変わってくるのだと思います。財務会計の世界とはまた違ったものですが、会計の分野は様々な応用があり無限に広がっているということが、新たに会計を学んでいる方たちにも伝わったら良いなと思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?