レマルク『西部戦線異状なし』――エロ小説書き、本を読む#6

 ひょんなことから、ガチガチのR18小説を書き始めてしまったアマチュア小説書き。でもだからこそ、本を読まなくちゃ!
 というわけで、中断していた読書感想記事を再開することにしました。相変わらず無節操な行き当たりばったり読書、よろしければどうかお付き合いのほどを。
 過去の読書感想 →https://zsphere.hatenablog.com/


https://www.shinchosha.co.jp/book/212501/

 2月に第一次大戦関係の新書を読んだので、その流れで手に取ったわけですが、そうしたらウクライナがあんな感じになってしまい、思惑以上にヘビーな読書となってしまいました。早く事態が終息するといいですね、戦争は嫌なものです。


 さて。そんなわけで読んでみた本作ですが。

 戦争文学はあまり熱心に読んできたジャンルではなく、ただなぜか妙なところだけ手を出していて、大西巨人『神聖喜劇』を気まぐれに読んでたり、梅崎春生『桜島』だけ再読までするほど読んでたり、それでいてこのレベルの有名作は今回初めて読むとか、まぁそんな感じの無節操ぶりです。どうも系統立てて読むのが苦手なんですな。

 とはいえ、読み始めてみて、「あぁそうだった、これが戦争文学の肌触りだ」とは思わせられました。

 

 何が残酷だって、前線にいる兵士にとって戦争は非日常じゃなく、日常になってしまうってことなんですよね。常時張りつめ続けていることなんて不可能だし、順応もしてしまう。戦争が日常になってしまった結果、戦争以前の日常に戻れない苦悩みたいなのは映画の初代『ランボー』なんかのテーマでもありますが。

 なので、前線にいるにも関わらず主人公を含む彼ら若者は時にのんきで、時に陽気で、時に悪ふざけもして。けれど塹壕の中で泥と血まみれになって死に物狂いで戦ってる自分たちを、皮肉交じりの冗談で茶化さなければいけないという状況の残酷さがひしひし伝わってくるわけです。

 

 これも以前SNSで見かけた話ですが、東日本大震災で津波にさらわれた遺体を回収するために浜辺を捜索する作業に従事した方々は、わざと冗談言ったりして陽気に笑いながらやっていたそうです。

 不謹慎だと言われかねないのでその様子は外部にはあまり見せなかったそうですが、しかし津波から既に何日も経って生存者は絶望的、そもそもご遺体が原型をとどめている事すらマレという状況で、粛々と真剣にやっていたら作業に従事している方々のメンタルの方がやられてしまう。だからわざと明るく振る舞うしかなかったという。

 物事を真剣に、厳粛に受け止めるという感性自体が、過酷な場所にあっては真っ先に摩耗してしまうのですね。

 本作で描かれている、時に緊張感を欠いた日常の描写というのも、そういうニュアンスなのでしょう。

 

 この辺が、実際に鉄火場を体験したことのある人と、平和で安全な場所からモノを言ってる人たちとの落差なんだと思う。厳粛なことなんだから真剣に受け止めろ、という言説自体が、平和ボケした残酷な物言いかも知れないわけですよね。

 

 そして、そのように必死に戦場に順応して、けれど第一次大戦という過酷すぎる場所で結局どんどんと人が失われていく。その様子が克明に描かれていました。

 おそらくは今ウクライナで、ウクライナ兵はもちろん、ロシアの個々の兵士たちもこういう状況に置かれているのかと思うと、重い読書がさらに重くなるばかりです。

 

 政治的メッセージは比較的おさえめで、現場の一兵士の率直な実感を綴ったような書きぶりが、この手の題材を扱った作品としては比較的読みやすくもあると思います。

 天下国家を論じた乱暴な言説の渦に陥る前に、こういう「現場の感覚」に想像を巡らせてみるのも悪くないのではないでしょうか。

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