早稲田ロー 2021(令和3)年度 再現答案 憲法【半免】

第1 問題1
1 Aの弁護士として、本件処分は、Aの21条1項で保障される閲読の自由を侵害しており、違憲であると主張する。
2 まず、Aに閲読の自由が保障されるか。
(1)21条1項にいう「表現」とは、思想の外部的表明をいう。そして、閲読の自由は、思想を外部に表明する者ではなく、「表現」には当たらない。もっとも、現代において、一方的に受領することが多いことから、表現の自由を受け手の側から再構成したものとして、表現行為と並んで閲読の自由が保障されると解する。
(2)本件でも、Aが本件書籍を読む自由は、閲読の自由として保障される。
3 そして、本件処分は、Aが拘置所内において、本件書籍を読むことを禁じているから、右自由を制約する。
4 そして、下記の通り、本件処分は違憲である。
(1)まず、本件書籍を閲読することは、男性同士の恋愛についての知見を深め、Aの人格形成に寄与するから、自己実現の価値を有する。さらに、男性同士の恋愛は、近年性的指向をめぐる問題の一環として大きく取り沙汰されている以上、本件書籍を閲読することにより民主制に資するため、自己統治の価値を有する、重要な権利であると言える。
(2)そして、本件処分は、本件書籍が男性同士の恋愛を題材にする雑誌であることを理由にこの閲読を禁止している以上、書籍の内容に注目した、内容規制にあたる。そして、内容規制は、言論が登場する以前にこの発表を規制するため、思想の自由市場を歪める恐れがあり、強力な規制態様であるといえる。
(3)そこで、本件処分の憲法適合性は、厳格な審査基準により判断するべきである。具体的には、拘置所の秩序維持に関して、明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見される場合に限り、本件処分が合憲であると解する。
(4)本件処分は、本件書籍をAが受領し、視聴することを禁ずるものである。そして、Dとしては、本件書籍をAが受領し、閲読することが、A が拘禁に対する不満を増幅させて、拘置所職員や他の被収容者に対して粗暴行為に出る蓋然性があること、及びAが発作的にわいせつ行為等に及ぶ蓋然性があることを理由としている。もっとも、Aは過去2回の刑事収容施設に収容されたことがあるが、その際には、他者に対して性的又は暴力的行動や一般的行動において問題のある行動を犯したことがないことからすれば、本件書籍を閲読したとしても、現在の収容されているB拘置所で上記Dの述べる行動に至る蓋然性が認められず、拘置所の秩序が乱れる抽象的な危険の発生すらない。
そして本件書籍が露骨な性描写を多数含んではいるものの、広く流通していて、その流通に伴いなんらの危険が生じていない以上、拘置所でAが閲読したとて危険の発生が予見される性質のものとはいえない。
よって、明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されるとはいえず、本件処分は違憲である。
第2 問題2
1 まず、私見の前提として、被告の側からの反論を考える。ここで、Aは拘留施設の在監者であるため、処分に際して拘置所所長であるBの裁量が認められるため、審査基準が緩やかに解するべきであるという主張が考えられる。
2 私見
(1)まず、被告の反論の当否を考える。
確かに、在監者については、在監施設の適切な管理・維持のため、処分につき、施設長に対する裁量が認められると解する。よって、被告の反論は認められる。
もっとも、Aはいまだ判決を受けていない未決の勾留者である。そうすると、未決の者には無罪推定の原則が働くため、原則として通常と同様の人権保障が及ぶと解する。
(2)そして、上記のように、本件書籍を読む自由は、男性同士の恋愛について、比較的簡単でわかりやすい漫画という形態で伝えられているため、やはり自己実現の価値を有する。もっとも、本件自由を通じても、それ自体が特に他人への伝達を含むものではないため、民主政に資するとまではいえず、自己統治の価値を有しない。
(3)そして、本件処分は、本件書籍が男性同士の恋愛を内容としていることを理由とする内容規制であり、原則として厳格な基準が妥当する。もっとも、上記のように施設長に処分の裁量が認められるため、中間的な審査基準で憲法適合性を判断するべきである。
具体的には、拘置所の秩序維持に関し、影響を及ぼす相当の蓋然性が認められる場合、本件処分が合憲であると解する。
(4)本件で、A が拘禁に対する不満を増幅させて、拘置所職員や他の被収容者に対して粗暴行為に出る蓋然性があること、及びAが発作的にわいせつ行為等に及ぶ蓋然性があることを理由としている。しかしながら、Aは逸脱行動をしていない以上、そのような行為に及ぶ蓋然性は認められず、秩序維持に影響を及ぼす蓋然性がない。
(5)よって、本件処分は21条1項に反し違憲である。
(6)また、Aと異性間の性的描写の記載された書籍を読む者との間で、不合理な差別がなされていて、14条1項に反する。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?