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DV相談のお仕事

聴く、聴きとるということ②

電話のコールが鳴る。「DV相談です。」

「DVを見ている子どもに影響が出てしまって」

きれいな敬語で話す女性だった。30代   小学1年生の娘がいる。夫は仕事の付き合いで飲んで帰宅すると暴れる。家じゅうの皿やグラスを壁に投げつけて割る。足の踏み場がないほど割れ物が散乱する。壁はへこんでいる。

「あなたへの身体暴力はないのですか?」    「ないです。見ている娘に身体症状が出て…」   チック症状、おねしょ、ぼーっとしている、学校でも授業に集中できない、休み時間も友達と離れて一人でいる。担任からも心配されている。

夫が帰宅する時間に娘は寝ている。でも大きな物音で起きてきてしまう。夫が物を投げて壊している場面を彼女の後ろで見ている。夫が自室に引き上げて静かになってから、彼女は割れた皿を拾い始める。夜遅いから寝るように娘に言うが、娘も一緒に片付けている。泣きながら。

「優しいときのパパと怒ったときのパパとどっちを信じればいいの?」

泣きながら娘が言うのだと彼女が話す。胸が痛い。聴いているだけで痛い。娘の苦しさ、娘に返す言葉がでない彼女の苦しさ。今の彼女になんて言葉を返そうか。聴く。

「あなたに向かって投げることはないのですか?」                  「無いです。でも…止めようとするとわたしを壁に突き飛ばして、のど輪をしてきます。そのまま首を絞められそうで怖いです。」

それは身体暴力であると伝える。DVを受けている人中には、殴る、蹴るだけを暴力だと思っている人がいる。首を絞める真似をされただけだから暴力ではない。叩かれたけど痣になってないから大丈夫と言う人もいる。

暴力の怖さは過小評価しがちであること、このくらいは大丈夫、これは暴力には入らないと。暴力はエスカレートする。この程度なら我慢できると思っても明日はこの程度では終わらないかもしれない。

そして大事な大事な話。          子どもにDVを見せるのは児童虐待にあたるということ。子どもへの身体暴力がなくても、見ている、聞いているだけでも虐待である。心身の発育途中の子どもは脳へのダメージが大きい。そして、直接暴力を受けるより、音、声などの耳からの情報、目からの情報のほうがさらにダメージが大きいとの調査結果があると研修で聞いた。

「あなたはDVの被害者、あなたは悪くない。憎むのは夫の暴力。でも、でも、DVのある環境に子どもをおくのは虐待。このままではあなたも虐待に加担していることになる。」

伝えられただろうか、言葉が足りただろうか。彼女を一方的に責めたように思われたのではないか。傷ついている彼女をさらに傷つけたのではないか。電話の向こうの彼女を想う。

電話相談は原則、匿名で受ける。受け手の相談員も名乗らない。だからプライバシーは守られる。最新の電話機ではないのでナンバーディスプレイもない。もう一度電話してくれる保証はない。一回勝負。だからこそ、聴きとる。伝える。情報提供する。

重大な虐待がある時はお名前を教えてもらう。児童相談所につなげるときもある。それは母を助けるため。母が助けられれば子どもも助けられる。あなたを助けたい。あなたの子どもも助けたい。

今の状況から抜け出す方法を話し合う。実家は帰れる場所か。DVの被害者が入れるシェルターがある。母子だけでアパートを借りて夫と別居した場合どんな支援があるか。

彼女にいろいろな選択肢があることを伝える。このあとどんな選択肢を選ぶのか。いつ選ぶのかは彼女が決める。今は選ばない、まだ選べないと言う人もいる。

また電話してほしい。わたしはいつでもここにいる。勇気をふりしぼって電話してくれたあなたは、それだけで一歩も二歩も前進した。自分の状況や気持ちを言葉にできたから、さらに前進できた。

相談員のわたしはどうだ?彼女に寄り添えたのか?伝えられたのか?分かりやすく説明できたのか?今日もまたひとり反省会。

※個人情報を保護するため相談内容は加工しています。個人を特定することのないように十分配慮して載せています。

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