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ドーパミン活用法~脳は"かもしれない"に興奮する~

脳っていうのは不思議なもので「かもしれない」という状況にどうやら異常なほど強く反応するらしい。たとえば、美味しい料理にありつけるかもしれない、一生懸命に努力すれば認められるかもしれない、目の前の異性とどうにかなっちゃうかもしれない……そんな期待だけで、僕たちを激しく行動に駆り立てる。それは見方を変えれば、生きるのがやっとだった人類の長い歴史の中で何とかして生き抜くための生物学的能力ともいえる。

実際にそれが現実になった時よりも「かもしれない」という期待状態のときの方が、僕たちの脳はドーパミンをガンガン放出しているらしいのだ。この事実は、生きるということを根本から考えさせられる。食べることが生きることに直結しているから、食べる前の期待の方が生物学的には大事ということなのだろう。あらゆる欲を満たすためのプロセスそのものが、生存本能にとってはずっと重要だというわけだ。

ふと、小さな謎が解けた気がした。野球がこれほど多くの人をひきつけてやまないのも「かもしれない」効果があるからかもしれない。たとえば、2アウト2塁で、1本のヒットが出れば同点になる。もしホームランだったら逆転。こうしたドラマチックな展開は、そこまで珍しいことではない。9回裏となると場面は限られるが、1試合の中でそうしたチャンスは結構ある。そんなとき、観ている僕たちの脳内には、ドーパミンが出まくってるんじゃないだろうか。まして、応援しているチームや選手が関わる場合にはなおさらのことだ。

僕は以前、野球の構造的な面白さについて、考察した。

野球のダイヤモンドの設計が、この「かもしれない」場面を何度も作り出していることは疑いようがない。もしこれを意図的に考えたなら、天才だ。僕たちは、その手中で歓喜したり、悔しがったりして踊らされている。

もちろん、この「かもしれない」効果は、ビジネスでも活用できる。特に、セールスやマーケティングの世界ではかなり高度に機能する。

集客コンサルタントであれば「このコンサルティングを依頼すれば、顧客が300人増えるかもしれない」と思わせれば思わせるほど、顧客の脳内にはドーパミンが分泌されるということだ。40代からの化粧品を販売するなら「この商品を買えば、最近気になってきたシワを目立たなくしてくれるかもしれない」という気にさせることができれば、購買率はグッと上がる。

セールスライティングもデザインも、その効果を最大化するためのテクニックだ。より効果的に訴求するためのポイントを上げるとすれば、ひとつには「変化」だろう。いわゆる「ビフォア→アフター」だ。その変化のふり幅は、大きければ大きいほど、強烈になる。野球を良く知らない方には申し訳ないが、1回裏同点、1本ヒットが出れば勝ち越すかどうかという場面よりも、9回裏サヨナラのチャンスの方が、胸がドキドキするのと同じだ。

この「かもしれない」効果は強力だ。しかし、強力であるがゆえに利用する際は、誇大広告にならないよう慎重に扱う必要がある。