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おぼろげな記憶の中にある街へ行く。
今度の出張で、20年前に暮らしていた街の近くへ行く。
こんにちは、のんです。
小学1年生まで岡山県に住んでいた。けど当時の土地の記憶を、私はほとんど覚えていない。強いて言えば、社宅で過ごした日々のことはおぼろげながら……といった具合だ。
補助輪なしの黄色い自転車に乗れるようになったこと。その1~2年後くらいに妹に自転車の乗り方を教えたこと。敷地内でローラースケートを乗り回していたこと。春先、いつ離れ離れになってもおかしくない同じ社宅に住む同世代の友達と遊んだこと。
社宅から離れたところにどういったものがあったのか。たとえば、社会人になってから親から聞いた、当時近くにあったらしい商店街のことや、スーパーマーケット、テニス場ーーそういった場所の記憶は全くと言っていいほどない。
何気なく、出張で泊まるホテルの名前を挙げたら、両親がとても驚いていた。不勉強だったが、有名な良いホテルだそうだ。しかもその周辺は、私が生まれる前から、親がよく足を運んでいた商店街が近いという。
「懐かしい」と言いながら、2人がどんどん覚えのある飲食店の名前を挙げていく。
「うどんがすごくおいしくて、しょっちゅう行ってたお店があったなあ」「絶対のんが好きそうな喫茶店がある」「ちょっと良い値段はするけど、行って後悔はしない居酒屋があった。今もあるかな?」「のんが大好きだったワッフルを売っているところがあって……覚えてないよねえ」
2人からあふれてくる、記憶。「やだ、20年も前のことなのに忘れないもんね~」と言いながら、会話が止まらない。記憶って、土地に焼き付いているものなのかもしれない。
普段から気になるお店の情報はGoogleマップに記録することが癖になっている私は、両親から出てきたお店をどんどん「行きたいリスト」に追加していく。時々「ここ?」と訪れた人が撮影した写真を2人に見せる。宿泊予定のホテルの周りに、緑色のピンが増えていく。
私が行ったことのあるお店もあるという。でも全然知らない。
仕事のことで少し張りつめていた感覚があったけれど、思いがけず楽しみが生まれた。両親の、そして覚えていないけれど私にとっても思い出の地に、1カ所でもいいから足を運べたらいいな。何か思い出したりするんだろうか。
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