ロマンの生物学(2) ~無し墓村の呪いについて~

ばい菌に寿命がないなら、単純に人間からも寿命遺伝子を削除してしまおう。
さて、どうなるだろうか。

1. ばい菌になってしまう 
ばい菌に寿命がないということは、寿命のない生物はばい菌であるということかもしれない。
寿命遺伝子を削除したはいいが、体の細胞がバラバラと崩れて、それぞれが勝手に生き始めたら、それはコマる。

2. 生まれてこれない
遺伝子は少しずつランダムな変化をして、それがあなたと私の違いとなり、引いては進化の原動力となっている。
変化の場所はランダムだから、どんな遺伝子にも変化は生じ得るので、それがそのまま遺伝子の病気となってしまうことも多い。
だから寿命遺伝子がコケることだってあるハズなのだが、死なない病気になりましたなどという患者の話など、聞いたことがないであろう。

それはたぶん、寿命で死ぬということはそこまで老化したということであって、老化したということはそれまで成長していたということであって、成長していたということは詰まるところ、受精卵は順調に分割を始めたということだからだろう。
つまり寿命遺伝子がコケてしまったら、死なない病気になる以前に、生まれてこれないということになりそうである。
阿蘇か木曽かチベットの辺りにお墓のない村があって、そこの出身者はやたら歴史に詳しいなどというロマンは、ないのだろうなあ、やっぱり。

3. 癌細胞はばい菌の夢をみるか
正常な寿命遺伝子を持って生まれてきて、順調にオトナまで成長して、そこで一部の細胞だけが死ななくなるという病気ならばある。
癌である。
癌細胞は実験室の培養器の中で、人間の寿命など軽々と超えて生き続けている。
ただ生き続けるだけではなくて、増殖しながら生き続けるから、その総重量が元の患者の体重を軽々と超えて、計算してみたら1トンを超えてましたというものまであるらしい。
まさしくばい菌。
究極の先祖返りであろう。

元々の寿命遺伝子がコケると生まれてこれなくて、生まれた後にコケると癌で死んでしまう。
自然は寿命で死ぬことに対して、ことさら厳重に鍵をかけているようにみえる。
無し墓村の呪いであろうか。
筆者にいわせれば、もともと単細胞生物から多細胞生物に進化するところに無理があったんだと思うが、その話はまた今度。

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