見出し画像

滝行に備えて走り込みをした

10月某日
なんだか上手くいかないことが続いていた。

職場に苦手な人はいるし恋人とも上手くいかない。

そんな悩みを抱えているという話を友人にしたら、こんな返事が返ってきた。

「そういえば、私の親戚が厄祓いに滝行行ってましたよ。」

滝行??

あの、修行僧とかがやるあれ?
色々リスクとか有りそうだし私体力無いから乗り切れる自信な

「行きたい。」

思考中の私を差し置いて反射で生きてる私から言葉が出ていた。

ということで、人生初の滝行が決行されることになった。

思惑通りに行かない日程調整

とはいえまだ10月頭。辛うじて長袖が必要だがまだまだコートとは無縁な季節なので近い時期に行けば耐え切れそうだ。

それこそ、今週末にでも行けたら理想的だろう。寒くなる前に厄を払い積み重ねてきた業を洗い流したい。

滝行を提案してくれた友人に空いてる日程を確認する。

最短で空いてる所だと12月です!」

12月。

LINEの画面をもう一度確認する。

最短で空いてる所だと12月です!

私は死を悟った。

「だ、大分寒いと思うけど大丈夫かな?」

不安になって聞いてみる。

「いとこは2月に行ってるので大丈夫だと思います!」

なるほど。

滝行とは、真冬の極寒に行う。そういうものなのかもしれない。

筋道の通ってないことに対して使える魔法の言葉「そういうものだ。」を何度も唱える事で己を納得させ、日程を承諾した。

死の恐怖に抗うべく始めたランニング

とはいえ前述の通り、私には体力がない。
事務職で日頃ろくな運動もしていないので当たり前である。

パーソナルトレーニング等が流行ってる昨今だが、「流行に乗るのもなんだかなぁ」と渋っていた私も流石に滝行で生き残る為には体力が必要だと感じた。

流行よりも滝行に生活習慣を動かされるのが私である。

ということで、週一でランニングに取り組むことにした。

ランニング初日

流石の私も走る前に準備体操をしなければ翌日苦しむ事は理解していたが、その準備体操で具体的に何をしたら良いのかわからなかった。

ただ、「このご時世凄いなぁ」と思うのは全ての情報がネットに転がっていることだ。

YouTubeの検索窓に「ランニング 準備体操」と叩くと有象無象の準備体操動画が現れる。

その中の一つの動画を開くとスレンダーなお姉さんがオシャレなBGMと共に準備体操の解説を行っている。
動画開始5秒でトップランナーになった気分になり、私は浮き足だちながらお姉さんの動きに合わせて体操を始めた。

だが、動画が終わる頃。

体の節々が痛みはじめる。

日頃の運動習慣の無さは走る前から響いていた。

一抹の不安を感じながらも折角準備運動したので走りに出かけた。

走り出した最初のうちは順調だった。

だが、方向を切り返し引き返そうと踵を返した瞬間

襲いかかる朝日。

私は眩しさにやられて目が眩んだ。

鬼滅の刃に出てくる鬼たちの存在が走馬灯のように駆け巡る。もしかしたら私も鬼なのかもしれない。

心の中の竈門炭治郎が「逃げるな卑怯者!!」と雄叫びを上げている。うるせぇ人間!

周囲のランナーを見渡すとオジサンから外国人の方まで皆サングラスを掛けて走っている。

日頃太陽の当たらない事務所で働く私には縁のない代物だと思っていた「サングラス」という文明の利器が手元に無いことを人生で初めて後悔した。

鬼達もサングラス持参していたら朝日にも耐え抜けれたのかもしれない。

そんなどうでもいい事を考えながら目標としていた距離を走ること無く自宅に引き返した。

後ろ向きな動機で叶えられた習慣化

それから2ヶ月が過ぎた。

雨の日を除いてランニング習慣は辛うじて継続できている。

三日坊主で終わることの多い私がここまで続いたのは「滝行で死にたくない」という極めて後ろ向きな動機からだ。

未だに準備体操で体を痛めることは変わりないが

最初は2キロも走れなかったのが今は5キロ程度走れるようになった。人間、追い詰められたら成長するものである。

そして迎えた滝行当日。

今この文章を書いてるその日である。

本文が遺言とならぬよう祈りつつ、私は滝壺へ向かう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?