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デスクがスッキリどころか縮小している人のデスクツアー

PC デスクの写真をインターネット上で見せ合う文化がわりと昔からある。近年は YouTube に BGM やカメラワークにこだわった演出たっぷりの紹介ビデオを載せる人も多い。日本でもコロナ禍で在宅勤務の人が増えて以降は PC デスクに気を遣う人が増えている印象だ。PC とガジェットの選択や配置にとどまらず、この数年は照明の使い方やケーブルの整理術など、人々の工夫が互いに刺激しあってレベルが上がっている。

筆者自身もよりよい作業環境を考えるのが長年にわたり趣味の一つである。超多画面セットアップとか派手な色に光るゲーミングな感じとかいろんな流派があるけど、「ひたすら広いデスクに Mac と大きいディスプレイ&スピーカーが共存していて、かつケーブルが目立たずスッキリしている」という最近の流行に近いものを昔から目指している。いや、目指していた。まずはそれらの写真をご覧いただこう。

巨大な事務机での作業環境

前提条件として、筆者が昔から使っている事務机はわりと巨大で天板が 180 × 80 cm のものだ。ディスプレイやテレビもブラウン管が主流の時代の製品でたとえ人が上に立ってもびくともしないぐらい頑丈で重い。しかもそれが狭い部屋に 2 枚存在しており模様替えの際は骨が折れる。

2 枚の巨大な事務机

そんなデスクとともに試行錯誤してきた記録である。

2007.6 ケーブルを見せない、キーボードは引き出しの中
2011.10 ディスプレイアームを導入
2012.7 すっきり天板

ケーブルを目立たせない配線だったり今では定番のディスプレイアームをわりと早い時期から導入している。さらに広大な作業領域を求めて L 字配置に挑戦したこともあった:

2018.2 広大な L 字デスク

シンプル・すっきりはいつの時代も一つの正解。どれも置いてるデバイスを別として 2022 年の現在に見てもそこまで時代遅れな感じはしないだろう。

実は広い PC デスクなんていらないのでは…?

それなのに先ほど「目指していた」と過去形で書いたのはなぜか。...実のところ筆者はもう広くてすっきりした PC デスクには価値を感じなくなってしまった。むしろ「広い PC デスクを万能に拡張し続けるのはよくないのではないか」と思い始めている。

(ここから先はあくまでも自己責任な試行錯誤に基づく個人の意見や感想です。)

理由 1:手元を浮かせたほうが姿勢にフィット

その発端が“可動式パームレスト”だ。「マウス操作」「両手でキーボード入力」どちらのホームポジションでも両腕を左右対称に保つためにはパームレストがキーボードごと変形するしかないという発想で生まれたガジェット。

最初は机の上に設置する巨大で無骨な金属の塊という感じだったのだが、のちに「天板の広い面に溝を掘ってレールを埋め込む」というわりと斬新なやり方で作り直して一枚板のすっきりと優しい印象に生まれ変わった。それをディスプレイアームで浮かせたところ姿勢にフィットする快適な操作環境が実現したのだ。
その経緯はこちらの記事に詳しく書いてある:

高級ディスプレイアームを使うと上下前後左右、角度といったそれぞれのパラメータが軽い力で自由自在に動かせるため体をまっすぐにして前傾姿勢で座っているときもチェアを倒して後傾姿勢で座るときも体にフィットする。

前傾姿勢と後傾姿勢を素早く切り替え

少なくともキーボードとトラックパッドに関してはデスクに直置きするよりも作業効率と姿勢がよくなった。もはや PC デスクのその部分いらなくない?

理由 2:デスクが広くてもある範囲以外は物置になる

2018 年の写真にあるように一時期はただでさえ巨大な事務机を L 字に並べることで広大なデスクを実現していたのだが、これでいろんな作業が捗ったかというとそうでもなかった。たくさん紙の資料を並べる人ならともかく筆者のように目の前の 1 台の Mac を操作するだけだとメリットは薄い。

天板の空いてる部分って結局は物置になっていた。読みかけの本、取り込む予定の CD、やりかけの工作と工具、そのうち使う予定のケーブルなど、近くに置く場所があるとどうしてもそこに置いてしまう。そこにホコリが積もって掃除も面倒なことに。逆に丁寧に片付ける習慣があっても一つの作業でそこまでの面積を使わずなんのための場所なのか疑問。それであれば収納棚を増やしたほうが部屋が片付くではないか。

すっきりデスクのはずが気づくと散らかる

理由 3:スピーカーのスイートスポットに吸い寄せられるのが苦痛

巨大な天板があるとディスプレイの左右にスピーカーを置きたくなるものだ。筆者も高音質を求めてだんだん大きなスピーカーに変更していった。もちろん耳の高さから音を出すのがベストだからスタンドに置く。それも太くてずっしりしてるほうがいい音のはずだ。

圧迫感

…するととにかく圧迫感がすごい。ただでさえディスプレイが大きいのにその左右に塔がそびえ立つ。無駄に広いデスクとともに数年間続けたら嫌になってしまった。

見た目はともかく音の話も。PC デスクにスピーカーを置く場合、基本的にディスプレイを正面から見る位置でベストに聴こえるように設置すると思う。つまりそこがスイートスポットだ。そこに届く音はいいものだけど左右に動くと聴こえ方が変わってしまう。せっかく広いデスクだから端の方でも作業しようと思うが耳に届く音が劣化するのが嫌で動けない。体の方向もデスクと対面する向きに限定されるため部屋での活動が PC デスク中心になってしまう。

ディスプレイで再生しているビデオの音声ならともかく、音楽はなんとしても PC デスクから切り離したい気持ちが高まった。

理由 4:膝のまわりに障害物があると邪魔

筆者はもともと机下にキャビネットなど置かないし、脚が 4 本だとかロの字型とかで手前にあるデスクも避けてる。狭い箱に下半身を収めるようにして座るのが嫌いだからだ。膝上の圧迫感が嫌で天板裏の引き出しを取り外していたこともある。作業中でも足を伸ばしたり左右に回したりしたいのでそこに引っ掛かりがあるのは我慢できないし立ったり座ったりするときも方向が限定されないほうがスムーズである。

今回のパームレストを宙に浮かせるアイデアは膝まわりの障害物を排除することにつながっているし、使わないときはひょいと奥にどかせばいいので部屋が広く使えるようになった。

やっとデスクツアー:現在の環境

経緯を説明し終えたのでやっと現在の PC デスクをご覧いただくことにする。ここまで長すぎる前置きを書いておいてあれだけど意外に平凡な見た目だと思う。

2022.4 最低限の広さの天板

特徴的なのは天板の下に“MacBook Pro が冷えて薄くなるスタンド”(工作記事参照)の天板を吊り下げたことぐらいか。毎日帰ってくると MacBook Pro をそこにはめ込んでいる。膝がそこに来ないからできる話。

ディスプレイは 32 インチのもので後傾姿勢で離れて見るのにちょうどいい。CalDigit TS4 を通じて Thunderbolt ケーブル 1 本でつながっている。

2022.4 キーボードは宙に浮く

今回の変化を一言で表すと PC デスクに詰め込んでいた役割を外に分散させて最小化したのだ。もはや作業場所でもキーボードを置く場所でもない天板は周辺機器と小物を置くだけの空間になっている。

でもそれを実現するには単にこれまで乗っていたものを小さい PC デスクに移し替えればすむ話ではない。先ほどのスピーカーのスイートスポットの話もそうだが、指向性のあるものを PC デスクの定位置に最適化すると部屋のほかの場所が機能しなくなってしまう。
その対策としていくつかのものが役に立ってくれたので紹介しよう。

指向性の排除策 1:部屋のあちこちに照明を配置

まずは照明。これまでは大きい PC デスクのいつも座る場所にベストな照明が当たるようにシーリングライトとの位置関係に気を遣っていたものの、デスクの奥やディスプレイの裏を光らせたりする人々を見ても「またみんな流行ってるからって同じようなことばかりやってるな 🥱」ぐらいにしか思っていなかった。

あるとき「ディスプレイの裏を光らせることでスクリーンと背後の明度差を抑えて目が楽になる」「集中力が上がる」という話を聞いて「ただの派手な飾りじゃなかったのか」と気づいて部屋のあちこちに Philips Hue を導入。ものは試し、壁に当てて間接照明を実現するバーに加え、ストリップタイプのものでディスプレイ裏を照らしたり、ベーシックな電球型のものにクリップをつけて足元を明るくしてみたり。

“MacBook Pro が冷えて薄くなるスタンド”も光っているよ

やってみて気づいたのは、これって「0 の部分に派手な飾りをプラスするのではなく、物体の周囲に落ちた影でマイナスになっている部分を 0 に戻す」意味が大きいのだということ。照明を配置するたびに、いかに大小問わず部屋にある物体がそれぞれの大きな影を落として暗闇が生まれていたのかを実感した。特に部屋の隅の方はシーリングライトの光が届かないので効果絶大。

こうして PC デスクの定位置から動く気にならない原因を一つ取り除くことができたし、ディスプレイまわりの明度差が減って PC 作業も快適になった。確かに視界周辺の暗闇を潰すと作業に集中できる気がする。

指向性の排除策 2:オイルヒータ

エアコンの風向きってわりと部屋のレイアウトに影響する。風が顔に向いていると目が渇くし、風が物体に遮られたり身体から遠すぎたりしても体感効果が弱まってしまう。また、わずかとはいえ動作音がすると繊細な音楽を聴くのに邪魔だ。

部屋の隅々まで同じ暖かさ

そんなわけで冬はオイルヒータを使っている。温まるのが遅いかわりに一度温まってしまうともう部屋の隅々まで同じ空気で満たされる幸せ感がある。モータの回転や風の音がしないので音楽を聴くのも快適だ。…電気代はエアコンの何倍も高いけれども。

指向性の排除策 3:部屋の両端に HomePod

Apple が出していた高級スマートスピーカー HomePod。前述のように筆者は PC デスク上に巨大なスピーカーを置いていたのでこれが出た当時にはまったく魅力を感じなかったし、数年後に安売りされていたので買ってみてもどうにも音が悪くて買ったのを後悔することに。高音がガサガサするし無駄にうるさい低音に全体が埋もれがちでとても音楽を聴く気になれない。

もはや売ってないフルサイズの HomePod

ところが音が悪いのは誤解だった。ふと思いつきでいつものスピーカーの乗ってた砂入りのずっしりしたスタンドに HomePod を乗せたところ、とても気持ちのいい音がしてびっくり。どうやら置いた面の影響を大きく受けるスピーカーだったらしい。しかも頭を左右に振ったり体を移動してみても、スイートスポットというものが存在しないかのように同じ聴こえ方をする。これはいい! 迷わず 2 台目も買ってステレオペアにした。

そのステレオペアの設置方法をいろいろ試行錯誤して記事にしてある:

HomePod は全方位に音が飛ぶので耳の高さという縛りから解放されて低い台に置けるし、壁全体にうまく反射するように部屋の両端に置くと、もう部屋のどこにいても、どちらを向いてもいい音で聴こえる環境にたどり着いた。音の広がりを遮る巨大な家具が消えたことも貢献している。全身が音楽で包まれるこの感覚は、まるで音楽版のオイルヒータみたい。
(↑ これが書きたくてオイルヒータの項を入れたのは秘密。)

部屋の両端に HomePod

後書き

これまで PC デスクであれもこれもやろうとしすぎていたのだ。そこから解放されることで部屋のほかの場所をもっと有効に使えるようになった。収納棚を増やしたし、読書したいときには横にある“宙に浮く書見台”がこれまた姿勢に合わせてくれる(詳細は工作記事参照)。文房具や工具で作業するときだって PC の前である必要はなかった。

思えば生まれてからずっと目の前に大きな天板が広がる光景を見続けていたし、意識せずとも身体や作業工程をそれに合わせていた。作業の主役が紙からデジタルデバイス中心に移ってもほとんど形を変えていないデスクという家具、そのあり方はもはや見直されるべき時を迎えたのかもしれない。(大げさ)

おまけ:アームの固定方法

パームレストを宙に浮かせるアームは足元の木製の小さい棚から生えている。

グロメット式固定ですっきり

いくら上にずっしりしたスピーカースタンドとか乗ってるとはいえそのままだとアーム全体の重みで倒れてしまうよね。対策はというと…

iPod Hi-Fi!


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