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あの日、私が見た阪急電車-「阪急電車」

宝塚ファンにはおなじみの「阪急電車」

この作品は公開当時に映画を見たが、中谷美紀が出てた以外余り内容を覚えていなかった。宝塚ファンになった今読み返すと、交差する人間ドラマに加え、土地勘が分かる事が面白さに拍車を加える。旧宝塚ホテルとか、ふふふってなる。

オムニバス形式の人間ドラマ。はいはいこう言う人、あの駅にいっぱい居るわ~と共感する。逆瀬川の百均とか、宝塚南口の旧ホテルの反対側の寂れ具合など。ロードバイクで走っていた時期もあり「業務スーパーの辺り」まで分かる(笑)そして「そう言う雰囲気の人がいるよね~」の描写が絶妙なのだ。きっと、よく宝塚線に乗っていると分かると思う。

阪急電車と私。

「阪急沿線の女学校」と言うのは、私達地元民にとって高嶺の花だった。

いくつかの学校があるが、主に阪急神戸線にあるお嬢様学校を指す。タカラジェンヌさんの出身校も多く含まれる。

大体の学校がレトロなワンピースの制服にファミリアのバック。可愛いくまちゃんのアップリケは、高校生にはやや幼いデザインに見えるが「ええとこの子」の証のようで恰好良かった。ファミリアのバッグを持っていいのは「阪急沿線の女学校」の特権で、属さない学校の生徒が持つ事は許されなかった。そんな暗黙の了解があるくらいに、ファミリアと言うブランド自体が「ええとこの子」のものだ。

下町の市場の娘、だったいとこが「阪急沿線の女学校」に入った。

地元の人が聞いたら「はいはい」と二つ返事で返ってくるお嬢様ofお嬢様の学校だった。あの学校の中に庶民が入る。それも下町の商売人の子供なんて場違いだっただろうが、いとこは快活でコミュニケーション能力に長けていた。お嬢様学校の生活を謳歌しており、その学校生活を聞くのが楽しかった。

私も「阪急沿線の女学校」に入りたかった。

進路指導で「ああ言う学校はね、学力よりも家柄のいい子供の行く学校だから」と窘められた。それでも諦められず、庶民の子供でも行けそうな学校はないかと探した。いくつかある中の1つ、下町のシャッチョ(社長)さんの子供でも入れそうな学校があった。あそこなら伝統ある女学校でもあるし、推薦で県外から来る子も多い。家柄はあまり関係ないだろう。

中学3年生。今は無き阪急沿線の女学校へ学校見学へ行った。

やっぱり凄かった。校舎も制服も何もかもが、ええとこのお嬢様感が出ていた。私もここに入って、憧れの「お嬢様学校ライフ」を送るのだ!と、意気揚々と帰り道、今でも心に残る恐ろしい風景に出会った。

女学生の一団が、阪急電車に向かってお辞儀をする光景を見たのだ。

電車に向かって、皆が揃って「お疲れさまでした!」と叫ぶ。何やあれは!宗教のようで薄気味悪かった。「阪急沿線の女学校」には、庶民には理解できない謎の風習が多くあるのだろうか。急にやっぱり、庶民の子は庶民らしく、高望みをしてはいけない気がしてきた。

最終的には、通学に時間が掛からない地元の女子高へ進んだ。

下校中にコロッケを買い食いしては怒られる。駅のホームでルーズソックスを履き替えていると、おじいちゃん先生が怒鳴り込んでくる。駅でのマナーが悪いとラジオ番組に投稿されたもんだから、緊急の全校集会が開かれてお説教された。eggと言うギャル雑誌に掲載された同級生が停学になり、突然子供が出来ちゃった!と退学した子が居たりした。

制服は可愛かった。イタリアだかフランスの有名デザイナーがデザインしたらしい制服は可愛い子が着たら可愛い。私が着ると野暮ったく垢抜けなかった。冬のコートは通称「ガンダム」肩パッドが鎧のようなコートには、ファミリアの可愛いバッグは似合わない。

お嬢様学校では絶対にあり得ない光景だろう。

宝塚の観劇帰りによく見掛ける、ええとこの子っぽい制服を眺めては「ちょっと行きたかったな」と思いつつ、あのコロッケを買い食いしては叱られる学校こそ私の身の丈に合っていたのだ。悪い思い出ばかりではない。学力じゃなくて家柄、と止めた先生の気持ちはよく分かる。

そして、大人になって「阪急電車にお礼をする一団」の謎が解けた。

宝塚音楽学校ではないかと。

あれが怖くて、現実的な進路を目指したのかと思うと急に笑えて来た。あの中に私の知っているスターさんが居たかもしれない。そう思うと「怖いな」と思ったことがちょっとだけ申し訳ない気持ちもある。