シンプルに美と向き合う「WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-」
最近、クラシック音楽やピアノ、オペラを聴く事が多い。
クラシックを聴きながら、本を読み、書き物をして、パソコンに向かう。
JPOPや宝塚の曲だと、曲にまつわるエピソードや歌詞が耳に入り気が散り注意散漫になる。かと言って洋楽も言葉が耳障り。派手な演奏にも集中出来ず、ノリのいい曲だとリズムに気を取られる。
と、なるとシンプルにクラシック、ピアノ、オペラとなる。オペラも歌詞があるけど、言葉が耳障りになる事がない。
クラシック音楽の調べをバックに、誰かの文章、自分の内なる言葉と向かい合う。心が落ち着く。研ぎ澄まされた感覚が、文章の輪郭を浮き彫りにする。
今回のこのショーは、その感覚にとても似ていると思った。
「トラディショナル」とある通りの伝統的な和物なんだけど、既存の和物ショーとは異なった「和物だけど和物じゃない」感覚。
ウェルカム!ウェルカム!タカラヅーカー!と言うTHE宝塚な能天気なテーマソング。それ以外はシンプルに音と踊りで魅せる構成。
そのシンプルさが心地良かった。
スケジュール通りなら、オリンピックを見据えた構成だったはず。貸し切りなどで、積極的に外国人観光客を誘致する気満々だったであろう。日本の既存のお客さん向けではない、ここぞとばかりに世界中から集まる人々にTAKARAZUKAを見せたい。いつもの宝塚ファン向けではない、外国に輸出する作品である。Made in JAPANを打ち出したい。そんな意図が見て取れた。
世界で愛されているクラシックを用いながら、日本舞踊で日本らしさを打ち出すと言う趣。とてもいい。
ただひたすら見せるに徹する。
既存のショーのような華やかさとは違い舞台がシンプルなのも良い。暗転からの幕開き・チョンパはこれぞ和物!とテンションが上がるが、中盤は割とシンプルめのセット、モノトーンの月だけが出ているシンプルなセット。ドンドンと盆が回るような派手な舞台演出もない。
宝塚のショーとしてならば、もっともっと色んな演出を使った派手なショーができたはず。
物足りなく感じる人もいるかもしれないけど、私はこのシンプルさが大好きだ。派手じゃないから技術勝負。白塗りの流し目、扇子を持つ指先が美しい。その美しさが浮き彫りになる。
クラシック音楽との調和。花のワルツの優雅なメロディと合わせ鏡の演出、ビバルディの四季の前衛的なアレンジ。日舞とコンテンポラリーダンスの中間のような振り付け。
研ぎ澄まされた美しさ、これが日本の美。そう言わんばかりの舞台。クラシック音楽の調べと共に文字と向き合うかのようで、しっかりと舞台に向き合えた。
ウェルカム!ウェルカム!ターカーラーヅーカー!
もちろん、宝塚らしい能天気なテーマソングにも救われるし、宝塚らしさもしっかり残している。耳にこびりついて離れないキャッチーなメロディが宝塚らしくて愛しい。
とても素敵なショーだった。
本来観るはずだった外国人観光客の方々が喜ぶ作品となり得ただろう。日本人として、宝塚ファンとして胸を張れる作品であると思う。