木の手仕事が残る町。かぬまオープンファクトリー(前編)
・「オープンファクトリー」とは?
燕三条、墨田、大田、横浜市港北区、大阪市大正区など、全国に広がりをみせている「オープンファクトリー」。それは作り手が製造現場を一定期間公開し、来場者にその過程を体感してもらう取り組みのこと。
製造現場をオープンにするというと、作り手側からは「技術を盗まれるのでは?」とか「その間仕事が止まってしまう」などの意見がでるのはよくあることです。
ただつくる過程を公開することで、作り手側は自社製品に対しての新たな気づきや意見を得たり、製品に興味を持っている方にダイレクトにリーチできます。
また見る側(デザイナーや発注者)も自分が関心のある素材や製品に対する知識を深めることで、よりその素材や技術の価値を理解でき、開発や発注がスムーズになることが多くあります。また工場近隣のコミュニティへとの関係を深めることにつながるケースも多いようです。
もちろん技術を盗まれないように見せる範囲を限定してもいいですし、棚卸しの期間を利用してオープンファクトリーをする場合もあるので、運営のしかた次第でメリットの方を多くすることかできるはずです。
・第一回かぬまオープンファクトリーを見学
そして今回はそのオープンファクトリーが栃木の鹿沼市で初めて行われると聞き、6/1土曜だけ日帰りで見学に行ってきました。
調べてみると鹿沼市は人口約10万人ほどで宇都宮のベッドタウン的な側面もありますが、近代以降は地場産業として家具や製材などの木工業が盛んな場所。今回は40以上の工場がオープンファクトリーに参加していたので1日ではとても見切れない数。なのでまずは鹿沼の地場産業である木工業にしぼって見学することに。
ちなみに車だと鹿沼ICからがアクセスしやすいようです。
・時代家具の下野工匠さんを訪問
まず最初は時代家具の製作や修復を行っていて、松山音響工芸株式会社の家具製造部門である下野工匠さんを訪問。まず一見すると普通の民家のような外見。
オープンファクトリーのノボリが立っていなかったら危うく見落とすところでした。
ところが一歩中に入るとまるで日本庭園のような風景が広がっています。風情のある古民家が二棟並ぶ前には川が流れ、間にある池には鯉が泳いでいます。夏には蛍も飛ぶとのことで、とても工場に来たとは思えません。
今回は案内をしてくれた長屋さんに色々と話を伺いました。
2つの古民家は、一棟は先代が栃木県北部の矢板市から移設したもので、もう一棟は今の代表が鹿沼市板荷から移設したものだそう。
中に入ると、先代が時代家具や古民具を収集する趣味があったらしく販売しないコレクションが古民家の中にところ狭しとならんでいました。
ここには下野工匠さんで製作したものもあれば、日本全国から買い付けてきたものも展示されています。
箪笥の中でも圧巻は京都から買い付けた九尺箪笥。
ひたすら横に長いのが特徴で、九尺(約2.7m)もある箪笥は珍しいそうです。他にも持ち運びできる囲炉裏や船乗りが金庫に使っていたという船箪笥など、古い家具のコレクションがまるで博物館のように並んでいました。
もうひとつ興味をそそられたのが家具の仕上げに使ううるしを採取する道具。木にキズをつける道具やうるしの樹液を入れる桶なども展示されていました。
外には伐採済のものですが採取痕がついたうるしの木も。
いまでは国産のうるしは値段も高く手に入りにくなっているとか。
最初に見た矢板市から移設した古民家にある箪笥は展示のみで非売品でしたが、鹿沼市内から移設したもう一棟の古民家内には、販売可の小さめの箪笥がならんでいました。
小さくてもこまかい工夫が凝らされていて、一見は仕切りのように見える隠し引き出しなどの現代の箪笥にはなかなかない仕掛けも。
ただ現在は箪笥職人も高齢化で数が少なくなり、製作よりも補修などが中心の事業になっているのだとか。かなり残念。
・先端技術の事業と手仕事を残す事業
ちなみにこちらの下野工匠さんは、もうひとつ松井電器産業株式会社というプリント配線基板の回路組み立ての企業も運営していて、そちらは数百人の社員がいらっしゃるとか。時代の先端を捉えた事業と、消えゆく手仕事を保存し残す事業。そのどちらも並行して手がけているのはとてもバランスがよい事業展開方法だと思います。
最後に見学を終えアンケートを書くために囲炉裏の間に通していただいたとき、ここまで説明してくれた長屋さんが、
「私、ここから見える景色が好きなんですよね」
と言って囲炉裏の向こうの木窓を開けてくれました。
その窓から外をながめると、新緑の濃い緑と古民家の味の出た木目の茶の強いコントラストが目に飛び込んできました。
まるで古民家の壁に鮮やかな風景画がかざってあるようにも見え、古民家と日本庭園の魅力をあらためて再発見した気がしました。
そして今回は特別に第一回鹿沼オープンファクトリー記念としてお土産の楊枝入れまでいただき、いたれりつくせり。
下野工匠さんは普段も2棟の古民家ギャラリーを曜日限定で公開しているようです。詳しくは以下の下野工匠様のWebサイトからお問い合わせ下さい。
下野工匠の次は近くの「宇賀神工務店」という屋台大工さんのところへ向かうことにしたのですが、ここから先は後編に続きます。
ものをつくるひとを応援するために、いろいろな現場を取材しています。ここで得たサポートは、その取材活動に活用させていただくことにしています。