父は油を売っていた
父が何の仕事をしているのか知らなかった。
大人になった今は、
彼は地方の商社に勤めていると知っている。
子供に「商社とは」を説明するのは難しい。
だから曖昧に濁されていたんだと思う。
それでも子供としては親が何をしているのか気になる。
「警察官」「八百屋さん」みたいに
分かりやすい一言が欲しかった。
私が小学生になると、
父はこう言うようになった。
「お父さんは油を売っているんだよ」
実際に機械オイルを取り扱っていたらしい。
もちろん慣用句としての「油を売る」は
サボってダラダラ仕事するという意味だ。
親戚の集まりでも同じことを言って
いつも笑いを取っていた。
こういった自虐を交えた営業トークで
様々なものを売っていたんだろう。
毎朝「俺は50歳で辞める」と言ってたが、
65歳を過ぎても再雇用で辞める気配がない。
そもそも仕事が好きなんだと思う。
今日も油を売りに出掛けているはずだ。
好きなだけ頑張ってほしい。
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