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足に残っていた夏の残骸

……穴空いてるなぁ。

会食で訪れた店が、お座敷タイプだった。パンプスを脱ぐと、従業員に札を渡される。「ありがとうございます」と言いながら下に目を落とした時、履いていた黒のカバーソックス、その左足の親指部分に小さな穴が空いているのを発見した。

げげっ、と思いながら即座にスリッパを履く。良かった、朝は空いていなかったから油断していた。

席が2階だったのでえっちらおっちら階段を上がる。スリッパで階段を上がるのがちょっと苦手だ。うっかりすると脱げそうになってこわい。

2階に到着し、部屋へ向かう。なんとスリッパを脱いで畳へ上がるスタイル。なんてこったい。いっそ脱いじゃう? いやしかし……。

葛藤しながらも目の前の畳に覚悟を決めてカバーソックスに手をかけようとした時にハッとする。いや、脱ぐのはもっとダメだ。

足に、まだ夏の残骸が残っている。

小さな穴から、ちらっと赤い塗料が見えた。ペディキュアだ。しかも、かなり剥がれかけの。

季節が変わり、肌寒くなった。サンダルを履かなくなってからずっとそのままにしていた赤いペディキュア。爪は切るので、その分赤い面積は減っていったものの、除光液を当てることはなかったペディキュア。

カバーソックスは脱げない。誰がわたしの足元に注目しているんだとも思うけど、5本指それぞれで塗料の状態がまばらなこの足先をひけらかすわけにはいかない。

穴の空いたカバーソックスvs落としていないまばらなペディキュア。勝敗は一瞬。

己のズボラさを呪う。といっても、これもまたその場限りの一瞬のものだとわかっている。

意味もなくグイグイとカバーソックスの爪先部分を引っ張ったあと、畳に足をかけた。

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