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華やかなりし「贔屓が居た宙組」の日々①

2021年、9月26日。

宙組の贔屓を全力で愛し抜き宝塚から送り出しました。

楽しかった、ひたすらに楽しかった。

楽しかった以外の言葉が出てこないくらいに、あなたを愛した時間が愛しくてたまらなかった。これを世に送り出す頃にはあの楽しかった日々を思い出すと感傷的になっているのかなぁと思っていたら、宙組は次の公演のキャスティングで盛り上がり、退団した贔屓はじっとしていられなかったようだ(笑) 

それでいいのだ。

直接お会いした事がある人には言うけど、私は敢えてSNS上で贔屓の名前を出さなかった。バレてると思うけど贔屓のファンである前に宙組ファンでありたかった。大好きな贔屓の居る宙組ではなく大好きな宙組に居る贔屓なのだ。宙組と言うカンパニーが大好きで、組子のみんなが大好きなのだ。それが前提の贔屓だった。まぁ、今回の退団者って時点で絞られるし、これからの記事を読めば誰の事か分かるだろう。私のちっぽけなこだわりとして最後まで「贔屓」と呼ばせて頂く。そこには最後までお付き合い頂けたら幸いです。

私と贔屓との出会いは、少しずつゆっくりと時間をかけたものだった。

よく「薔薇の花束を持ってやってきた」と言う表現をされるが、薔薇の花束を抱えてやってきたと言うよりは、時間を掛けて色々な面を見ているうちに好きになっていた。前の贔屓さんもだったなー。いや、私の人生大体そうだ。この人が気になる→好き!!!までに時間を要する。恋愛もそう言う傾向がある。こちらから好きになるのに物凄く時間が掛かっている間にTHE・END。知らんがな。でもほら「本当に好きなのか」って時間はかからない?

前の贔屓の時は容姿に自信がなく宝塚ファンの友人知人も少なかった。かのような醜い私が美の化身である宝塚の娘役様を応援するなどと!と思いながらノートルダムの鐘のカジモドのように大聖堂から街を眺めているだけだった。カジモド期が1年以上続いた。タカラジェンヌは有限ゆえ好きになったら出来るだけ早くアクションを起こした方がいいと思う。贔屓はその経験から比較的早くアクションを起こせた方ではあったが、やっぱりある程度の時間は要した。(その間に大きく生活環境が変わったのが大きかった。観劇はしてたけど割とそれどころじゃ無かった)

贔屓の事は宙組ファンになり数年経っていたので何となく名前くらいは知っていた。何なら客席降りでハイタッチしてもらったけど「ふーん」としか思わなかった← ふーんって何!馬鹿!まだそこまで宙組に詳しくなかった頃だったのもあり、沢山いる組子の中の1人、芸名ぐらいで何期生で研〇でと言う詳しい事は知らなかった。

とある作品に出ていた贔屓。余りにも貫禄があり過ぎて研15くらいの上級生さんか専科の方だと思っていた笑 当時の学年を知ってびっくりした。ああ言う役が当たるって他の組でもベテラン上級生だもん。お芝居では貫禄あるおじさんなのにショーではスタイリッシュでかっこいい。えっ?今踊ってる人お髭のおじさんだよね??えーってなった。ギャップがいい!この時に名前と顔を覚えた。ファンになって振り返ると、あの学年で別箱じゃない本公演であんな役を与えられて凄い事だったんだなと思う。

それからすぐにファンになる事は無かったけど、あの公演で顔と名前を憶えて以来、本公演・別箱で毎回見る度に毎回印象に残るようになった。シリアスなお芝居の中の「遊び心」に擽られた。おじさま役に限らず幅広い役をこなしいつもどこかに遊び心があった。役作りの中で緻密な設定がなされているだろう中でも、ホンの少しの余白が絶妙でそこに考察の余地を与えてくれた。出番やセリフに関係なくお芝居に惹きつけられていった。

決定打になった作品はまた何とも癖の強いキャラクターだった。この作品は以前に違う方が演じていらっしゃったのは覚えていたが、あれ?この役こんなに癖が強かったかな?とビックリした。軽快な音楽に合わせて雄たけびを上げる姿は、コミカルなシーンに見せかけて不安定な社会に生きる若者のフラストレーションのようで胸が詰まった。青年のひたむきさや無邪気さは時に残酷さへと変わる。テーマが深い作品にぴったりの役者だと思った。

宙組を見始めての最初の方は、芸名を言われても即座に思い出せないしピンと来なかった。でもこの作品のあの役と言う印象はいつも確実に残る。むしろ役で言ってもらわないと分からないくらい。いつも癖のある面白いお芝居をする人。あのエキセントリックで胸を抉るお芝居を見て「この人はどんな事を考えてお芝居をしているのだろうか?」と言う思いが募っていった。何を考えてこのお芝居をしこの役を生きているのか?どんな役作りをしているのだろうか。それが知りたかった。

「私、贔屓さん好きかもしれない…」

前に好きだった娘役さんをお見送りした後の私には、有難い事に劇場に行けば誰かには会えるぐらいに宝塚ファンの仲間が出来ていた。お友達のお友達から他組の観劇にお誘いされる事もあったしそのままお茶に行く事もあった。「私、好きになったかもしれない!」と告白する初対面の人間に「それは行った方がいいと思いますよ!」とにっこり微笑んでくれた。宝塚ファンは優しく背中を押す生き物だ。

次の公演のお茶会には行ってみよう。是非話を聞いてみたい。そう思い立ち劇団宛にお手紙を書いた。お茶会の案内を下さいと言うお手紙含め劇団宛に数回お手紙を出していた。今までの役の印象についても書いた。有難いお誘いがあり初日に観劇した。すぐに感想と共に「今度のお茶会も初めて参加します。よろしくお願いします」と言う旨の内容を書いた。

そして、初めて参加したお茶会で「沼に落ちた」

おじさん役のイメージが強かった人だったが、素顔は目元がとても可愛い女性だった。思った以上に可愛い顔をしていて「あのおじさま役の人?」と混乱した。そのチャーミングな丸い瞳を開いたり細めたり忙しなく動かしながら役作りの話をしてくれた。細かな設定やメイクのこだわりを沢山聞かせてくれた。確かに彼女の目は丸くて少し垂れ目気味で男役の男らしさを出すには苦労するなと思った。こんなに綺麗で可愛らしい顔立ちの人が将軍やクレイジーな若者を演じているのだ。素顔を見ないと気づかなかった。

昔から、こだわりを持って仕事する人が好きだ。

職人の父の元で育ったからかもしれないが、自分の仕事にプライドを持ちかつ楽しそうに語る人が大好きだ。もう5年以上お世話になってる美容師さん。いつもお世話になっているアパレルショップのお姉さん。ワインバーのソムリエにコーヒー屋のオーナー。大好きなパン屋さんのオーナー。皆それぞれ仕事を愛し商品にこだわりを持っている。商品の話をする時の生き生きとした姿もそうだけど、試行錯誤の上自信を持って世に出すものは全てが良いもので信頼できる。この人が選んでくれたものは大丈夫!と思える。

それらのお店のパンやコーヒーみたいなもので「好みに合う」のが、贔屓のお芝居だったのだと思う。

彼女はどんな役も真っ直ぐ真面目に向かい合うし、真面目なだけではない余白と遊び心も持っている。お茶会で役作りの話をする贔屓は、大好きなこだわりの商品をお勧めしてくれる人達のようで同じ魅力を感じた。

この人の作り出す世界観、絶対好きだと確信を持てた。

それから退団までの日が、めくるめく甘美なる日々とは行かなかったけど。どれだけの多くの出会いと幸せを運んでくれたか計り知れない。コロナ禍で身体を壊して自分を見つめ直すきっかけにもなった事も。色々あったけど最後をお見送り出来た事。10年後も思い返したら幸せだったと言える日々だった。

合間合間にアホな記事を挟みながら、不定期にはなりますがお付き合い頂けたら幸いです。