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大逆転裁判に生きる彼女こそが「栞菜ひまり」らしさだと思った。

彼女は最後の作品で

「宝塚歌劇団の娘役でしか見られないもの」

しっかりと残して去っていく。

ある意味、彼女らしいのかなとさえ思っている。

タカラジェンヌの退団は、青天の霹靂だ。トップスター位だよそろそろ退団のタイミングかな?ってなるの。任期のサイクルだったり、匂わせている作品タイトルだったり、おとめの表紙になったらとか、色々とフラグが立てられる。そして大体その通りになる。

その他大勢のタカラジェンヌは、退団を知らされるのはその作品の集合日でしかない。公式サイトの無機質なお知らせでしか知る事が出来ない(ファンに向けては「白封筒」と呼ばれる退団のご報告があるが公式の発表前にフライングされる事は無い)ご本人はそのタイミングを前から決めていて準備をしているのかもしれないけれども、私達にとっては青天の霹靂としか言えない。

タカラジェンヌは永遠じゃない。いつかは退団する。

とは言えね、次の公演で新人公演を卒業するってタイミングでとは思わないじゃない?新人公演を全うしてのタイミングなら、寂しいけどそうか…ってなるけど。

栞菜ひまりさん。

ファンの間では「カメレオン女優」と名高い、下級生の頃から数々の作品に貢献して来た娘役の1人。親しみのある可愛らしいお顔立ちからは子役をさせれば右に出るものなし。地に足着いた芝居力で新人公演ではバイプレーヤー的な役割を担う。長身で手足がスラっと長い宙組娘役らしいプロポーション。時にチャーミングに、時にセクシーに。その振り幅の大きさ、どんな作品にもキラリと光るものが見える。宙組自慢の実力派でとても愛されている娘役さんだった。

次作、最後の新人公演を控えたタイミングのその知らせは正直辛かった。

正直に言って新しい宙組にも居て欲しかった。

他の娘役には絶対にない「ひまりちゃんにしかないもの」を沢山持っていた。上級生娘役になった時の立ち振る舞いを見て見たかった。母親役や酒場の女将のような役も見て見たかった。チャーミングなお顔立ちから時折見せる色っぽさは、もっともっと学年を重ねるとどうなるのか…と想像してゾクゾクする事もあった。

大逆転裁判で去ると決めた彼女、初日の途中まですっかり忘れていた。途中から、あ!最後だったか…と気づく位に「いつものひまりちゃん」だった。いつものひまりちゃんだ、としか言えない位にいつもの彼女だった。これが小池先生のお芝居だったら、大介先生のショーだったらば…何かしらの「お餞別」のものがあったかもしれないけれども、大逆転裁判のお芝居自体にそれは無かった(求めてすらいないけれども)

ここに立つ事、この舞台で生きる彼女こそが「ひまりちゃんらしさ」だったとも思う。

ドレスの着こなし、娘役ナンバーでの立ち振る舞い。決して主演にはならないけれども与えられた役を彼女らしくしっかりとこなす。ニーナ・ジョーンズに寄り添う秘書、陪審員の市民と言う役は主要キャラクターの1人ではないが、そこに居るだけでひまりちゃんらしさを感じさせた。セリフは多くはないが声を聞くと安心する。歩き方1つにしろ、輪っかのドレスを着こなすにしろ娘役にとって朝飯前ぐらいの所作。呼吸するようにスカート捌きが身に沁みついている。今回は黒づくめのダンスナンバーと言うものあったが、お芝居でもダンスでもさり気なく光り花を添える事が出来る。それが栞菜ひまりと言う娘役なんだ。

宝塚歌劇団の娘役でしか見られないものを惜しみなく見せてくれた。

(あくまで個人的な勝手な思いとして)彼女の代表作の1つ「FLYING SAPA」のキプーのような、インパクトの強い役で最後を送って欲しかったが、これこそが宝塚歌劇で宙組で「栞菜ひまり」として生きた証とさえも思った。その生き様をしっかりと目に焼き付けるように、この作品を愛し最後まで見守っていきたい。そんな気持ちで初日を送った。

どうか、最後まで自分らしく舞台に立ってください。