『セブン』 その2
セブンについてもう少し書いてみようと思う。
好きなシーンがある。
物語の後半、第2ターニングポイントの直前にあるシーンだ。
犯人の殺人が進行し、4人目の被害者が出た。そして。
取り調べ室のテープが回っている。
セックスで娼婦を殺した男(真犯人では無い)が叫ぶ声
「ファック!神様 お願いです 助けてください」
取り調べ室で呆然と頭を抱える二人の刑事。
深夜のバー。土曜の夜で賑わっている。
大きくため息をつくミルズ。
サマセット「ハッピーエンドにはならない」
この映画は、ここまでお互いの差異を対比的に描いてきた。
サマセットは賢く、世の中に悲観的で、孤独で、辛抱強い。
ミルズは馬鹿で、世の中を正したいと思っており、妻との幸せも手にしている。辛抱が無い。
一週間の悪夢(現実)と、酒のせいで、互いを真っ向から否定しあってしまう二人。
ミルズ「あんたこそ素直じゃない なんでだ」
というミルズの言葉がサマセットの心に深く刺さる。
サマセット「いろいろあったのさ」
そこに彼の34年間の刑事人生が感じられる。
ひどいものを嫌と言うほど見た。悪魔のような所業を。
しかしそれは、すべて自分と同じ人間の手によるものだった。
サマセットという人物を作り上げた過去に思いを馳せている。
同時に、この若造に何が分かる、分かってたまるか、とも。
心の防衛本能がそうさせているのだ。
サマセットが躊躇しつつ、口を開く
「俺は、もう無関心が美徳であるような世の中はうんざりだ」
この台詞は明らかに、それまでのサマセットとは違う。
一定のペースを刻んでいた彼の口調とは違い、少々早口で、感情的だ。
ミルズに比べれば10分の1ほどの感情の差異である。
しかし、サマセットにとっては異常なことが起こっている。
ミルズ「あんたも同じだ」
サマセット「違うとは言ってない 俺にも十分理解できる」
互いの意見は平行線を辿り
そして、ついにミルズは口にする
「あんたは、世の中にうんざりしたから辞めるわけじゃない。
辞めるから、そう思いたいんだ。
俺に同意を求めている。
“ああ、世の中最悪だ。引退して山奥に住もう”ってね。
だけど俺は言わない。あんたには同意できない」
その言葉を言われた瞬間から、サマセットは目を逸らすことができない。
どこかで、そうかも知れないと思ったからだ。
世の中の捉え方を悲観的に設定することで、自らを守ってきたのでは?
自分はあの小僧のお守りをしていたつもりが、あいつに甘えていたのか?
世界の見方と立場がガラガラと崩れ、反転してしまう瞬間。
孤独な部屋に帰ったサマセットは、メトロノームを壊す!
初めて感情を爆発させるサマセット。
彼にこんな一面があったなんて(過去の堕胎の話に予感はあった)と、私は驚いた。
彼が刻んできた一定のペースは、いまや崩れてしまった。
メトロノームは欺瞞の象徴と化したのだ。
次に、飛び出しナイフをダーツがわりに投げるサマセット。
的に刺さったナイフをぐいっと乱暴に引き抜き、また投げる。
(カメラが的の主観視点のようになっているのも嫌な感じを倍増させている)
その表情は怒りで歪み、手つきは殺人犯そのものだ。本質的に人殺しと大差はないのだ。
二人の決裂(解散するわけではない。違なるだけだ)と、アイデンティティの崩壊を捉えた見事なシーンだと思う。
翌日は、念願の犯人逮捕が待っているが、二人にとっては人生最悪の日でもある。
「ハッピーエンドにはならない」
とあの時サマセットはミルズにたしかに言った。
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