エルの店(3)
子ども向けの英語教材の訪問販売をしていた私が、なぜ、店を始めるようになったかの話を続けますね。
頭も器量もよくない私は、せめて身だしなみは気をつけるようにしていました。「足もとを見られる」といいますから、特に靴はいいものを履いていました。
あるお宅の呼び鈴を押すと、玄関を開けてくれました。門前払いがほとんどですから、それだけでもほっとします。
「ところで、あなたは英語、話せるの?」
「いいえ。」
「私、話せるの。留学経験があるから。それなのに今は明けても暮れても家事と育児が私の仕事。英語は私が教えられるから教材はいりません。」
「そうでしたか。おじゃましました。」
「いい靴履いているわね。似合わないけど。営業トークも下手ね。」
「失礼します・・・・。」
相手はいら立っていて、何かにストレスをぶつけずにいられなかったのでしょう。分かってはいても、気持ちがふさぎます。
帰りに靴を磨いてもらいに、プロの靴磨きさんの所へ行きました。
靴はピカピカになりました。
「いつも寄ってくれてありがとう。
それにしても、あなたの脚、綺麗ねえ。」
もう、何度も通っているのに、そんなことを言われたのは初めて。
(いい靴履いているけど似合わない。)(営業トークが下手。)
今日言われたお客さんからのひとことが、ずっと頭の中から離れなかった所へ、不意の誉め言葉。
私の目からぶわーっと涙が溢れました。
つづく