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ライター入門、校正入門、ずっと入門。vol.9

「校正・校閲の仕事を専門とするプロフェッショナル集団」聚珍社の中嶋泰と、フリーライターの張江浩司が多種多様なゲストお迎えしつつ、定期的に酒を飲みながらぼんやりと「書くこと、読んでもらうこと」について話していくトークイベントの模様を、ダイジェストでお届けします。

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自分の中でストーリーを作ることが大事

張江 司会を務めます、ライターの張江です。

中嶋 このイベントの主催をしています、校正を専門とする会社「聚珍社」の中嶋です。

張江 それでは早速ゲストのみなさん、どうぞ!

(ゲスト登壇)

一色 XOXO EXTREMEの一色萌です!前回は絵恋ちゃんがいたので、緊張して全然喋れなかったので、今回はがんばります!

榊 株式会社リットーミュージックからきました、編集者の榊郁乃です。よろしくお願いします!

髙垣 出版社で編集をやっています、髙垣です。よろしくお願いします。

張江 今までいろいろなジャンルのライターや編集・校正の方に来ていただきましたけど、そういえば書籍の編集に携わっている方をお呼びしていなかったことに気づきまして。落語作家の方や自由律俳句の方はお呼びしたのに。

一色 変化球を投げすぎましたね(笑)。

中嶋 オーソドックスな編集の方はお呼びしてなかったんですよね。編集さんはライターさんと校正を繋ぐ大事な存在です。

張江 髙垣さんはどういった経緯で編集者になられたんですか?

髙垣 出版業界に憧れがあったわけじゃなくて、就活するときに何かクリエイティブな仕事がいいなと。当時ラジオが好きだったんでラジオ局とかテレビ局を受けてったんですけど、なかなか決まらなくて。出版もいってみようかなと思って、今の会社に拾ってもらいました。

中嶋 今までのゲストの方々は紆余曲折あってライターなり編集者になった人ばっかりですが、新卒で入った会社にずっといるっていうのは初めてですね。

髙垣 大学受験で2浪してしまったんで、紆余曲折する余裕がなかったんです(笑)。出版社に入って、コミックの編集を希望したんですけど、まずは週刊誌の編集部に配属されました。1年くらいしたら少女漫画誌に異動になって。当時は自社の好きな雑誌を数冊もらえる制度があったんですけど、漫画雑誌ばっかり自分の机に積んでたら「あいつはそんなに漫画がやりたいのか」と(笑)。そのあとは文芸の編集で、次は電子書籍の部署で電子書店への営業や既刊本の電子化を担当してました。

中嶋 電子書籍が普及しはじめた当時は、本のテキストをデータ化するために人の手で文字起こしするか、OCR(光学式文字認識技術)で読み込む必要があったんですけど、まだ精度が低くて。なので、電子化する際に校正してほしいという問い合わせはけっこうありましたね。海外からもありましたし。でも、古典を電子化してもそこまで大ヒットするわけではないじゃないですか。予算が限られてるので、結果、あまりビジネスにはならなかったですね(笑)。

張江 電子書籍の次は今の部署ですか?

髙垣 そうですね、今は幼児向けの雑誌や絵本を担当しています。子どもができたときに、自分の経験を仕事に反映させたいなと思ってたら異動したんですが、忙しくなっただけでした(笑)。

榊 机に育児雑誌積んでアピールしたんですか?

髙垣 もう今は雑誌もらえなくなっちゃったんですよ(笑)。子どもが2歳なんですけど、ちょうどそれくらいの幼児向けの本や雑誌を作ってます。

榊 お子さんは髙垣さんが作った本を読まれるんですか?

髙垣 鉄道の本とか図鑑とか、けっこう読んでるみたいです。

中嶋 最近の子どもは本を読むときにスワイプするって聞いたんですけど、本当ですか?

髙垣 さすがにそれはないですけど、スマホには慣れてますね。YouTubeの広告飛ばすボタンちゃんと押しますよ(笑)。

榊 お家に読者がいるのいいですね。

髙垣 作った本の『間違い探しクイズ』とか、子どものリアクションを見て「ちょっと難しかったかな」って反省します。

一色 そういう間違い探しとかのクイズも校正するんですか?

中嶋 難しいところなんですけど、一応やってみます。ミスで解がない可能性もあるんですよ。クロスワードパズルに懸賞がかかってる雑誌もありますけど、それに解がなかったらクレームきちゃいますからね。こないだマッチ棒パズルを会社の校正者みんなで解いたんですけど、難しくて30分かかりました(笑)。

張江 髙垣さんはいろいろな部署を経験されてますけど、それができるのが大きな会社に長くいるメリットでもありますよね。

髙垣 僕も最初は異動せず、ずっと同じ部署にいるスペシャリストみたいな人に憧れてましたけど、一年で異動になったんで(笑)。

張江 週刊誌、少女漫画、文芸、児童書だと、仕事内容も全く違うんじゃないですか

髙垣 そうですね。でも、例えば少女漫画をやってるときは少女漫画脳になるというか。常に「これは漫画にならないかな」と考えるようになるし、文芸のときは「これは文庫にできないかな」と考えてました。漫画でも週刊誌の記事でもインタビューでも、ちゃんと自分の中にストーリーを作って準備しておくことが大事だと思うんです。そしてさらに、それが予想の上をいく感じで裏切られるのが編集の仕事の面白いところかなと思います。ダメな例だと週刊誌にいたときに、先輩から企画が降りてくることがあったんですよね。当時だと「キャビンアテンダント座談会」とか。

張江 いい感じで下世話ですねー(笑)。

髙垣 ただ、座談会はしたものの、どういう記事にするかイメージできなくて、先輩に泣きついて助けてもらいましたけど、「準備不足」と言われました。でも、振られた企画をどう準備するんだよ!って(笑)。

「私、天才かも!?」

張江 榊さんは、どういった経緯だったんですか?

榊 リットーミュージックは「ギター・マガジン」とか「ベース・マガジン」とか硬派な音楽誌が多い出版社なんですけど、ライトな音楽ファンでも読めるwebサイト(「耳マン」)を立ち上げるということで編集者を募集してたんです。そのとき私は美容師だったんですけど。

一色 えっ!美容師さん!

榊 5年目くらいだったんでお客さんもいたんですけど、違う仕事もやってみたいなと。音楽も本も好きだったんで、そういう仕事を探してたら「耳マン」の求人を見つけて応募したんです。そしたら受かっちゃった(笑)。

張江 全く未経験で応募する榊さんもすごいし、採るリットーもすごい(笑)。

中嶋 試験はなかったんですか?

榊 文章を書く試験があったんですけど、全然書けてなかったと思うんですよね。でも日能研で国語の成績は良かったから、それで入れたのかなって(笑)。

中嶋 ゲラとか、日常生活では使わない言葉が飛び交いますけど、戸惑いませんでした?

榊 編集長がゼロから教えてくれました。編集長も元ミュージシャンで、けっこう変わった面白い方なんですよね。だから、普通の編集者じゃない感覚の人を採用したかったみたいです。

張江 リットーは楽器の専門誌が多いから、元ミュージシャンの人が多くて、変わってる人も多い印象があります(笑)。

榊 会社入ってびっくりしたのが、みんなデスクの横にギターがあっておもむろに弾きだすんですよ。「ギター弾きながら仕事してる!」って思ったんですけど、譜面のチェックをしてたんですね。

一色 それは音楽系ならではですね。

髙垣 榊さんも音楽的な素養はあるんですか?

榊 それが全く弾けないんですよ!(笑)

中嶋 すごくバンドやってそうなのに!

一色 ピックは持てなくてもハサミは持てますもんね。

榊 そう、髪は切れます(笑)。

張江 「耳マン」はニュースサイトですよね。

榊 そうですね、デイリーのニュースは出してます。あとは、ミュージシャンやお笑い芸人、アイドルなどさまざまジャンルの著名人の方にコラムを連載してもらったり、インタビューもあります。エンタメに特化した情報を載せてます。

一色 私、「耳マン」をブックマークしてて、何がきっかけだったかなと思って調べたら、掟ポルシェさんがイクラの漬け方を書いたコラムでした。私も毎年イクラを漬けるので。おかげで美味しいイクラが食べられてます(笑)。

榊 掟さんのレシピは信用できますからね。

一色 そうなんですよ!すごく美味しくできて。漬けてるところをツイキャスで配信したら掟さんが見にきてくれました。ロマン優光さんも。

張江 一色さんのツイキャスでロマンポルシェ。が揃った!(笑)

榊 ご自身でもおっしゃってますけど、掟さんは食べ物に関することになると人が変わるんですよ(笑)。好きな食べ物や嫌いな食べ物、レシピとか食にまつわることについての「食尽族」っていうコラムを連載してもらってます。文章が面白すぎて、原稿校正しながら声出して笑っちゃいます(笑)。

張江 こういうコラムは榊さんが企画してるんですか?

榊 そうですね。編集部でそれぞれ企画します。この「食尽族」の前も掟さんに「男の!ヤバすぎバイト列伝」というコラムを書いていただいたり。この連載を書籍化したのが、初めての書籍編集でした。

張江 あれは名作ですよ!映画化してほしい。

一色 新宿LOFTのステージ袖にこの本のポスターが貼ってあって、毎回ザワザワします(笑)。

榊 今でも覚えてるんですけど、書籍の発売日が金曜日で、月曜日に重版が決まったんですよ。「私、天才かも!?」と思いました(笑)。

髙垣 それはすごいですよ。

榊 実際は掟さんがすごいだけなんですけどね。

張江 「耳マン」と関係ない書籍も作ってらっしゃいますよね?

榊 webサイトの運営がベースにあるので、基本的にはネットでバズってるものに注目して、本にさせてもらうことが多いですかね。

中嶋 同時進行でどれくらい案件を抱えてるものなんですか?

榊 数えたことはないんですけど、サイトの編集業務をしながら、書籍を1本担当してる感じですかね。説明が長くなっちゃうんであれなんですけど、そのほかにもアパレルのプロデュースをさせてもらったりとか、色々なことをやってます!

一色 毎日ニュースを更新しながらですもんね。すごい……!

受け継がれる出版社のイズム

張江 髙垣さんが最初に携わった書籍編集は何ですか?

髙垣 漫画編集のときのコミックスですね。連載の担当をやって、それがまとまったらコミックスにするという。そして文芸の部署のなかでは、文庫の担当でした。会社にもよるんですけど、文芸の場合は連載の担当と文庫にする担当が違うんですよ。作家さんによっては専属の編集者がいたりして、部署をまたいで連載も書籍化も文庫化も全部やる、みたいなこともあります。

榊 あー、そういうのって本当にあるんですね!ドラマとかで見たことあるような感じの。

中嶋 編集者はいろいろなドラマになってますもんね。校正は「校閲ガール」だけ(笑)。

張江 幼児向けの書籍はどういう流れで企画が決まるんですか?

髙垣 僕の担当は「はたらくくるま」みたいな図鑑系なんですけど、競合が多いんで悩ましいんですよね。例えば「赤色灯」はわからないだろうけど、マニアックな子は知りたい欲があるから載せてあげたいし、そのバランスが難しいんです。あと、特殊なのが、本の部数を決める販売部という部署があるんですが、そこから「こういう本は売れるから出し直したほうがいい」と提案がくるんですよ。他の編集部にいたときにはなかったことなんです。「あの作家さんの新刊出したほうがいいですよって言われても、そりゃ出せるなら出したいよ!ってなるんで(笑)。でも幼児向けは読者が入れ替わっていくし、例えば電車の車体も定期的にリニューアルするから、「今電車の図鑑出せばすぐ重版かけられるよ」みたいな現場のアドバイスはすごく役に立ちますね。少子化とはいえ、子どもは常にいて需要はあるので。

張江 子どもに買うなら最新版の図鑑がいいですもんね。

一色 私もスーパー戦隊の図鑑買いますけど、毎年内容が違いますからね(笑)。

中嶋 ちょっと似た話で、聚珍社で資格試験の問題集の校正をやってるんですね。ああいう本は合格した人はもう読まないから、同じ内容をマイナーチェンジしていけばずっと売れるんですよ。子ども向けの図鑑も成長したら読まなくなるけど、新しく生まれてきた子にとっては最新のものですから、ずっと売れるわけですよね。

榊 車とか電車とか、人気のジャンルってずっと変わらないものですか?

髙垣 せっかく自分がやるので、変えていきたいじゃないですか。クリエイティビティを発揮したいというか(笑)。でも結局はブルドーザーとかになっちゃいますね。

張江 次に「はたらくくるま」系の図鑑を作るときは、Uberの配達してる自転車とかどうですか?今一番働いてる車だと思うんですけど。

髙垣 あ、いいですね!めちゃくちゃ時代を反映してるし。いいネタになります。

張江 榊さんは最近どんな本を企画しました?

榊 新日本プロレスのSANADA選手のスタイルブックです。

張江 おお、何も音楽が関係ない(笑)。

榊 (笑)。プロレスの本を出させてもらうのも、もう3冊目で。新日本プロレスの選手の胸筋の写真集「新日本プロレス胸筋図鑑」も出しました。

一色 胸筋……?

榊 以前編集長の企画で、レイザーラモンRGさんのスニーカーのキモ撮りがネットで話題になっていたのでスタイルブックを作ったんですね。自分はプロレスも好きなんですけど、芸人さんのスタイルブックが面白いなら、プロレスラーのビジュアルに特化した本を作っても面白いんじゃないかなと。それで、「新日本プロレス胸筋図鑑」や、高橋ヒロム選手のスタイルブックを作らせていただいたのが始まりでした。

張江 趣味と実益を兼ねてますね。

榊 ちゃんと読者の需要は見えてますよ。喜んでもらえるだろうなって。

張江 リットーで写真がメインの書籍って出したことはあるんですか?

榊 楽器のカタログ的なものはありますし、ミュージシャンの方、例えば布袋寅泰さんのアーティストブックとかもありますね。

中嶋 社内にちゃんとノウハウはあったわけですね。

榊 リットーとお仕事してくれている、アーティストをかっこよく撮ってくれるカメラマンさんは、プロレスラーもかっこよく撮ってくれるし、アイドルも可愛く撮ってくれるんですよね。あと、「プロレスラーの胸筋が何cm」みたいなデータは「このエフェクターはどういうスペックで」みたいなことと似てるんじゃないかなって(笑)。本を作るイズムとしては、一応受け継いでるような気がします。

本を読む人、読まない人の二極化

張江 だいぶ前から出版不況と言われてますけど、実際はどうですか?

髙垣 自分が入社した2000年ごろから「出版不況がくる」と言われはじめたんです。なのでバブルを知らないというか、絶頂期を知らないのでなんともいえないところではあるんですが、思ったより下がってないなとも思います。電子書籍が普及したことで、紙の書籍の部数を絞って在庫をなるべくもたないようになったという部分はありますけど。でも、巣ごもり需要もあって、出版不況も(一時的かもしれませんが)底を打ったんじゃないかなと思います。あと、昔は出版して終わりだったんですけど、今は出した後のプロモーションというか、営業がすごく大事になっていると思います。

張江 音楽はニュースサイトがいっぱいあるし、減ったとはいえテレビの音楽番組とかもありますけど、本を紹介するニュースサイトとか番組ってすごく少ないですよね。ブックナタリーはないですし。

一色 おやつナタリーはあったのに……(笑)。

髙垣 やっぱり、本はSNSとかよりも書店の役割が大きいんですよ。

中嶋 レジ横に新刊情報が書いてあったり、出版社が出してるフリーペーパーがあったりしますもんね。映画館の予告編で新作の情報を得るみたいな感じで。

一色 本を買うと新刊のお知らせが挟まってますよね。

張江 なるほど、すでに読書習慣がある人に知らせる方法が色々あるけど、本を読まない人にアピールできないということなのか。

髙垣 本をすごく読む人と、全く読まない人に二極化してると思います。

中嶋 Amazonで本を買うと、興味がありそうな本をおすすめされますよね。

張江 全然興味なくてムカつくことがよくあります(笑)。

中嶋 そのAIの精度が低いということは、人の力で校正する仕事にまだ需要があるということですね。我々の最大のライバルはAIですから。

榊 当分は校正さんの仕事はなくならないんじゃないですか?

中嶋 データの校正に関してはAIが強いですけど、人間の機微は判断できないですからね。

一色 あえて残してある表記揺れとかもAIじゃわからないですよね。

張江 こないだ、あるバンドを取材したんですけど、新譜がけっこうシリアスな内容だったんですね。でも話を聞いたらとても健全な状態だったので、それを強調するために「拍子抜けするほど健全だった」とあえて誤用をしたんですけど、校正されてしまって。編集さんも「張江さんの意図はわかるんですけど、うちの媒体はあまり普段から文章を読まない人が読むので、シンプルに間違っていると思われるかもしれません」と。「文章を読まない人に向けた文章」って、webメディア以降増えている感じがします。

中嶋 その分気軽に読むようになりましたけどね。テキストに触れている量はむしろ増えているでしょうし。

一色 でも、本を読む習慣がない子は文章を読みたくないからニュースサイトも見ないって言ってました。画像のキャプションでだいたい把握するって。漫画も読まないそうです。

榊 一色さんは何で漫画を読みますか?

一色 電子でも読みますし、気に入ったら本も買いますね。

中嶋 いいお客さんです。

一色 でも、少数派だとは思います。キスエクのメンバーでも、本はあんまり買ってないですね。

張江 音楽も、サブスクは聴くけどフィジカルは買わない人が多いでしょうしね。

一色 私はCDも買うし、アナログも買うので。

張江 一色さんがカルチャーエリートすぎて一般的なサンプルにならない(笑)。

榊 自分もそうですけど、そういう病気の人はどの年代にもいますよね(笑)。

次回は12月22日!

今年の1月から月に一度開催してきたこのイベントも無事1年やりきりました。全ての回にゲスト出演していただいた一色さん(それはレギュラーでは?)も尊敬する姫乃たまさんをお迎えし、姫乃さんの文筆に関わるお話をお聞きしつつ、一緒にこのイベントを振り返ります。無観客配信ではありますが、忘年会だと思っていただければ幸いです。

https://twitcasting.tv/loft_heaven/shopcart/119277

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