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物語文が苦手な小学生に伝える読めるようになる読解の基本作法

「メロスが怒った」のはなんで?


突然ですがみなさん、『走れメロス』を思い出してください。
おそらくほとんどの方が中学校で読んだことがあるのではないでしょうか。(このnoteは子供ではなく保護者の方に読んでいただくことを想定しています)
「メロスは激怒した。」
さて、メロスが怒った理由は何でしょう。

こう聞かれたとき、多くの方は「王の非道な行為を聞いたから。」と考えるのではないでしょうか。
もちろんこれは間違いではありません。
しかし、これだけで「激怒した」理由になるでしょうか。

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「王の非道な行為を聞いたから。」という答えを出したとき、おそらくこの答えにたどり着いた頭の中には「メロス」という主人公のキャラクターがすでに浮かび上がってはいませんでしたか?
「『あのメロス』だから王の行為を知って激怒したんだろう」といった具合です。

この作品を知らない人にメロスという主人公が怒った理由を語るとき、僕たちは「王の非道な行為を聞いた」というきっかけに加えて、「単純だが人一倍正義感が強い」というメロスの性格を説明に付け加える必要があります。

仮にメロスが人間不信で、王様の考え方に心から共感するような性格の人間だったとしたらどうでしょう?おそらく、メロスは王様の考え方に共感して「そりゃそやろ」といってそのままシクラスの村に戻っていったことでしょう(笑)

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「単純で正義感の強い性格の持ち主であるメロス」が、「邪知暴虐の王について聞いた」から、メロスは激怒したわけです。

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学校国語と受験国語の違い

上では「走れメロス」を例に説明しましたが、僕はここに学校の授業と受験国語の違いがあると考えています。
学校の授業、学校のテスト(この場合は中学生の話になってしまいますが)では、登場人物の性格をクラスで追いかけ、テストではそれをすでに知っている状態から始まります。
だからこそ先のメロスで言えば、わざわざ「単純だが人一倍正義感が強い性格である」なんてことをわざわざ認識しなくてもいいわけです。
一方受験国語の物語文では、限られた時間の中で始めてみた登場人物の性格や置かれている環境をすばやく正確に把握していかなければなりません。
この部分が学校の授業と受験国語では大きく違い、登場人物の性格や置かれている環境を意識的に把握する習慣がついていないと、物語文でつまずいてしまうわけです。

共感型の読みと客観的な読みの違い

もうひとつ、物語文が読めない理由でよくあるのが共感型の読みから脱却できないというものです。
普段僕たちが読書をするときは、登場人物に感情移入したり、作品に共感したりという形で楽しむことがあるでしょう。
読書であればこれで構わないのですが、入試問題は少し違います。
というのも、入試問題では子どもたちの経験からかけ離れた登場人物が扱われることが少ないからです。

以前、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』が芥川賞を受賞したくらいのときに予備校で大学入試現代文を教えている先生と、「この作品は絶対入試で使われそうだよね」というお話で盛り上がったことがありました。
実際、芥川賞を受賞した翌年の開成高校の入試問題で出題されたわけですが、僕たちが『コンビニ人間』が入試で出題されると予想したかというと、その主人公の考え方の特殊性にあります。
『コンビニ人間』の主人公はいわゆる「一般」の人とは違う「普通」の感覚の持ち主。
その「普通」を文章を読む中で理解していかなければなりません。
この「一般とは少し違う」という所がポイントです。
単に共感するのではなく、本文中に描かれる描写から性格を客観的に把握して、その把握に基づき客観的に心情を理解できるか。
こうした客観的な他者理解ができるかを問うのに『コンビニ人間』は非常に良作品だったわけです。

こうした自分とはかけ離れた主人公の作品は近年多く見られます。
例えば2018年の開成中学校で出題された「専業主夫」の家庭でキャリアウーマンが卵焼き作りに挑む青山美智子さんの『きまじめな卵焼き』、同じく2018年の桜蔭中学校で出題された死んだおじいちゃんとおばあちゃんがお花の妖精になって幼い主人公の元に現れる大久保雨咲さんの『5月の庭で』、関西なら洛星中学校は井伏鱒二の『山椒魚』や宮沢賢治の『猫の事務所』など。
こういった作品が出題された時に、普段共感型で読んでいると手が出なくなってしまうわけです。

物語文を読むために必要な2つの力の身につけ方

以上のことを踏まえると、中学入試国語の物語文の読解の第一歩として必要な力は①本文から登場人物とシチュエーションを把握する力と②本文に登場する心情変化を補足する力であるということができます。

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僕が普段国語が苦手な子が多いクラスを担当する時は、文章の読み進め方として、この2つを確実に抑える練習を行います。
ここではその作業を家庭でも取り組める形に落とし込めたらと思っているので、もしよかったら実践してみてください。

具体的には、まず①を意識する習慣をつけるために、本文を読み進める過程で、時間や場所を頻繁に問いかけます。
例えば「まだブランコが揺らいでいた」という描写があったら、「今どこにいると思う?」と聞いたり、「チャイムの音と同時に子どもたちが一斉に出てきた」とあれば「今どんな時間?」というような問いかけをします。
前者は文脈からそこが学校なのか、それとも公演なのかを捉えられているか、後者は文脈からそれが休み時間の話なのか放課後の話なのかを捉えられているかを確認する意図があります。
こうした事は改めて聞くこともないと思われるかもしれませんし、実際子供達に聞くと分かっていることがほとんどです。
しかし、その「当たり前」を確認することが大事なのです。
こうした発問の意図は、①普段当たり前に読み取っていることを言語化することで、②そうした動作を習慣に落とし込む所にあります。
だからこそひとつひとつ丁寧に確認作業をしていくわけです。
(ある程度慣れてきたらそう判断した根拠も聞いてあげるとなお良いでしょう)

次に本文に出てくる登場人物の性格を把握する習慣の付け方です。
これは子どもたちに一読させた後、自分たちで主要な登場人物の性格について聞いてみて下さい。
(こちらは慣れてきたらそれをノートにメモさせる、さらに慣れてきたらそう判断した根拠を尋ねるということを加えると効果的です)
この性格を捉えるのが苦手な子に対しては、特定場面をひとつひとつ取り出して、「こういう場面でこういう行動をするってことはどんな性格だろう?」という発問が効果的です。
こうした発問の繰り返しで、性格を把握することが習慣化したら、次は心情把握の練習です。

心情に関しては物語文の中には①直接の心情描写と②間接の心情描写があり、それぞれ微妙に身につけるべき力が異なります。

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が、いずれも本文に出てきた所でこぼさず把握する必要性がある事は同じですので、練習する際には同時並行で進めていけばいいでしょう。
(いずれ主要教材における学年ごとに登場する直接の心情描写と間接の心情描写の比率の推移をまとめたデータなどを用いて、この辺の話はまとめようと思っています)

さて、基本動作としては直接/間接に関わらず、心情を表す語が出てきたらそこにチェックを入れるというのが読み進め方なのですが、僕の授業ではそれに加えて、②の間接描写の場合は必ずその都度その心情の間接描写が表す心情をメモ書きさせるようにしています。
例えば「試合に負けた。僕はポケットの中でぎゅっと拳を握った。」と書かれているのであれば、「拳を握った。」の部分に線を引くのと同時に「悔しい」と書いてもらうといった感じです。
こうすることできっかけと心情変化をセットで捉える訓練とともに、描写を心情語に置き換える練習を行っています。

「状況と性格を把握する習慣づけ」と「心情にチェックする動作」が身につくと、物語文を読み進める基本姿勢がつき始めます。
もちろん実際には、そこから表現技法の問題(この手の問題が解けるようになるには解像度をあげる訓練やパターン認知が必要です)や全体の心情やテーマを把握する練習をしなければならないわけですが、それは先の話です。
まずこの基本姿勢が身につくだけでも、かなり読み進められるようになりますし、何よりお子さん自身が「ちょっと解けるかも」という自信を持てると思うのです。
(因みに僕は4年生の授業や5年生の前期くらいの授業までだったら、解法や時間内に解けることはそっちのけで、この動作の定着に授業を全振りします。)
基本動作が定着していれば、その後の指数関数的な成長が期待できるからです。

物語文に関しては上記に書いたものが、国語が苦手な子が家庭で学ぶ上で1番実用性の高いやり方なんじゃないかなあと思います。
よかったら実践してみてください。

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