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大卒1年で契約満了になった男の話

大きい1通の封筒が机に1枚。その横に給料明細が1枚。

なんとなくわかっていて、覚悟もしてた。満了でも仕方ないと。。。

実際に用意された椅子に座ると、何か殺伐とした空気が流れていて、声を出せば震えてしまうような独特な雰囲気を感じた。


その封筒を開くと一気に代表の目を見るのが怖くなった。


0円×12ヶ月=0


覚悟していたつもりがどこかで期待していたんだろう、、、
『来シーズン、ズー(俺のニックネーム)ならやってくれる』
そう言ってくれると。


現実は甘くない。面談は5分で終わった。


『さてこっからどうすっかな〜』晴天の空のせいだろう。

そんなことを呑気に考えながら、車で音楽を爆音にして事務所を後にした。


今シーズンをもって福山シティFCを退団することになりました。
契約満了=戦力外。


入団当初、1年で退団するなんて、「退団」の「た」の字も思ってなかった。


そりゃそうだ。希望に溢れ、ここで成長して活躍して、JFLに上がって必ずプロになって活躍する。そう意気込んで入団したから。

そういう意味で今シーズンの目標は「一」という漢字を選んだ。

1番成長して、1番チームを勝たせる選手になる。
サポーターのみんなが試合が終わった時に感極まってピッチに入ってしまうくらいのチームにする。

この目標は達成できずにシーズンが終わり、退団が決まった。。。


寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!

今回はそんな思いを持った男の一年を描いた物語。
はたしてその男が過ごした一年は???
物語の世界へようこそ。
じっくり見てってくださいな。

2022.1月
男の新天地での生活は広島県福山市。

社会人1年目でこの先どんなサッカー人生になるのか。

福山シティFCのサッカーは加入が決まる前にたくさん見た。

自分が苦手なことを長所としていて、見ていてすごいの一言だった。

男は『俺が苦手なことをこのチームで改善して成長すれば俺はもっとすごい選手になれる。』と思い、このチームを選んだ。


男の頭の中には高揚感と少しの緊張が入り混じって、不安という感情が頭に入る隙などなかった。


練習が始まって1ヶ月、男はあることに気付く。

自分がプレーしてミスをするのを怖がっている。その違和感は悪い方にどんどん進み、朝起きて、『よし、今日こそはうまくいく!』そう思って練習に行くが、練習が終わる頃には、『ミスしないようにプレーしないと』『みんなから怒られる』そんな思考に陥っていた。


男は次第にグラウンドに行くのが嫌になり、朝起きても頑張ろうという感情すら湧かなくなり、怒られないためにどうしようとばっかり考えていた。


そのタイミングでスタッフとの初めての面談があった・・・。

2022.2月
面談に向かう車の中、男は『サッカーを辞めたい』と正直に言おうと決意した。

事務所に着くと、部屋の中には、監督とコーチの2人が座っていて、独特な雰囲気が流れていた。

ふと、『サッカー人生がこんな形で終わるんだ。覚悟が足りなかったのか』いろんな感情が込み上げた。


椅子に座ると監督から
「加入してから調子はどう?」

『普段から何を見てるんだこの人は。良いわけないしどうしたらいいのか訳わかんねーよ』

そんなこと思いながら、
『わかりません」と静かな声で一言だけ答えた。

そこから男と監督、コーチ3人で2時間近く話して、男はいつの間にか大泣きしながら思いを語っていた。

男は当時のことをこう語る。

「俺はあの日、監督、コーチに救われた。どうすればいいか道を示してくれて、一人でも強くなれるように指導してもらった」

そこから毎日課題を克服するためのメンタルトレーニングが始まった。

2022.3-7月
そこから男は、人と比べるのをやめるようになり、自分がどうすれば理想の自分になれるかだけにフォーカスをあてて、毎日自問自答を繰り返し、失敗と成功を繰り返し、少しずつ、少しずつ精神的にも技術的にも成長していった。

毎日練習で出た課題をノートにまとめてどうすればいいかを自分で考えて、わからないことは監督、コーチに聞いて、ノートに書く。海外の試合をどんなに時間がない日でも最低1試合見て、良かったシーン、うまくいかなったシーンを切り取り、共通点はないか探す。

1日の中で良かったこと、悪かったことを3つずつ書いて、悪かったことをポジティブに変換してポジティブに捉える癖をつけて、それを続けて心の変化はあるかを調べる。


この作業をひたすら毎日繰り返した。自分の成長だけにフォーカスしてから1〜2ヶ月くらいしてからだろうか。

いつの間にか、男に対して仲間の見る目が変わってきたように感じた。

コミュニケーションの取り方が大きく変わった気がした。

男は自分が成長していることを実感し始めた。

しかし試合には1試合も出れない、ベンチにすら入れない。

しかし、男の心は試合に出る出ないどうでも良かった。

それどころじゃなかった。悔しいという感情はなかった。
・『成長が楽しい』
・『試合は成長したら自然と出れるだろ、まだその段階じゃない』
・『早く練習させてくれ。』
成長していることを楽しんでいたのだ。

男は、自分の成長を確信し、自信を持つ瞬間が訪れた。

7月の練習終わり、代表から1本の電話があった。

「鳥取県代表に選出された。行くか?」

8月。。。

2022.8-9月

男は迷った。男にとっては、今自分の精神状況といい、この成長できる環境を変えると、何かが崩れそうな気がして、行くことをためらっていた。

考えているうちに『今の俺ってチームを離れてどのくらいやれるのだろう。』そんな疑問が頭に浮かんだ。

試してみたい。


その直感で県代表に参加することを決意した。

男は県代表として3試合をフル出場して、試合には負けたが、そこで大きな自信を身につけた。


今シーズン初めて多くの試合をこなし、試合で活躍する楽しさ、試合に出る喜びを噛み締めた。

そして『俺はやれる。もっと成長してもっとすごい選手になれる』、そう思った。


持ち味の空中戦、対人を存分に生かし、苦手だった部分も大きく成長していた。

それは男自身もわかったいたし、みている人からもそういう言葉をもらった。

男は県代表に選んでくれた県代表の監督、そして一緒に戦った仲間に大きな感謝をしてスタジアムから福山に戻った。



福山に帰った男はまだ知る由もなかった。ここから天国と地獄を一気に見ることを。。。


帰ってきて男は初めてメンバーに入った。

男は『やっときた。やっとスタートラインだ。ここで活躍すればスタメンに近づける。』その思いで試合当日を迎えた。

しかし、試合には出る事はなかった。悔しかった。初めて悔しいと思った。
それと同時に

次節選ばれたらいい
この考え方が男を大きく狂わせた。

そこから2試合、練習試合が組まれた。
そこには普段試合に出てない選手が中心に試合に出た。

男は『ここで活躍したらメンバーにまた入れる、試合に出れる。ここでミスしたら次節はないぞ。』気合十分だった。と思っていた。

蓋を開ければ、活躍するどころか、足を引っ張っていた。

ボールを持っても次節試合に出るにはミスはできないという考えが頭から離れず、消極的なプレーを連発。

男は試合中パニックになった。

『なんで成長してきてて、上手くなっていってたのになんで、、、』昔の自分を思い出した。


人のこと気にして、怖くてプレーできなかった自分を。。。昔の自分が心の中で笑いながら語りかけてくる。


『ミスしたらあとがないぞ〜?結局お前はその程度なんだよ』

俺はこんなもんじゃないもっとやれるんだよ。なんでだよ。心の中は暗闇でその中一人で叫び続けている気分だった。

俺はここにいる。
やれる俺をみてくれ。

叫んでも届かない。男の良さが暗闇の水の中に溺れていくみたいだった。

試合は終わり、最悪の気分だった。

試合が終わってからも頭の整理がつかず、自分の出来の悪さに苛立ったっていた。


試合が終わり、監督に外から見ていて、どうだったのかを聞いてみた。


監督は、チャレンジするのを恐れていたように見えたという。

なんで急にチャレンジすることに恐怖を感じたのか?答えはすぐには出ず、試合会場から帰る車の中でもその疑問のことだけが頭から離れなかった。

家に着いて、ご飯を作りながら、2試合の出来事を振り返った。そこにヒントは隠れていた。

『昔の自分を思い出した。』


昔の俺ってどんなんだったっけ?


人の目を気にして、人からの評価が第一で、他人と比べていた。


この現象に今なってしまっている。
なんで?
『そうだ、試合に出ることを意識したからだ。』男は気付いた。


成長はどこへ消えていった?


他人との競争を一番に考えてしまっている。

試合に出るには、この人より良いプレーをしなきゃ。そんなことばっかり考えていた。


1回味わってしまった試合で活躍する高揚感、そしてやっとの思いで掴んだメンバー入り、そこで考え方が成長重視から結果を重視してしまったんだ。


この、結果を重視することが悪いことではない。

それを一番に考えた方が上手くいく人もいるだろう。


いやこの世界では結果が全て。
後者の意見で力を発揮する人が多いだろう。
しかし、男は違った。

あくまでも結果は成長の副産物に過ぎない。成長すれば自ずと結果が出る。このメンタル、考え方でないと自分が100%以上の力は出せないことに気付いた。男は笑った。『これ俺にとってすごい大事なことなんじゃないか?』


男は極端な方法をとった。

試合に出るのを諦めたのだ

それは決してネガティブな意味ではなく、自分が最高のメンタルで最高のプレーをするためだった。


そして男はそこからまた『成長』という名のゴールのない永遠に続く1本道を歩むことを決心した。

2022.10月
チームでコロナが多発した。

全国社会人サッカー大会(今後は全社と記載する)目前の出来事だった。

男にチャンスが回ってきた。

試合に絡めていなかった男には絶好のチャンス。

男は冷静だった。前回の失敗をちゃんと活かしていた。『試合で活躍より成長。成長していけば自然に結果はついてくる。大丈夫。いつも通りにチャレンジしていこう』


試合当日、男はもっと緊張すると自分でも思っていた。しかしいたって冷静だった。これも前回の失敗が活きたのだろう。


いざ試合。結果は0−1。勝つ事はできなかった。しかし男は、落ち込む事はなかった。


なぜなら、自分の今出せる100%を出して負けたから。落ち込む事はなく、チームを勝たせられなかったことに悔しさを感じていた。

男はその時、新たな感情が芽生えた。

それは自分だけではなく、チームのことも考えて、チームとしても強くならないといけないなと感じていた。


自分の成長+チームの成長を考えて今自分にできることをやっていかないと、この先一番大事な大会では勝っていけないと。。。

そこで男は自分にできること、発信し続けることをやり始めた。

練習前、練習中、練習終わりにチームメイトとコミュニケーションを多くとって自分の意見、人の意見を交換してみんなが100%を出しやすい関係を作ろうと考えた。

そして時は立ち、一番大事な今季最大の大会が幕を開けようとしていた。

2022.11月
今季のチームの最大目標であるJFLに上がる。
(=1年間戦うリーグのカテゴリーを上げる)
各地域リーグの一位、全社ベスト4のチームが集まり、リーグ戦を行い、上位2チームが昇格する。
過酷な大会が始まった。

チームはグループリーグ敗退。


そのピッチの上には男の姿はなかった。スタンドからピッチを眺めていた。

メンバー外。悔しさはあったが、応援するしかできる事はなかった。


2試合目には劇的な逆転勝利をしてスタンドで大喜び。他のメンバーと肩を組み抱き合い、試合終了後ピッチに走り込んでチーム全員で喜びを分かち合った。

最高のチームに加入できたなと心の底から思った。

チームのために声を枯らしてまで叫び、応援し続けてくれたサポーター。
脚が攣ってでも走り続ける仲間の姿。
いつもアドバイスをくれる先輩
常に高め合うことのできる同期
常にサッカーをやりやすい環境を作ってくれたフロントスタッフ。
俺の可能性を信じて、指導し続けてくれた監督、スタッフ
力強くあなたならできると支えてくれた代表

こんなすげーチームはない。
今シーズン苦しかった。とにかく苦しかった。けどその分人生で一番成長した。その自信がある。

しかし男の今シーズンはピッチ外という結果で幕を閉じた。

男は大会後、オフシーズンになったにも関わらず、体を動か続けていた。


来シーズン活躍できるように準備するという意味もあったが、男は少し覚悟していた。

今シーズン、チームの力に何もなれなかったのだから、首を切られても仕方ない。
違うチームを探す準備をしないといけない。
これはシーズン途中から少し考えていた。


けど現実にはあまり起きてほしくはないとも同時に思っていた。契約更新はあるはず…


代表との面談当日。

契約満了を告げられた。
現実は甘くない。結果の世界。男は改めて感じた。
しかし、人生は続く。

男の目標
不可能を可能にする人生にする。

何も決まっていない先の人生、この目標を叶えるために男は『成長』という名の永遠に続く一本道をこれからも走り続けていくのである。


男の物語はまだまだ続く。

石津大地物語 

福山編



2022.12.3 福山シティFC No.35 石津大地

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