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かりそめの絵具

母方の伯母を名乗るレディーが、引越の挨拶にやってくる。隣家との境界に立つウッドフェンスの際まで来て、「三日前にはお隣さんの関係になっていたのよ」となにやら疚しいことでも表白するように言う。緑の芝生に映えるウッドフェンスは、塗ったばかりの白ペンキで眩しい。同じように、隣の庭には洗濯紐に吊るされた純白のシーツが、何枚も、パリッと糊のきいた布の衝立のように並んでいる。伯母はやけにコケティッシュな微笑を塀越しに送って寄こす。伯母といっても、母とはかなり離れている。不自然に、つまり背徳的な意味で、色っぽく、若すぎるのだ。挨拶もそこそこに、伯母は軽やかに艷やかに庭を舞い、次から次へと洗濯物のシーツを取り込んでいく。忙しなく、というより、抗いがたい潮の満ち引きに身を焦がすように。純白のシーツがすっかり無くなると、一面、芝桜が咲き誇ったピンクの絨毯が庭を埋めている。









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