東大ロー 2021(令和3)年度 再現答案 民事系【69点】

第1 設問(1)(ア)(以下この設問で民法は略)
1 本件訴訟における訴訟物は、所有権(206条)に基づく返還請求権としての建物収去土地明け渡し請求権である。その請求原因として、①F所有及び②C社の建物による占有が挙げられる。本件では、もと所有者Aから甲土地をFが競売により取得し(①充足)、②C社所有の丙建物が甲土地に建てられており、占有している。よって請求原因を充足する。
2 そこで、C側からの抗弁として、甲土地につき法定地上権(388条前段)が成立することを理由に、占有正権限の抗弁を有する旨反論することが考えられるが、これは認められるか。
3 まず、法定地上権成立の当然の前提として、抵当権設定時に建物が存在していることを要する。本件では、抵当権設定時には、乙建物が存在していた。
 (1)そして、乙建物と甲土地は、いずれもC社という「同一の所有者に属」していて、甲土地という「土地…につき抵当権が設定され、その実行により」所有者がFに変わっている。そうすると、甲土地につき法定地上権が成立しているとも思える。
 (2)もっとも、抵当権実行時には、設定時とは異なる丙建物が甲土地上に存在していた。この場合でも法定地上権は成立するか。
 (3)この点、抵当権設定に際して、底地としての価値のみを把握していたと言える場合には、法定地上権の成立を認めるべきである。
 (4)本件で、建物について、丙建物について価値を把握していたとは言えない。
 (5)よって、法定地上権は成立せず、Cの反論は認められない。
4 一方、共同抵当権が設定されていた場合、土地に従する建物として底地としての価値を把握していたと言えるから、法定地上権が成立し、Cの反論は認められる。
第2 設問(1)(イ)(以下この設問において民事訴訟法は略)
1 C社に期日における出席は、擬制自白(159条3項、1項)が成立しないか。
2 そもそも、「自白」(同1項)とは、口頭弁論又は弁論準備期日における相手方の主張する自己に不利益な事実を認める旨の弁論としての陳述をいう。そして、ここにいう事実とは、主要事実すなわち特定の法律効果を発生・変動・消滅させる要件に直接該当する事実を指し、また、不利益とは、相手方が立証責任を負う事実のことを指す。
3 本件で、「当事者」のC社は、「口頭弁論の期日に出席し」(同3項)ていない。そして、訴状が現実に送達されている以上、「公示送達による呼出し」(同項但書)にも当たらない。よって1項が充足され、擬制自白が成立する。
4 そして、本件訴訟の訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての建物収去明渡請求権であり、請求原因は上記①②の事実で、これは建物収去土地明渡請求権という権利の発生を基礎付けるものとして、「相手方」たるFに立証責任がある。そうすると、①にあたる主要事実としてCもと所有及びC F競売、②に当たる事実としてCの建物による占有という事実につき、Fが証明を要しないという不要証効、裁判所拘束力、及び当事者拘束力を与える。
5 よって、Cの欠席は、右のような訴訟法上の意味を有する。
第3 設問(2)(以下、会社法は略)
1 まず、直接取引(356条1項2号)該当性について検討する。
 (1)同号にいう「ために」とは名義を指す。
(2)本件で、抵当権設定契約の相手方はAであり、「取締役」が「第三者のために」したとは言えず、直接取引には該当しない。
2 では、間接取引(同3号)に当たるか。この点、「利益が相反する」とは、取引安全の保護の見地から、外形的・客観的に取締役が利益を得て、会社が損失を被るか否かをもって判断する。
 (1)本件で、抵当権の被保全債権は、AのBに対する貸金債権(民法587条)であり、これに物的担保をとることは、C社にとって不利益である反面、債務者であるB社に利益を与えるものである。
 (2)そうすると、外形的・客観的には、取締役と会社の利益が相反するとは言えない。
(3)もっとも、EがB社の代表取締役であることから、B社に利益が帰属することは、EというC社の「取締役」が利益するとは言えないか。
(4)この点、会社における代表取締役は、代表権(349条1項)を有し、業務執行権限を有する。もっとも、会社は所有と経営の分離の点から、会社財産に利益が生じたからと言って、経営側の取締役が直ちに受益するとまでは言えない。
(5)よって、間接取引にも該当せず、C社は右主張をすることができない。
以上

他の科目についてはこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?