リボンをいろいろな場所で結んでいるうちに、 私は、目にもとまらぬ速さで、リボンを結べるようになった。 まるで、熟練のマジシャンみたいに。 昨日は、猫のしっぽや すれちがった女の子のおさげにリボンを結んだ。 もう、私の存在は街の人に知られているので みんな、「ああ、リボンおばさんの仕業ね。」 と面白がってくれた。 私は、街公認のいたずらっ子。 人生は楽しい! (つづく)
私の事が、新聞に小さく載った。 宅配のバイクに、リボンを結んで、 配達員さんに、感謝の言葉と缶コーヒーとお菓子を贈った。 その事を、配達員さんが投書し、記事になった。 これがきっかけで、私は「リボンおばさん」として 街の人に知られるようになった。 (つづく)
配達が終わって、次のお宅に向かおうとすると、 バイクにみかん色のリボンが結わえてあった。 (なんだろう。) びっくりしていると、女性に話しかけられた。 「いつもありがとうございます。 海外のお宅でね、玄関に配達員さん宛ての感謝のメッセージと、 お菓子を置いてある動画を見たの。 それ見て、マネしたくなっちゃって。 日本の配達員さんは、世界一優秀なのに、 みんな当たり前と思っているでしょう?」 そう言うと女性は、リ
リボンおばさんは、新聞配達の人が去った後、 玄関から外に出た。 向かった先は、向かいにある電柱。 どういうわけか、その電柱の街灯は、 昭和の時代によく見られた 傘つきの電球だった。 おばさんは、この電柱が好きだった。 おばさんは、電柱に青いリボンを結んだ。 (うん! いい感じ!) 公共の物に、無断でリボンを結ぶのは違法行為。 そこで、写真を1枚、パチリと撮った。 そして、リボンをほどいて、また家に戻った。 (つづく)
ある日、おばさんは「バンクシー」という芸術家のことを知った。 バンクシーは、誰にも気づかれずに、 街中の壁などに作品を残す。 ある日、突然、思いがけない場所に現れるバンクシーの作品は、 人々を騒然とさせた。 バンクシーの描いた少女と風船を見ていると、 その風船が、捨てられないでいるリボンの色と似ていると思った。 おばさんは、閃いた。 『そうだ。リボンを使ってバンクシーみたいなことをやろう。』 街中で少しずつ、リボンを使っていけばいい。
おばさんは、物持ちだ。 溜め込まれた物たちは、 人生の歴史でもある。 簡単にサヨナラできる物もあれば、 そうでない物もある。 その基準は人によって違い、その人らしさが表れる。 おばさんの場合、例えば何万円もしたコートとか、頂き物の海外ブランドの鋳物鍋などは使わないので、あれば躊躇なく処分できる。 でも、鳩の刺繍がある擦り切れたレースのハンカチとか、 音の出なくなったオルゴールとか、 使うあてのない花模様の端ぎれとか、 そういっ
もう、若くはない。 でも、おばあさん、と呼ばれるには まだ早い・・ような気がする。 おばさん。 そう。 私はおばさん。 自分の身体の衰えに、がっかりすることはある。 例えば、張りのない肌とか。 こんな所にしみが・・・とかね。 でも、若い頃に戻してあげると言われると 答えはNOかな。 「熟成」ってことを思う。 食べ物は、ねかせることで、おいしくなるものがある。 「おばさん」は、たぶんそれと同じなの。 (つづく)
↑ このお話の、紙の冊子。 製本は、コピー用紙をホチキス止めして、 製本テープでくるむ、という方法。 実は、製本テープは大昔に買ったもので、ストックがあまりない。 そこで、製本テープがなくなったら、ということで試作してみた。 最寄りのダイソーには、白い製本テープがあった。まずまず使える。 和紙と両面テープ。さんかく。不器用だから、まっすぐ切れない。 布ガムテープ。ボツ。 テカテカしている上に、ホチキスの芯もくっきり見える。 布もいけるんじゃない
彼の地から戻った私は、会社を辞めた。 『ただ、生きる』 そこから考えると、自分を息苦しくさせていた物や事が見えてきた。 それを一つ一つ整理していった。 人里離れた場所に住み、花屋を始めた。 青い色の花ばかりを扱う店。 (誰も来なくても構わない。) そう思って始めたのだが、なかなかどうして需要があるのだ。 まず、青い色が好きな人は多い。 青色には、心を落ち着かせる鎮静効果がある。 野の花や、めずらしい花も置いている。 行列までいかないが、客の来ない日はない。 花を
(ずっと、ここに居てもいい。) と私は思っていたのだが、別れの時は突然やってきた。 このまま何も食べず、飲まずにいると、たとえ冬眠状態にあったとしても 体は衰弱し死んでしまう、とラピスに告げられたからだ。 (また、あの世界に戻るのか・・・・。) そう思うと気が重かった。 けれど、ここで得た気づきを、 試してみたい気持ちもあった。 「元の世界に戻ろうと思う。」 私はラピスに告げた。 「いろいろ、ありがとう。」 「こち
「それにしても、どうして あなたみたいな人が、ここに居るのですか?」 「気が付いたら、ここに居て、私もびっくりしているのです。」 菜々子は言った。 そして、ここに来る前、特に思い当たる節もないのに、 とても疲れていたことを話した。 「私が言うのも何ですが、あなた方人間は、欲が深すぎるのです。」 月野氏は言った。 「宇宙広しと言えど
約束通り、一週間後、月野氏は軽トラックをとばしてやってきた。 「遠い所へ、ようこそいらっしゃいました。」 「いやー、どうも、どうも。久しぶりの地球ですから、 少し重力がつらいですな。でも、まあ、どうということはありません。」 そう言うと、月野氏は、荷台から大量の青い花を下ろして運んでくれた。 (つづく)
何度か電話の呼び出し音が鳴り、やがて、相手が出た。 「もしもし、月野耕作さんの番号で間違いないでしょうか?」 「ええ、わたくしは月野と申します。あなたは?」 「わたくしは、ラピスさんに頼まれて電話をしている者です。 菜々子と申します。 青いお花を注文したいのですが、よろしいでしょうか?」 「ええ、いいですよ。一週間くらい、かかりますがよろしいですか?」 「構いません・・・とラピスさんが申しておりました。」 「では、一週間後に。」 「よろしくお願い致します。」
ある日、目覚めると、ラピスが言った。 「お願いがあるのだけれど・・・・。」 それは、青い花の注文をしてきてくれないか、というものだった。 ラピスは1人分の食い扶持は、見積もれていたのだが、 そこへ、私という同居人が迷い込んできたために、 青い花が底をつきかけているというのだ。 私は二つ返事で引き受けた。 まずは、森の中の電話ボックスまで行かねばならない。 それは、すぐ見つかった。 そして、そこから「月野耕作」という人に電話した。 (つづく)
私はラピスの家に行った。 青い花しか食べることができない、というラピスの家は、 青い花のストックでいっぱいだった。 花が咲かない時期は、乾燥させた花びらのお茶を飲む。 飲むと、眠くなって、お腹もすかないというのだ。 冬眠に似た状態になるらしい。 私もお茶を飲んだ。 そして、ぐっすりと眠った。 (つづく)
ラピスは言った。 「それにしても、なぜ、ここに来れたの? ここは、簡単に来られる所じゃないよ。」 私は、ここに来るまでの話をした。 「ふーん。そうなんだ。」 ラピスも自分の話をした。 そして、私にこう言った。 「ここは、人間が滅多に来ない辺境の地。 たまにやって来る人間は、死なないように、いろいろ準備して来る。 でも、あなたはそうじゃない・・・。 こうして出会ったのも何かの縁。私の所に来なさい。」 (つづく)