見出し画像

ハリウッドストライキ(2023)について vol.2

 WGAとSAG-AFTRAストライキに関する記事のvol.2です。

 この同時に起こっているストライキを合せて、'2023 Hollywood labor disputes'(2023年ハリウッド労働争議)というようです。


用語

トークショー

 アメリカでは、日本でいえば『徹子の部屋』のような「トークショー」の人気が高く、その司会を務めるホストは、セレブリティとして俳優と同等またはそれ以上に有名。

トークショー・ホスト

 前述の通り、トークショーの司会を務める芸能人のこと。
 日本では「司会者」を担うのは、現在お笑い芸人、俳優、ミュージシャンであったり、本業が別にあったりしますが、北米では「司会業」を本業とする者が少なくありません。
 昔は大橋巨泉とか結構いたんですけどね。古いですよね…。

 とはいえ、ホストとして著名なオプラ・ウィンフリーは俳優出身で、いまもたま〜に俳優業を行ったり、日本の司会者と通ずるところもあります。

 オプラは、アメリカの黒柳徹子と言われますが、黒柳さんのほうが大先輩です。
 黒柳さんはアメリカのトークショーへの出演経験もあり、流暢な英語を披露されてました。かっこよかった〜。

Self-taping, Self-tape(自撮り)

 俳優がオーディションなどのために自ら撮影をすること。
 コロナ以来、この"自撮り"によるオーディションが急増しました。

これまでの経緯・主な出来事(SAG-AFTRA版)

1980年7月21日

 俳優たちによるストライキが起こった。
 当時は別組織だったSAGとAFTRAが、家庭用ビデオソフトのリリースやテレビ放送などの利益(=レジデュアル)を求めるものだった。

2000年5月1日

 SAGとAFTRAが再びストライキを起こした。
 これは、CMに出演する俳優のレジデュアル関連について求めるものだった。

 主にアメリカでは、映画/テレビ/CMと出演する俳優が分けられており、ハリウッドスターがCMに出演することは稀です。
 現在もCM出演は一部のハイブランドを除き少ないですが、区分は曖昧になりつつあります。
(日本のCMは、北米の人が見ない上、ギャラがいいようで結構出演してますね。)

CMに出演する俳優に関する補足

2012年3月

 SAGがAFTRAと統合。これにより、俳優だけでなく、ジャーナリストやトークショーホスト、その他テレビ放送関係者も組合員となった。

2023年5月2日

 WGAが2007年以来のストライキを開始(継続中)

6月5日

 5月30日のストライキ実施の投票を呼びかけの結果、98%の賛成により、ストライキ実施の承認が下りる
(あくまで組合員が認めただけで開始ではない)

7月13日

 FMCS(連邦調停局)による調停となるも、交渉決裂し、ストライキに入ることがアナウンスされる。

7月14日

 SAG-AFTRAがストライキを開始
(WGAとの同時ストライキは1960年以来)

SAG-AFTRAの主張・要求と解説

 前回の記事と被るところも多く、主張・要求と併せて解説したほうがわかりやすそうなので、今回はこのスタイルで。

 俳優たちの主な主張は 「正当な報酬を払え(≒安すぎる)」、「(主に動画配信の)レジデュアルをちゃんと払え」、「AI使用に制限かけろ!」の3点です。

正当な報酬の支払いとレジデュアル(再使用料)

 正当な報酬にはレジデュアルも含まれるので、併せて説明します。

 レジデュアルについては、WGAの主張とほぼ同じ。
 レジデュアルが減少しており、それは動画配信によるレジデュアルが正当に支払われていないことが理由というものです。

 ジャーナリストの数土直志さんのnoteによると、アニメ業界だけに限ってもソフトウェアパッケージの売上が前年比4割減とものすごい減少幅になっています。(これは日本の数字だけれども)

 ただこれが業界がシュリンクしているとは思えず、数土さんのnoteにもあるとおり、動画配信サービスの台頭と見るのが自然でしょう。

 ところがです。

 前回の記事にも書いたとおり、動画配信サービスはそのアクセス数を公開していないので、この減少分が移行されたかどうかわからないのです。
(絶対そうだろと思いますが。)

 ここがストライキが長期化している(AMPTPが強気になれる)一因であります。

 俳優たちや脚本家は、「レジデュアル減少した分は動画配信サービスに支払われてるから、その分をきちんと分けてください」と言っている訳ですがが、サービス側は「正当に支払ってます(≒DVDなどの売上分は移行してません)」と言えちゃうのです。
 アクセス数公開していないので、(俳優や脚本形は)その証明ができないから。

 でもこの報酬の問題って一般人にはわからんのよね。

 これも想像でしかないんですが、TVには一切出なかった俳優たちが(テレビの)ドラマシリーズに出たり、動画配信サービスが制作する映像作品に出たのって、明らかに報酬が高かったからだと思うんですよね。

 だからいくらレジデュアルが減少したと言っても、その分先に貰ってんじゃないの?という疑問は正直あります。

 ただ日本に限った上、さらにアニメ業界だけで300億円の数字を失ったと聞くと、これを世界規模に考えるとものすごい数字なわけで、今まで報酬にある程度満足していた俳優たちが文句を言うということは、動画配信サービス側がガメてるとしか思えません。

 そしてもうひとつ。
 新型コロナウイルスの蔓延により、いままで現地で行っていたオーディションが"自撮り"によって行われることが増え、その負担を俳優が負うことになったこと。

 同じエンタメの世界でもバレエ業界では、若手ダンサーのキャリア形成を目的としているローザンヌ国際バレエコンクールは、17年前の2006年から一次審査がDVD審査になりました。

 ただでさえお金がかかるバレエなのに、このDVD制作にも費用がかかることが知られています。

 ローザンヌのDVD審査は一生に最大でも4回です。(年齢制限があるため)

 しかしハリウッドではオーディションは受けまくるわけで、その都度スタジオを借りたり、撮影をしたり、編集をしたりとなったらその負担は計り知れません。

 以前、このオーディション方法の移行により、利益が出たという記事を見たのですが見つけられず。
 今回の主張から見ると、この利益は(少なくとも)俳優たちには還元されていないようです

AI

 AIについては、「俳優をスキャン後、AIによって複製・使用する」ということをしないよう求めています。

 映画を制作するにあたって必要となるのは、映画にクレジットされる俳優だけではありません。
 例えば、ある映画で、「女友達とクラブにでかけたヒロインが、後に恋人になる主人公とその友人に話しかけられる」というシーンがあったとします。
 主にクレジットされるのは主演の主人公とヒロイン、その友人になるかと思いますが、その俳優たちにお酒を提供するバーテンダー、DJ、DJの音楽にノッて踊る客などもすべて俳優です。

 日本の場合、これはエキストラという名のボランティアで賄われていることが多いですが、ハリウッドではバックグラウンドアクター(エキストラと言わない)して、これを専業にしている俳優も少なくありません。

 LA在住の映画ジャーナリスト、猿渡由紀さんの記事で紹介されている坂本マリさんは、バックグラウンドアクターの仕事のみで毎年最低5万2,000ドル以上(およそ700万円以上)を稼いでいるそうです。

 現在700万円でアメリカで生活できるのかというのは正直あります(ロスでは無理そう)が、「1回スキャンしてさようなら」はあまりにひどい。
 あと契約がいくらあろうと、自分の顔や身体が使われ続けるのって人権的にも問題が出てくるように思います。

終わりの見えないストライキ

 アカデミー賞も受賞した『DUNE/デューン 砂の惑星』の続編、『デューン 砂の惑星 PART2』は、ストライキ突入後、延期が何度も噂されていましたが、ついに延期が発表されました。

 公開は2024年3月で、これはつまり今年度(2023-2024シーズン=第96回)のアカデミー賞を諦めることになります。

 昔ほどではないですが、アカデミー賞へのノミネートや受賞は、興行成績を大きく左右します。宣伝活動に影響があるからです。

 来年度ノミネートされる可能性はありますが、通常アカデミー賞はクリスマスシーズン前後から翌年にかけて公開される作品が強いです。
 膨大な数の映画が公開される今、シーズンの最初のころに公開された映画なんて覚えちゃいないからです。

 ただ前作の評価を考えると、作品賞などの主要部門に絡む可能性は低そうです。

 となると賞レース以外でのプロモーション活動が重要です。
 なので、賞レースとプロモーション活動を天秤にかけた結果、3月に延期し、プロモーション活動を優先させたんでしょう。

 元々主演のシャラメたんが人気すぎてスケジュールパッツパツでしょうし、ストライキの影響も受けるとなったら3月しかもうなかったんでしょう。
 あとゼンデイヤちゃんとプロモーションすることを考えると、ふたりのスケジュール合わせるだけでも大変すぎて身震いしそうです。

 そんなわけで『デューン』の1作だけでも、ストライキにより巨額の数字が動いていそうなわけで、正直どうなっちゃうんでしょうか…と個人レベルでも心配になるのに日本ではあまり報道されないストライキについてでした。

 また続報または終結されれば記事を書きたいと思います。

サポートなどをしていただいた方には現在おすすめのYouTubeチャンネルランキング一位〜五位をランダムにご紹介しています! いただいたサポートなどは、活動費または子どもの教育に関する寄附に充てさせていただきます。