本屋のない町

先日、美容院に行った時、美容師(30代)の方とおしゃべりしている中で、「どんな店が近所にあったら嬉しいですか?」と質問された。このニュータウンの商店街は住宅兼用になっていて、高齢化が進んでしまったせいか代替りのできない商店は軒並み閉店してしまい、若干ゴースト感の漂う商店街になってしまっている。

とはいえ、車でニュータウンから下って(ニュータウンは山にある)少し行けば、中規模のショッピングモールはあるし、一通りのチェーン店が揃っているような生活道路もあるので、あのお店があったらなあなどと思うことはほとんどない。

しかし、質問されたからには何か答えなければならない。なんとかこの町(ニュータウン)を盛り上げたいと思っているこの若者(30代だけどこの町では十分若者)に対して失礼だ。そこで絞り出した答えが『本屋』だった。

僕は『本屋』が好きだ。大きくて在庫が沢山ある本屋も好きだし、こぢんまりとした中に工夫を凝らした品を揃えている本屋も良い。だがこの町には本屋がない。上述の通り車に乗れば十数分で行けるところにあるといえばあるのだが、散歩のついでに寄れる本屋はない。本屋は散歩のついでに寄れるくらいにあるのがやはり良い。本屋の中をふらふらとぶらつくのもまた散歩の一部だからだ。

特に目的もなくふらりと立ち寄ってなんとなく陳列されている本を眺める。立ち寄るたびに違う本が並べられていて、まるで季節の移ろいと共に変わる風景のよう。あれもいいな、これもいいな、面白そうだな、読んでみたいな、と思いながら何も買わずに出てくる日もあれば、数冊の本を購入してバッグに入れ、ホクホクとした気持ちで帰途に着く、そんな日もある。

息子とニュータウンをよく散歩するのだけど、そんな時間を子供達と過ごすのも悪くない。時には気に入った児童書を手に取って帰るのもいいだろう。時には何も買わずにお店を出るのも良い。別にすごい品揃えがよくなくてもいい。商品の数が多くなくてもいい。今あるお店が少しだけ本棚を置いてくれるだけでもいい。

今までこの町に『本屋』があることを熱望していたわけではなかったけれど、質問されて考えてみると色々と欲が出てくる。この町、ニュータウンに本屋がある世界は、きっと楽しい。

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