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ウォータームーン(脚本風バージョン)

 前回、邦キチー1グランプリにエントリーと称して、えんえん自分の書きたいように書いてしまった俺だが、さすがにちょっと無法が過ぎるというかレギュレーションに完全に違反している気がするので、心を入れ替え、気を持ち直し、拙いながらも俺も脚本のように書いてみようと思う。


 部室前。部長と邦キチが並んで歩いている。
 
 部「この前なんだが、不意に思い立って「アイアムレジェンド」の別バージョンを見たんだ、公開バージョンと違うというのが気になっていたんだが、なかなか見る機会がなかったからな」
 邦「ほほう、そういうのはタイミングというものも大切でありまするな」
 部「そうなんだよ、特に中途半端に古いとな……しかしウィル・スミスはなんというかクセの強い……」
 邦「……そういえばウィル・スミスと言えばですね部長!」

 部室の中から巨大な声で奇声が響いてきてビクッとして会話を止める二人
 何かをバチンバチン叩き付けている音とピシャビシャとした液体の音が響いている。

 謎「ウウッシャア! オオッシャア! か・け・あ・が・れえ~!!! オイッシャアー!!!!」

 慌てて部室の扉を開ける二人。
 部室の机などが全て片付けられ、ビニールシートの上に巨大なわら半紙が敷かれており、そこに革ジャンにサングラス姿の男が巨大な筆を振り回しながら、わら半紙にもの凄い筆致で「プレゼン」と書いている

 部「あっあんた何やってんだ! 誰だ! 人の部室で……」
 邦「これは書道では?」
 部「こんなめちゃくちゃな書道があるか! ……いやあってもいいけどなんでここでやるんだ……というかアンタ誰なの……(ヤ○ザ?)」

 謎「……書道部部長の永遠渕(とわぶち)ってモンだ。噂には聞いている。映画のプレゼンをやっているそうだな。お前たちのプレゼンってやつをこの前、偶然立ち聞きさせて貰った」

 部「それもう噂で聞いたんじゃなくて実際聞いてるだろ……」
 邦「そういえば部長、この前、この方がおりました、部室の前に」
 部「えっ、お前知ってるの、この人のこと!」
 邦「はい、部室の前でさも偶然という仕草で棒立ちになっていたので気になってはおりましたがまさか書道部の部長さんであらせられたとは」

 謎「プレゼン、他人に何かを伝えること……そうやって仲間を作っていく……気を分け合うと書いて「気分」と読む! それを分け合えるのが仲間だ! 分かったか! 分かったかって言ってんだろ、ふざけんじゃねえぞこの野郎! 書道部の奴らは所詮、気を分け合える仲間じゃなかったってことなんだ、みんないなくなっちまった、みんな俺を置いていなくなっちまった、ふざけんじゃねえぞこの野郎!」

 部「……なんだろう、今、かなり凄まれている気がするんだが……全然怖くないのは何でだ……?」(泣き言に聞こえる)
 邦「つまり永遠渕さんは気を分け合える仲間がいなかったのですな」
 謎「そうだ! その通りだ! 部活の連中には俺の仲間はいなかった……だからここに仲間がいる、そう思ってここにきた」
 部「なんで!?」
 謎「プレゼンってのは仲間に気を分ける、つまり気分だ。お前たちがやっているのは、それだ。書道部には俺の中に眠っている気持ち、正直さ、そういうのものがですね、伝わらなかったんですね、こういうものはですね、どれだけ自分の中にある正直さを分かち合えるか、そういうことなんですね。だから今日は、もう言う相手もいなくなったことですしね、ここで俺もあなた方に気を分けようとですね」
 部「なんで後半は丁寧な口調!?」
 邦「なるほど確かにプレゼンとはその通りでございまする」
 部「同調しないでくれ、追い出しにくくなる!」

 謎「つまりこいつは……お互いを信じて、信じて、信じられて、信じて信じて信じまくって、そうやってプレゼンというものは成り立つんだ、分かるか! 俺たちは人間なんだ! 俺たちの体には血が流れている!」
 邦「はい!」(笑顔)
 部「俺には分からん。ひとつも分からん……」
 
 永遠渕、聞きとがめてキッと睨んで部長を指さす。

 謎「問題です。イン○ィ○ンが……」
 部「言い直して! それダメだから!」

 永遠渕、舌打ち

 謎「……ネイティブアメリカンが、軽い槍を持っていました。その反対は?」
 部「『その』が何処にかかってるのかわからんから答えようがない……」
 邦「もちろん『重い槍』でございまするよ部長! つまり思いやり! それが他人に何かを伝えるときに必要だと永遠淵さんはおっしゃっているわけです!」
 部「頼む邦キチ、ここは分かっても答えないでくれ!」
 謎「その通りだ……そして俺はお前たちに気持ちを分け合おうと思い、ここに来た、そんな腐った目で人間を見るのはやめろ!」

 部「……しかしここは「映画について語る若人の部」であって書道は」
 (そもそもこの人ほんとに若人なのか?)
 謎「安心しろ、この書道は余り関係ない」
 部「不安にさせてる自覚はあるんだな」
 謎「ここに俺がオススメの映画が三本ある。だがお前たちと気を分け合いたいと思える、その気とは……これだ!」

 ウォータームーンのDVDを床にたたきつけ、叩き付けた勢いでくるくる周り、そのまま明後日の方向に倒れ込む永遠渕

 部「体幹弱すぎだろアンタ……」
 
 永遠渕を無視して落ちたDVDを拾い上げる邦キチ。

 邦「部長、これはかの名作「ウォータームーン」でござりまする!」
 部「えっ、何……それ……毎度のことだが、聞いたこともない」
 邦「長渕剛主演作品の中でもひときわ際立つ名作、それがこのウォータームーン! 当時「とんぼ」や「家族ゲーム」などで一世を風靡した長渕剛の体当たりの演技が炸裂する作品群の一つであります!」

 部「……ちょっとだけ、その辺は聞いたことあるな、そういえば。一時期、長渕剛が映画やドラマの主演を務めまくってた時期があるとか、何とか……何だか想像が付かないんだが……(演技しているとこが)」
 邦「先ほど部長の仰っていた「アイアムレジェンド」のウィル・スミス! そのウィル・スミスの和製バージョンこそが長渕剛でありまする」
 部「いや確かにどっちも音楽畑出身だけれども!」
 邦「似ているのですよ、異常に「筋トレしている自分」をアピールするシーンが多いですとか、そういうシーンが観客になんとも言えない「ああ……」という遠い目にさせられるところなどが、特に!」
 部「それ、いたたまれなくなりそうなんだが……」
 邦「それと家族や身内も大事にするのですよ? 自分の息子の名前をオフィスの名前にしたりですとか、子役の名前にしてしまうとか……」
 部「聞いているだけで共感性羞恥がじわじわ来るんだが、確かにウィル・スミスもそういうとこあるな……」
 謎「その通りだ」

 いつの間にか棒立ちになっている永遠淵。
 
 謎「家族、そして友達、つまり仲間……そういうものが人間にとって何よりも大事なんじゃないんですか! 俺はどうして一人ぼっちなんですか! どうして俺をみんなは受け入れてくれないんですか!」
 部「いや、もうそれは分かったから、大きい声はやめて欲しい」
 謎「じゃあ機嫌直して行くとしようか。ところでそこの、お前はどうやら分かっているようだな、この作品を」
 邦「勿論でございまする」
 謎「ようし、聞かせてみろ、お前たちの魂を聞かせてみろ、お前が舵を取れ! お前が! お前が! お前がどうするかだ! お前が決めろ! お前がどうするかだ! お前がや・る・か・ら・道になる!」
 部「いやアンタが舵を取れよ、人の部室来て何言ってんだ!」
 邦「しかし部長、長渕剛もよく観客に歌わせて自分は演奏に徹するというライブをよくやっておられますよ? ネットでも有名ですが(「巡恋歌」とか「人間」とか……)」
 部「うーん……客としては一体感みたいなものがあるだろうし、目の前で本人が生演奏してくれているカラオケみたいなものと思えばテンションが上がるのも理解出来なくもないが……」
 邦「それでは、僭越ながらわたくしめがプレゼンをば」
 部「お前もあっさり納得するな」
 謎「ああ、この潔さよ。お前ら最高!」

 邦「……さてこのウォータームーンですが、大きな括りで申し上げますと『SF』になりまする!」
 部「長渕剛でSFってミスマッチな気がするが……でもそれだけに少し興味は出てくるな……(ウィル・スミスもSF多いしな)」
 邦「長渕剛演じる主人公、僧侶・竜雲でございまするが、その正体は宇宙人!」
 部「いきなり!? それ最後に実はそうでしたとかでなくて!?」
 邦「いえ、かなり前の方で語られますのでネタバレ要素ではないと思われまする。宇宙から飛来した長渕剛は寺に預けられ、そこで修行僧としての日々を送りながら成長してゆくのです」
 部「SF……って言っていいのか不安になってきたんだが……寺である理由はあるのか、それは?」
 邦「分かりませぬ。恐らく当時から長渕剛が個人的に仏門にやたら興味があったことが理由ではないかと」
 部「そんな理由通っていいの?」
 邦「そういう理由が通ってしまっていたことが、視聴者の心を鷲づかみにした要因ではないかと」
 部「事故を期待しているみたいな視聴の仕方だな……」
 邦「さて竜雲が預けられている寺ですが、かなりキツめの集団生活を強いられておりまして、掃除がなっていないという理由で蹴られたり、気弱な性格な修行僧は小突かれまわされたり理不尽な要求に応えようとしたら「冗談もわからねえのか!」とそれはそれで殴られたり」
 部「……それ寺じゃなくて刑務所とかでなく?(寺社関係に怒られないのか?)」
 邦「さてそんな理不尽なイジメに遭っているのは知念、演じるは当時新人の萩原聖人でございまする! その知念のもとに、竜雲がのそっと棒立ちで現れます」
 部「なるほど、助けに来たわけだな」
 邦「ですがすぐには助けず、まず静かに会話をします。何故あなた方は寺におられのかと。すると意外な事実「実家の寺を継ぐためにわしらは嘘でもここで修行せにゃならんのや」というセリフが」
 部「その人たち、寺の跡継ぎなの!? いいの!?」
 邦「お坊様といえど色々な方がおられますからして」
 部「なんか俺は実家の寺とかが気になってきたんだが……」
 邦「そして物静かに対応していた竜雲ですが、突然、暴力のスイッチが入り二人を散々に叩きのめします! ここが長渕作品の見所の一つ「静動」もしくは「陰陽」の呼吸でのアクションシーンでございまする! どうせ暴れるんだろうなと視聴者に期待させつつ、前振りとしてやたら丁寧で物腰柔らかな対応をすることで「どうせこのあと暴れるんだろうな」という茶番感を醸しだしてくる、それが大きな魅力なのでありまする」
 部「いいように言うと定番というか、様式美というか、水戸黄門の印籠というかだが……それはオチくらいで使わないといけないんじゃないのか……?」
 邦「はい! ですが長渕作品ではアクションシーンのたびにその流れが繰り返されます! こたびもそのように流れまして無法な二人を叩きのめし、そのことを老師に咎められ、竜雲は寺を出ることになってしまうのであります」
 部「いや……宇宙人なんだよな、竜雲……寺から出していいの?」
 邦「老師は恐らくですが、人間とはどういうものかを身を以て体験せよと、そういう意思で竜雲を送り出したものと思われまする」

 謎「そうだ、俺たちは人間だもの」

 部「アンタは黙って聞いてて貰えると嬉しいんだが」
 謎「いや、ここは俺も気を分けてやろう。このシーンで大切なこと、それは「怒ってはならない」と老師に咎められた竜雲が反論するシーンだ。そこには俺たちが人間であることの悲しさ、そして切なさ、どうしようもなさ、そういったものが過剰に含まれている」
 部「アンタも既に色々過剰だが……」
 謎「どうしても我慢出来ないことにも人間は耐えねばならんのですか! 部員が全員いなくなっても指をしゃぶっていることだけが仏の道なのですか! そして竜雲は、そののち「すいません」とちゃんと謝る。俺だって、顧問の先生に謝ったのに、誰もいなくなった、それが書道部の運命なのですか!」
 部「運命というか、アンタのその振る舞いが原因というか……部員に謝った方がいいのでは」
 謎「老師は山を下りろと竜雲に言った……その最後の言葉が分かるか?」
 部「分からんが……何言ったの」
 謎「一殺多生ォー!」
 部「叫ぶな!」
 邦「一殺多生ォー!」(笑顔)
 謎「一殺、多っ生ォー!」
 邦「一殺……」(部長に口を押さえられる)
 部「邦キチ、お前まで乗っかって言うな! ここの部活まで迷惑を被る! 大体なんだその……一殺多生とかいうのは……」
 邦「一人を殺すことによって多数を助けるという意味でござりまする」
 部「誰か殺すことが前提なのか、それ……そもそもなんでそんな物騒なこと言い出したんだ、その老師は……」
 邦「さあ? 分かりませぬ」
 部「誰か殺してこい、って意味にしかとれないんだが……」
 邦「ともあれその「一殺多生」を胸に竜雲は山を下り新宿に向かうわけであります」
 部「その言葉も問題なんだが、新宿?」
 邦「長渕剛と言えば新宿ではないですか部長」
 部「いや、山寺……から新宿?」

 ※noteの右上に「5458文字」って文字数が表示されているので、このぐらいにしておこうと思います。
 気が向いたら続きを書くかも知れません。書かないかも知れません。

 というか変なキャラ出している時点で既にレギュレーション違反というか、お前それが書きたかっただけだろという話ですが、書きかけてしまったものは終わらせないと気持ちが悪いのでやるかもしれません。

 よろしくお願いいたします。

 


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