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【後編】海を越え、山を越え、ビールと旅するブリュワリー「Passific Brewing」の地域をつなぐビールづくり

前編ではPassific Brewing(パシフィックブリューイング)共同代表の1人、大庭陸さんに、ビールづくりの道に入ったきっかけを伺いました。後編では、独立のきっかけと、醸造所の立ち上げについて伺います。

インタビュー&文章: イシヅカ カズト(オシゴト湘南編集長)

自分のレシピでビールを造りたい

ーその後すぐに独立ではなく、いちど日本橋の醸造所を運営する株式会社ステディワークスさんに入ったのはどういう理由だったんでしょうか?

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株式会社ステディワークス運営「CRAFTROCK BREWPUB&LIVE」店内

それこそまだ自分でオリジナルレシピのビールを造ってないという不安を感じていたんです。

ーなるほど。

とりあえず独立を準備しながらどこかで自分のビール造りをさせてもらえたら嬉しいなと思って。2019年の3月いっぱいで志賀高原ビールを退職した頃にステディワークスの社長からメールが来て「次は何するの?」みたいに言われて笑。

ーもともと繋がっていたんですか?

同業なのでよく会う顔見知りで。ちょうどステディワークスさんが日本橋にある「CRAFTROCK BREWPUB&LIVE(以下クラフトロック)」っていうブリューバーを、2019年年8月にオープンさせるタイミングだったんです。

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クラフトロック在籍時の大庭さん

ー運命的ですね。

タイミングがよかった。2019年8月頃に入って結局1年半ぐらい在籍したんですが、そこでは月に1種類好きなビールを作っていいよって言われて。

ー最初からそこまで任されるのはすごい。

クラフトロックさんではだいたい月に6種類ずつぐらい生産していて、その内の1つは僕に任せるって言ってくれて。結果として15種類ぐらいビールを作れたのでいい経験になりました。

ー入る前からレシピを書いたりしてたんですか?

志賀高原ビール時代にある程度わかってることもあるし、自分では本を読んで勉強はしてたので、こうやればこんなビールができるみたいなイメージはあったんです。

ー結果としてステディワークスさんでの1年半の学びは大きかったですか?

大きかったですね。やっぱりやってみないとわからない。それこそ日本では法律上ビールを基本的に家でつくっちゃいけないので、自分で書いたレシピのビールを造ったことがないっていう状態だった。

料理人に例えると、毎日働いてるけど1回もフライパンを握ったことないみたいな笑。そういう意味では本当に1から原材料を選んで、レシピを数字に落として実際にビールを造ると理解も深まる。

ーやっぱりステディワークスさんでの1年半は必要な過程だったんですね。

そうですね。それがあって自信を持って開業できるっていうか、それがなかったらすごい不安な気持ちだったと思います。

ーステディワークスさんには何年で辞めるとか、あらかじめそういう話をしてたんですか?

茅ヶ崎で開業準備を始めて1年ぐらいでブリュワリーをスタートできるだろうって思ってたので、一年限定の予定で働き始めたんです。けっきょく開業に時間がかかって2021年の2月に退職した感じです。

ーやっぱり免許申請とかそのあたりに時間がかかったんでしょうか?

そうですね。あとは会社のコンセプト作りとか。それこそ2019年年4月に志賀高原ビールさんを退職して、その年に相棒の山本も東京の仕事を辞めて2人とも茅ヶ崎が拠点になって。毎週休みの日とか仕事前に会ってどんなビール作りたいか、どんな会社にするかを話し合ってました。そこから物件探したりとか、設備の見積もりとかを始めたって感じで。

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10年以上空き物件だった、茅ヶ崎市萩園の元工場物件を醸造所に改装

ー共同代表の山本さんとはどういう経緯で出会ったんですか?

高校の時に2人とも東京でやってたファッションサークルに入ってたんですよ。そこで知り合いました。恥ずかしいのであんまり言わないんですけど、高校生限定で集まってファッションショーをするっていう。

ー東京コレクションの高校生版みたいな感じですね。もともと誰かと一緒に起業しようと思ってたんですか?

仲間を探してたわけはなかったんですけど。彼は元々建物のデザインをしていて、昔は僕がお店をやる時にはそれをデザインしたいって言ってくれていて。

ーもともと2人で一緒に何かをやるイメージがあったんですね。先日改装中の工場に見に行った時に、山本さんがイラストレーターで製図した図が壁に貼ってあったのを覚えているんですが、2人がお互いのスキルを補い合ってる感じがあって、いい関係だなと思って見ていました。 

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改装中の工場で打ち合わせをする2人

地域を繋ぎながら、ビールと旅するブリュワリー

いよいよ工場も決まり、コロナというやっかいな状況はあるけど、一応下準備はできたわけですが、最後にこれからどういうブリュワリーにしていくのかを聞かせてください。

コンセプトは「海を越え山を越え、ビールと旅するブリュワリー」です。パシフィックの「Passific」のスペルがSになっているのは、「Pass」っていう単語が英語で「峠」って意味なんですよね。普通の「Pacific」だと「太平洋」っていう意味になってしまうので、海と山っていう意味を込めた名前にしたいなと。

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工場併設のバースペース。タイル貼りのロゴは茅ヶ崎の仲間との手作り

僕は茅ヶ崎出身だけど、志賀高原で7年間を過ごして長野も好きだし、どちらかが選べなくて。いっそどっちもテーマにしたらいいんじゃないかなと。

つまり湘南の茅ヶ崎を拠点として、地方都市との繋がりを大事にビールを造っていきたいと思ってます。茅ヶ崎から長野って車で行くと結構近くて、2〜3時間くらいで行けたりする。でも茅ヶ崎だと柑橘類がとれるけど、長野だとぶどうやりんごがとれたりする。風景も住んでいる人も違うし、文化が全然違う。

例えば長野の果物を使って、茅ヶ崎でビールを仕込んで茅ヶ崎の人に飲んでもらうとか、逆に茅ヶ崎のものを使ってビールを作って、長野の人に飲んでもらうとか。そういうことをやりたい。

その中で長野の人達とも出会えると思うし、その中でつながった農家、飲食店と一緒に何かできるかなと。じゃあ今度こっちでイベントして、次はこっち来てやってよ、みたいな。実は自分が休みの日に山に登ったりするための口実だったりするんですけど笑。

ー仕事と遊びをうまくクロスさせたい?

そうですね。クラフトビールの文化にはローカルを大事にしようとか地産地消の考え方がある。その考えはアメリカから来てるものだと思うんですね。アメリカだと車で5時間ぐらいのところも近所で、同じ「ローカル」とか言っても車で5時間の距離の場所も含んでる。

ーアメリカはローカルの範囲が広いんですね。

東海岸で西海岸の原料を使うのは大変だから、地元のものを使おうよみたいな感じだと思うんです。じゃあ茅ヶ崎から車で3時間でいける長野はローカルじゃないのか? と思うし、どちらも好きな場所だから、狭い範囲のローカルにならずに地域同士で繋がるのはいいことなんじゃないかと。

適当にかいつまむわけじゃなくて、あるエリアの人たちとしっかり結びつけば、それも不自然じゃないし、それをビール造りを通して表現していくのが目標ですね。

なるほど。それを聞いていると、ビール好きとしては間もなく完成するPassific Brewingのクラフトビール第1弾がかなり楽しみです。今日はありがとうございました。

<後記>

音楽の世界でも「地元をレペゼンする」という流れがありますが、それは決して狭い範囲のローカルだけにこだわることを意味するわけではないはず。今後、彼らが海を越え山を越えて行う地域同士のセッションを通して、一体どんなクラフトビールが生み出されるのか?そんな期待がますます膨らみます。

そう考えると海と山の両方の意味が込められた「Passific Brewing」という名前は、これから2人が思い描くブリュワリーとして、まさにぴったりなネーミング。

そして最近、最初の取材から数ヶ月が過ぎて追加の写真を醸造所に撮りに行くと、今年の頭にはがらんどうだった工場には、すでに醸造タンクが幾つも並んでいて、仕込みが始まっていました。

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あらためて彼らが造ったビールで早く乾杯をしたい、そんなことを考えながらシャッターを押して取材を終えたこの日でした。

Passific Brewing(パシフィックブリューイング)
神奈川県茅ヶ崎市萩園2644−3
問い合わせ先: orderpassificbrewing@gmail.com

・Passific Brewing FBページ
https://www.facebook.com/profile.php?id=100063613298164
・Passific Brewing オンラインショップ
https://passific.thebase.in/

・クラフトロック ブリューパブ&ライブ(株式会社ステディワークス)




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イシヅカ カズト
ものをつくるひとを応援するために、いろいろな現場を取材しています。ここで得たサポートは、その取材活動に活用させていただくことにしています。