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ボードゲーム「Yavalath」を創造したAI「LUDI」を創造した、Cameron Browneさんについて書いてみる

「Yavalath」は世界で初めてコンピューター(AI)がつくったボードゲームとして、徐々に認知(まあボードゲーム好きの間ですけど)されているようです。

AIの名前はLUDI。このソフトウェアを組み上げたのがCameron Browneさんです。
Cameronさん自身も、たくさんのボードゲームを作成しており、Nestorgamesからいくつか販売されています。

ところで、Cameron Browneさんってどんな人なのでしょうか。
「Yavalath」を販売しているNestorgamesの代表、Nestor Romeral Andresさんについてふれられた日本語情報はちらほら見るのですが、Cameronさんはあまりない印象があります。
そこでCameronさん情報をネットなどからたどってみると色々興味深かったので、まとめてみます。

Cameron Browneさんの経歴情報

Cameronさん自身のホームページがあり、そこで経歴も書いています。
また、Chess Programmer Wikiのホームページにも項目として独立しています。この2つから、ちょっと興味深いものを抜き出すと、

・心理学を専攻していた(工学系だと思っていたら違った。ただ修了後にプログラミングを学んでいます)。
・ボードゲーム「Hex」のAIを作るプログラマーである(Chess Programmer Wikiに掲載されていたのは、Chessだけではなくアブストラクトゲーム全般も対象だったから)
・2017年、日本に1年間在住していた。しかも理化学研究所の研究員だった(けがわさん主催の(アブストラクトゲームを遊びまくる)土嚢の会に突如現れたのは、そんな状況だったからなのね)。

2019年現在は何をしているのかというと……後回しします。
その前にCameronさんが出した書籍について触れていきます。

Cameron Browneさんの書籍出版物

Hex Strategy: Making The Right Connections(2000年)

ボードゲーム「Hex」について、初心者から上級者とさまざまなプレイヤー側の視点から、数学的な考察も含めた戦法戦術について書かれた本です。「Hex」が強いAIプログラムを作るには、「Hex」に対する深みが必要ですので、Cameronさんの知識の結晶(350ページ超のボリューム!)といえます。

Connection Games: Variations on a Theme(2005年)

「Hex」には「コマをつなげていく」というルールがあります。この1ルールを含む(アブストラクト)ボードゲームを「Connection Games(連結ゲーム)」と称して、200種類超のゲームについて書かれた大書です(500ページ超!!)。
この本でも、それぞれ紹介したゲームの、数学的な考察も含めたルールや戦術について書かれています。
少し違った見方をすると、2つの異なる「連結ゲーム」の違っているルールは何であるのかもわかるので、「連結ゲーム」というカテゴリ内で構成されるルールの要素を把握できます。

この2冊は、「LUDI」を組み上げる礎となっています。そしてこの書籍が世に出ました。

Evolutionary Game Design(2008年)

「LUDI」をどのようにボードゲームを創造するように組み上げたのか、について書かれた学術書です。
日本語訳はないのですが、ネット上にこの本の内容についての大筋にふれた記事がありました。
非常に参考となりました。いやもう本当に助かりました。

「LUDI」はただ無作為にゲームを生成するのではなく、美しさ面白さという価値基準を設けて判定しながら制作するようにプログラミングされています。
「Yavalath」の他に18個のゲームを創造しており、そのルール(というかプログラム言語のコード)も載っています。

Shibumi Rule Book(2011年) ※日本語版(2019年)

Nestorgamesから「Shibumi」というボードゲームのシステムを出しており、ルールブックには35種類のゲームが載っています。
Nestorgamesから出ているゲームは、有志の方が日本語に訳しているものが多く、英語と格闘しなくても遊ぶことができるのですが、「Shibumi」に関してはここ最近までありませんでした(理由は、冊子自体有料で販売しているためです)。ところが嬉しいことに、長崎のボードゲームカフェ サニーバードがNestorgamesの承諾を得て、予約制ですが2019年秋のボードゲームマーケットの時期に、日本語版を出します(ただし、予約は終了し、追加増刷の予定がないようです。状況がいい方に転がることを祈ります)。
サニーバードは今年4月にも「Yabalath」本体で更に14のゲームができるルール集「Yavalath & Co.」の日本語版も製作しているので、ありがたいです。

Margo Basics(2012年)

多段式囲碁ともいえる「Margo」もNestorgamesから販売されています。「Shibumi Rule Book」もそうなのですが、Lulu.comからこの書籍を入手でき、PDF版は無料で購入できます。

Game & Puzzle Design(2015-2018年)

Cameronさんが中心となって出版した、パズルとゲームのデザインについて編纂した定期刊行物です。サイトもあります。
日本からはパズル雑誌「ニコリ」のペンシルパズルも記事にされています。
3年間で6冊出版されて、翌年2018年にすべてまとめた合本「Game & Puzzle Design Compendium」も出されました。
Amazonでも販売されていますが、コストを安く抑えて入手するには、やはり出版元のLulu.comから購入するといいです。PDF版だと30ドル以下で入手できます(1冊あたり5ドル)。

2017年以降、「Game & Puzzle Design」の7冊目は刊行せず休刊状態になっています。実は、新たなプロジェクトに携わっているためです。

デジタル・ルデーム・プロジェクト(Digital Ludeme Project)

2019年9月に「古代ボードゲームの失われたルールを復元する研究所」という記事がネットに上がりました。
オランダ・マーストリヒト大学の研究所で行われている、コンピュータを用いてルール不明の古代のボードゲームがどのように遊ばれていたかを再構築する「デジタル考古学」プロジェクトです。
そこで使われているコンピュータのシステムの名称が

「LUDII」

……あれっ?!「LUDI」と似ているじゃないですか。
そう、Cameronさんは「Digital Ludeme Project」のチーフとしてバリバリ開発研究していたのです。
日本語で挙げられていた記事のソース元もこのサイトにありました。
「LUDII」のサイトもあり、公式版は2020年1月にお披露目のようです(2019年8月にはデモ版の「LUDII」をダウンロードできるようになりました)。
「LUDII」で遊べるボードゲームのライブラリを見ると、カードゲームやペンシルパズルもできるようで、カテゴリは更に広がっています。
ゆくゆくは世界初のAI考案「カードゲーム」「ペンシルパズル」が創造されるかも知れません。

いやあ、そんな壮大なことしているのを全然知らないまま、2年くらい経っていたのですね。
なんか謝る必要ないんですが、Cameronさんごめんなさい。

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