時間をつぶすのが難しかった話
「楳図かずお大美術展」に行ってきた。
行けるチャンスがあれば、と話をしていたのだがそろそろ行かないと展示が終わってしまう、ということでようやく重い腰をあげることにした。
念の為サイトを確認すると、平日特典として15時以降に来場すると『グワシができるウチワ』なるものがもらえると記載があった。
グワシ、と言われても楳図かずお先生、いや、まことちゃんを通ってこなかったひとにはなんのこっちゃだろうと思うけど、楳図先生の代表作のひとつである「まことちゃん」には決めポーズとして、パーの状態から中指と小指だけを折るグワシポーズというものがあって、当時の小中学生はしょっちゅうまことちゃんの真似をして「グワシ!」とやりあっていた。
やってみるとわかるがあんなに漫画みたいにきれいに中指と小指だけは曲がらない。どうしてもつられて薬指も折れる。結果、ビミョーに中途半端なおっさんチョキのようなポーズを得意げにとる小中学生があちこちにいた。
毎度のことだけど説明が長い。
そのグワシができるウチワがもらえると言う。
15時以降に来場か。
昼前に出かけて仕事の備品を買い、その後いつものパーキングに駐めてランチを食べてエネッチケーで大河ドラマプラザをみて、ほら、ちょうどいい時間になりそうじゃん?
と心の中でわたしはざっくり計画をたてていた。
が、一緒に行く姉が10時すぎにもう準備ができた、と言う。
生き急ぎすぎだ。
こちとらまだメデューサ頭のままTシャツ短パンでぼんやりInstagramを見ている。
そんなに早く出かけて何をするというのか。
このクソ暑いのに。
わたしはグワシができるウチワをもらうことをメインに計画を立てているのだ。計画が狂うじゃないか。
が、仕方ないので出来うる限りのんびり準備をして昼前に出発した。
こういう時、メイクに時間がかからないというかかけられないのがなんとも腹立たしい。
わたしのメイク時間は歯磨きより短い。
買い物を済ませ、ランチは久しぶりにハンバーガーを食べることにした。
このお店のハンバーガーはもちろん付け合わせのポテトフライもおいしい。
が、まずここで最初の計算ミスがあった。
想定していたよりハンバーガーが出てくるのが早かった。
え?もう?というくらいシャッと出てきた。
でもまあのんびり食べればいいよね、と言い合っていたのに、なんということか。
ハンバーガーというのは時間をかけて食べるものではなかった。
袋に入れて一口食べたが最後、お皿に置くと崩れるしバンズはどんどん水気をふくんでしまうしで、このあとはもうもぐもぐもぐもぐ食べ進むしかない。
なぜそんなことに今まで気が付かなかったのか。
考えてみたら今までだってハンバーガーを食べていて途中で皿に置いたことなどなかった。
やばい。
あっという間に食べ終わり、デザートでも追加しようかと思っても満腹で入る隙間がない。
むりやりコーヒーをのんびり飲んだがそれでも30分もいられなかった。
仕方ない。こうなったら大河ドラマプラザをじっくり時間をかけて見ようではないか。
大河ドラマプラザには現在放送中の「どうする家康」のドラマの流れ、インタビュー映像などが展示してあった。
そして無駄にスペースを取ってキャストのパネルが置かれている。
ドラマプラザよお前もかという気になった。
家康と秀吉の間に立って記念写真を撮ったり家康と2ショを撮っても時間がつぶれない。
いっそのことキャスト全員と記念撮影でもしたろうかしゃんと思うくらいにあっという間に終わってしまった。
その後、文字通りじっくりと美術デザインの説明やら家康の一生やらを読み込み、キャストのサイン色紙を一枚ずつじっとりながめ、秀吉のインタビューを3回ループし、名場面パネルをぼーっとみてるうちになんとか14時45分くらいになった。
さてそろそろ向かってもいいんじゃないかということでエネッチケーから外に出た。
時間があるのだからそんなことは考えなくてもいいのに、しっかり楳図かずお大美術展会場に近い方の出口を探して出てしまった。
時間があるのだからちょっと遠回りするくらいでいいのに、ここ曲がったらちょうどいいとこ出るよね、などと細い道に入ってしまった。
案の定うまいこと会場のすぐ横に出て、ほらね、などと得意になり次の瞬間時計を見て、ああとうめいてしまった。
根っからの合理主義がこんなところで裏目に出た。
ここまで5分で来てしまっている。
あと10分もある。
でももしかしたら会場がビルの中でも上の方のフロアかもしれないし、と淡い期待を持ってビルに入ると目の前に階段がありその上に大きな「楳図かずお大美術展」という看板が見えた。
近っ。
すぐじゃねーか。
喫茶店に入るほどでもない、かと言ってちょっとのぞけるようなお店もない。
姉が期待を持って近寄っていった奥の店は美容院だった。
行けるのはトイレくらいだ。
エネッチケーから出る前にも行ったのにまたトイレに行き、階段下でうろうろする。もう出るものはない。
15時以降と謳っているからにはきちんとその時間を守らなくてはいけない。
ここまで来て、まだ15時になってないんですよねーなどと言われたら元も子もないし、え?ウチワもらえないんですか?などと図々しく言えるほど面の皮も厚くないので、牛歩で階段に近づいたり離れたりしながらなんとか5分経過した。
1分前になり、さすがにそろそろいいんじゃないかとエスカレーターに乗ったわたしとこの期に及んで階段を選んだ姉では、きっとわたしの方が少し度胸がある、気がした。
「15時過ぎに入場下さった方への特典です、どうぞ」
と受付のおねえさんが差し出したグワシができるウチワを受け取りながら、ああこのおねえさんは(この人たちはこれが欲しくて時間ぴったりに来たんだろうなあ)と思ってるだろうなと思った。
その通りだけど。
これが欲しくて来たんですグワシ、とでも言えればこの気恥ずかしさも消えたのだろうが、わたしはまだその境地には達していなかった。
そしてこんなに苦労して手に入れたグワシができるウチワは、グワシをしたままではまったくあおぐことができず、そよ、とも風がこなかった。
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