お礼を言いたい人

僕にはお礼を言いたい人がいる。その人っていうのは多分もう会えないような人だと思うし、自分の人生においては必要のない人でもあるからだ。これは決して故人に対しての言葉ではない…かもしれない
なんせ、連絡先も知らない相手だからで出会い方もかなり偶然と言えるようなものであったからだ。
その人の名前は『ユーキさん』と呼ばれていた。呼ばれていたという表現であるが、その人の出会いというのはマッチングアプリで出会った女性からの紹介であったからである。

『小説書いているんだよね、その紹介したい人がいるんだけど。どうかな?』

僕はその言葉に一瞬、不安を抱いたのをよく覚えている。なんせそういった出会い系での紹介というのは基本的にマルチだったり宗教勧誘だったりするからだ。その時、僕は24歳…2022年に起きた出会いでその前の段階でも、僕は彼女欲しさに出会い系で女性と会おうとしていたのだがそれが全部、マルチだったのである。
もう人間不信になりかけていたときに掛けられた言葉、それがもう不安でしょうがなかったのに僕は女性に嫌われたくなかったので、渋々了承したのち板橋駅にある喫茶店に連れて行かれたのち、僕はその『ユーキさん』という人と遭遇したのだ。

「君がコキ太郎君だね」

見た目で僕は思わず萎縮してしまった。なんせEX◯LEにいたメ◯ディーのようなごつい見た目に加えて金色のネックレスにストライプ柄のスーツを筋骨隆々な肉体の上に着用していたのだ

「ど、どうも…そ、その、、、ユーキさんですか?」
「うん、そうだよ〜あれ?〇〇から聞いてない?」

紹介してくれた女性と仲良く話しているユーキさんはそのままタバコを蒸したのち、彼女から色々と説明がされていく。その人を前にして話される会話であるが、どうやらその女性の師匠という存在らしい。
その彼女自身もイラストレーターとして活動しており、紹介にて目の前の男と出会ったのだ。

「ユーキさんは音楽活動をしている人なんだよね〜それで、自分で稼いでいるんだ」

確かそこからユーキさん自身が自分の人生を軽く説明していく。下積みやバイトなどをして何とか生計をたてたのち、自分なりに稼げるようになったということ。その人は彼女から僕が創作活動…いわゆる小説を書いて、いつかそれで食っていきたいということを聞かされており、その人は僕にいろいろな話を降ってきたのだった

「あれ、今って仕事しながら書いているの?どんな仕事?ちゃんと書く時間を避けているの?」
「か、介護の仕事をやっています…その、出勤のタイミングで書いたりとかしてます」
「なるほどね、今やっていることでお金とかは稼げるの?今は収入とかは?」
「その、今は趣味的な範囲でやってます。その、お金とかは稼げる気配がしなくて…」

「もし、本気でやるんだったら正社員は辞めちゃったほうがいいよ。ほら、その時間にあてるのをちゃんと増やさないと。そういった生活で生きてはいけないんじゃないかな?」

僕はその時、何言ってんだこの人って思っており、あまり話を聞いていなかった。その人がどう思っていたのかは知らないけれど、ユーキさんはSNSの使い方などを詳しく話したりしてその日は解散…それと、もう2度と会わなかった

あの時の自分はある種、人間不信であり色々と人を信じることができなかった。だからこそ、自分からブロック削除をしてその人たちから距離を取ったのである。

けれど今となってはユーキさんが話していた結果になっていた。正社員も辞めて自分の創作活動に時間をリソースしているような日々。安定はないけれど、ストレスはあまりないような日々を送っている。

「ユーキさんが言った通りの人生になりましたよ…」

今はどこにいるかも知らないし、何をしているのかも知らないあの人へ僕はもし、出会えるのであれば『ありがとう』と伝えたい。ただ、そう思っている

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