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湯を沸かす

とても静かだった。彼はデスクトップ型のパソコンを前に黙々と資格勉強をしている。わたしはあまり物音を立てないようその斜め後ろの位置に座り、本を読む。

コーヒーを淹れようかな。立ち上がって隣の台所へ行く。電気ケトルの近くに粉末のインスタントコーヒーの瓶が置いてある。

粉末のインスタントコーヒーって、美味しく淹れる裏技みたいなのってあるのかなと調べる。結局、提示された容量を守るのが良いんだなというところで落ち着いた。どうせだしきっちり計ってみようかなと、ふたり分、280mlの水を計量して電気ケトルに入れてスイッチをオンにする。それぞれのマグカップに小さじ1の粉末を入れておく。

電気ケトルの中の水がグツグツいいだして、お湯になっていく。

自分にとってこの家電は地味に馴染みがない。使うとしたら宿泊先のホテルに備え付けられているものとか。

我が家はといえば、お湯はやかんで沸かす。電気ケトルはない。魔法瓶にたっぷり入るくらいの量の水を目分量でやかんに蛇口から注ぐ。大体注ぎ口の真下スレスレくらい。微妙に余ったお湯は、たとえば常備している冷たいほうじ茶をつくるために使われたり、シンクや急須などの熱湯消毒に使われたりする。

ぼんやり電気ケトルを眺めながら、家の一コマを思い出す。ああそうだ、彼にふたり暮らしを始めるときには、魔法瓶の導入を検討してもらわなければ。絶対便利だと思うんだけどなあ。

またこれも思い出したけれど、実際にそう伝えたことがあった。「まー、電気ケトルがありますしねえ」と返されて、話し合いに膨らむ前にいったん終わったのだった。あの会話は10秒にも満たなかったのではないか。また言おう。沸いたお湯を均等に注いだら、コーヒーはあっという間に出来上がった。

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